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脱炭素特集

国内外から見直しの声高まる、日本の2030年温室効果ガス削減目標

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Karsten Würth

菅総理が宣言した2050年までの脱炭素やパリ協定の目標を達成するために、日本は2030年のCO2削減目標の見直しを強く求められている。政府は3月末に「気候変動対策推進のための有識者会議」を設置し削減目標への議論が始まったが、一方で約600の企業や自治体、NGOからなる気候変動イニシアティブ(JCI)は45%以上の削減を政府に提言する予定だ。この背景には、グテーレス国連事務総長がパリ協定目標達成のために、主要排出国に対してより高い排出削減目標を11月のCOP26までに提出するよう強く求めていることや、日本がこれまでに掲げる26%削減(2013年度比)目標が国際的にも「極めて不十分」と見られていることなどがある。(環境ライター箕輪弥生)

EUは2030年55%削減を表明、米国は50%削減目標か?

今年に入り、米国バイデン政権の発足に伴い、4月の気候サミットの開催公表、6月のG7首脳会合に向けた議論など、11月のCOP26に向け、気候変動対策推進に向けた国際的な機運が急速に高まっている。

この背景には、気候変動により世界各地で自然災害が拡大し、生物多様性にも大きな影響が出ている、まさに待ったなしの状況がある。多くの専門家が警告するように、2030年までに徹底した対策を講じなければ、後戻りできない“ポイント・オブ・ノーリターン”を過ぎ、人類にとって破局的な事態を招きかねない。

しかし、現在各国が提出している温室効果ガスの国別削減目標(NDC)を合計しても、2100年には2.3~2.6度の気温上昇が予測されている。パリ協定の目指す1.5度目標を達成しようとするなら、2030年に世界平均で45%の削減(2010年比)は必須であるとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は示している。

このため、グテーレス国連事務総長は、2月末、現在の各国の削減目標はこの目標にほど遠いと指摘し、主要排出国に対しより高い排出削減目標を今年11月のCOP26までに提出するよう強く求めている。

これに対し、EUは2030年55%以上(1990年比)への削減目標引上げと2050年までの実質排出ゼロを気候法案で法制化した。米国及びカナダは、4月22日の米国主催の気候サミットまでに、NDCの数値目標を引き上げ、公表すると表明している。

米国では気候変動の対策強化を目指してきたイニシアティブ「WE ARE STILL IN」が今年に入って「AMERICA IS ALL IN」と名前を変え、2030年に少なくとも50%(2005年比)の削減目標引き上げを訴えるほか、多くのシンクタンク、企業、科学者、NGOなどが少なくとも50%削減目標とするよう政府へ要請し始めている。

最大の排出国である中国も、2020年の国連総会一般討論演説で習近平国家主席は、「2030年までにCO2排出を減少に転じさせ、2060年までに炭素中立を達成するよう努める」と表明し、NDCを引き上げる意向を示している。

主要国の温室効果ガス削減目標および自然エネルギー電力導入目標

注) EUの自然エネルギー電力57%は目標値ではなく、EUの公表している推計値である。米国の「2035年までに電力部門からのCO2排出ゼロ」は、バイデン大統領の選挙公約
出典)自然エネルギー財団「欧州各国・米国諸州の2030年自然エネルギー電力導入目標」(2021年1月15日)、同「脱炭素で先頭を走る欧州 2050年ゼロエミッションの戦略と技術」(2020年12月)、同「2019年の電力消費に占める自然エネルギーの割合」(2020年6月25日)ほか各国政府資料等を基に気候変動イニシアティブが作成

日本での45%以上の削減は可能とJCIが試算

一方、日本政府が昨年3月にパリ協定に再提出した削減目標は2013年度比 26%削減と他国目標と比べて大きく隔たりのあるものだ。菅首相が昨年表明した「2050年実質ゼロ」との整合性も問われている。

この目標について、国際的な研究機関による共同分析「Climate Action Tracker」は、「極めて不十分」と厳しい言葉を投げ掛け、仮に全ての国が日本のレベルの目標にした場合、3~4度の気温上昇が見込まれると推測する。

このような状況をとらえ、政府は菅総理肝いりの「気候変動対策推進のための有識者会議」を設置し、3月末に第1回目の会合を行った。この会議にはエネルギーや気候変動に関する学者や研究者に加え、経団連の会長やソニー、イオンといった企業の役員らも名を連ねるが、2030年削減目標についての議論はまだ始まったばかりだ。

これに対し、気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、NGOの約600団体からなるJCI「気候変動イニシアティブ」はメンバーの賛同を募り、日本の2030年削減目標(NDC)を45%以上にするよう政府に今月にも要請する。

JCIの事務局団体である自然エネルギー財団や国際環境NGOのWWFは、再生可能エネルギーの活用や省エネにより45%以上の削減は可能だと示している。その理由として、日本の温室効果ガス排出量は2013年度をピークに減少が続いており、今後も省エネを進めるとともに、再生可能エネルギーを40~50%程度まで拡大し、石炭火力の廃止を進めることで十分可能だと試算する。

JCIの末吉竹二郎代表は、「日本が世界に追いつくためには、2030年までの削減目標の意欲的な引き上げと、そのゴールを確かにするために、この10年でいかにインパクトのある行動をするかが重要だ」と話す。

他国でも気候変動対策への民間企業やシンクタンク、NGOなどの声は高まりつつある。「もう政府の古い政策にしばられるのではなく、自分たちの目で見て情報を得て、みんなで声をあげていく時だ」とJCIの末吉代表が言うように、気候変動対策での非政府の意見の表明と、官民が協働するアンビションループの重要度が増している。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/