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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

フードロスに取り組む大学生がはじめた「おすそわけの心」を地域循環させる食堂

高知の中山間地域に、大学生がはじめた食堂「おすそわけ食堂まど」がある。その名の通り、規格外の野菜を生産者から無料や格安でおすそわけしてもらい、旬の食材をつかった日替わり定食を提供する。フードロスや子どもの貧困といった地域課題の解決を目指すその店を運営するのは陶山智美さんだ。食堂を通して、さまざまな人が地域課題の解決に加わり、おすそわけやその心が地域循環することを考えている。現在は間借りした店舗で夜のみ営業しているが、高知大学農林海洋科学部を卒業し、4月からは本格的に事業をはじめる。「おすそわけは豊かさ」と語る陶山さんに話を聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

「おかえりなさい」。夕方6時にオープンする食堂の扉を開くと、陶山さんが元気な声で出迎えてくれた。食堂は高知空港から車で北へ20分、香美市土佐山田町にある。古民家を改装した店の側には一級河川・物部川が流れる。昼は別の店が営業をし、夕方になると「おすそわけ食堂まど」は開店する。

食堂を始めたのは2020年9月。「まど」という名前には、食堂が身の回りで起きていることを知る「窓口」になり、おすそわけがつながる「円(まど)」となって循環していくようにとの思いが込められている。営業日時は火水金土日の18−22時。週末は大学の友人らがアルバイトで手伝いに来てくれるが、平日は一人で10席の店をまわす。

この日の定食は、市場には出回らない「間引きにんじん」をつかったポタージュ、鶏と間引き菜のバター醤油炒め、大根の浅漬け、ナスの味噌煮、春菊の白和え。焼き物、煮物、和え物をバランスよく揃え、季節の素材を生かした家庭料理は、心をほっとさせる。

料理する際には、素材の味が消えないように気を付けている。甘い人参なら甘さを引き立てるように、色がきれいだったらそれを生かす。「生産者さんの思いや、愛情をこめて育てたものを楽しんでいただけることを意識しています」と語る。

テーブルには、メニューとは別に、おすそわけ食堂の趣旨とお願いを書いた紙が置かれている。ていねいに自らの思いを綴った文章に、陶山さんの食堂を通して社会や地域に新たな変化をもたらしたいという決意が表れている。

「おかえりなさい。おすそわけ食堂まどへようこそ。
この食堂は、地元で出る行き先のない食材や有志の方からのおすそわけを使った、おうちごはんのお店です。今日のごはんも、ほとんどが優しい誰かのおすそわけでできています。どうぞ味わって、ご飯に込もった色んな想いを受け取ってください。あなたがお腹も心も満たされてお帰りになることが、私たちの一つ目の願いです。

もし、あなた自身が満たされたときは、もう一つのお願いを聞いてくれますか。
それは、あなたも誰かにおすそわけする存在になること。当食堂では、「フードロス削減」「子どもとお母さんの支援」「生産者の応援」など、様々な課題に取り組んでいます。あなたにできること・・・「明日は地元のお野菜を買ってみよう」とか「ごはんを残さないようにしよう」「人にちょっと優しく声をかけてみよう」みたいな、小さなおすそわけで十分です。その意識や行動が、明日の食卓、そして社会をつくっていきます。

陶山さんは、こうした「おすそわけの循環」がいまの時代には必要だと語る。

「おすそわけは人と人とをつなぐものです。メニューと一緒におすそわけしてくれた食材提供者の名前を紹介することで、つながりの上で成り立っている食材、食事だということを伝えられます。孤独を感じがちな社会なので、誰かの思いやぬくもりを感じながらごはんを食べられるということが必要ではないでしょうか」

年の瀬、2020年の最後の営業日には、週2回来てくれるという老夫婦、大学生、子連れの女性、一人客、テイクアウトしていく人など常連客が途切れることなく駆けつけた

おすそわけを循環させる方法としてのギフトエコノミー

日替わり定食の価格は税込みで、大人600円、大学生500円、高校生以下の子どもは200円。デザートは200円、ドリンクはそれぞれ100円。価格は、開業前にさまざまな人の意見を聞いて決めた。子ども食堂は無料ないし100―300円というのが相場のため、高校生以下の子どもは200円。近くに大学があることもあって、学生の「ワンコインがいい」という声を受けて大学生は500円にした。「経済的な余裕がなくてもお腹いっぱい食べてもらいたい」と話す。

しかし、食堂を運営しはじめて、当初の価格設定では思い描く課題解決型の、おすそわけを循環させる食堂を持続的に運営する難しさを感じることもあった。そんな時に、参加した「環境省&TABETE "No-Foodloss!"Youth Action Project」がきっかけで、東京で不定期に開店する、お客さんが料金を決め、満足した分だけ支払うという「鬼丸実験食堂」を知った。

その仕組みを参考に、大人はそれぞれの思いに合わせて、生産者への「おすそわけのお返し」として「プラス料金」を払えるようにした。支払うのはお金でなくてもいい。食堂の手伝いや自らが何かをおすそわけすることもできる。実はこうして「おすそわけのお返し」をすることで、おすそわけを循環させる仕組みが生まれてくるのだ。

プラスで受け取ったお金は、生産者への還元と、地域の子育て世代のお母さんを雇用するための事業拡大の準備資金として使う。「集まったお返しと使途は随時報告する」という。いわゆるギフトエコノミー(贈与経済)やペイフォワード、日本語では恩送りと呼ばれるものだ。

「こども食堂の機能を果たせる食堂を始めたいと伝えるなかで、『やってあげたい、与えたい、そればかりだと自分が消耗してしまう。そこは気を付けた方がいい』と言われたことがありました。ですから、一方が支援するというところから、もう一歩踏み込んだことをしたかったです」

いまでは、お客さんが600円の定食と200円のデザート、計800円分を注文し、1000円を払ってお釣りの200円は受けとらないといった方法などで「おすそわけのお返し」に参加してくれるようになった。

コスト面でこうした取り組みが定着していくなかで、採算的にはなんとか成り立っているという。しかし「アルバイト代を捻出する大変さを知った」とも語る。4月からは昼間の営業も始める。メニューを増やすほか、理念に沿う形で、現在は600円の大人の定食の価格を多少上げることも考えながら、課題を解決していくという。

おすそわけは食材に限らない。近所にある軍手屋さんがはねものの軍手をくれることもあれば、手作りの布マスクをくれる人もいる。軍手屋の店主は「野菜をくれる農家の人にお返しに渡して」と、軍手を持ってきてくれたという。布マスクは無料で配っているが、お客さん自身が値段を決めて「おすそわけのお返し」としてお金を置いていくこともある。そうして、おすそわけの心が食堂を介して少しずつ循環し、同時に余ったものが必要な誰かに届くようになっている。

子育て世代の女性を支える食堂をつくりたい

陶山さんは、鳥取県の中央部、日本海に面する湯梨浜町で育った。中学生の頃、世界の食料問題や貧困問題を知り、農業がその両方の解決策になるのではないかと考え、農業高校に進学。中山間地域の農家の支援に携わりたいと思うようになり、選んだのが高知大学だった。「高知は課題先進県といわれていて、取り組みが進んでいると思いました」と振り返る。

おすそわけ食堂の構想を練り始めたのは2019年の冬。大学3年生になり、改めて進路を考えるなかで、地元の子育て世代の女性が働ける場所をつくれないかと思うようになった。きっかけは農家でアルバイトをしていた時に出会った子育て中の女性たちだ。パートを掛け持ちし、働き詰めで、中には寝る時間もほとんどなく働いている人もいた。

「驚きました。でも、その人だけが特別だったわけではありません。高知県はひとり親家庭も多く、なんとかしたかったです」

ここで浮かんできたのが、フードロスへの取り組みだ。「高校時代に、野菜のはねもの(規格外品)がかなり出ることを知りました。効率を考えると、畑でつぶさないとしょうがないと分かってはいましたが、モヤモヤした気持ちがずっとありました」と話す。

陶山さんは食堂を始めるにあたり、さまざまな人に話を聞いた。そのなかで、県内のこども食堂で規格外の野菜が使われており、高知市中央卸市場が週2日、余った食材を子ども食堂に提供していることを知った。自身の食堂でも同じようにして取り組んでいこうと考えた。

昨年9月に食堂を始めた頃は、陶山さんも市場に食材をもらいに行くこともあったが、いまはほとんど行ってないという。地元の新聞やテレビで食堂が報じられたこともあり、近所や近隣市町村の生産者が市場に出回らない、シーズンを終えた野菜や傷のある野菜を持って来てくれるようになったからだ。野菜以外の食材や調味料は自ら調達しているが、野菜についてはそうした生産者のおすそわけでほぼまかなえているという。「捨てる予定だった野菜をもらってくれて本当に嬉しい」と感謝の言葉をもらうこともある。

簡単に諦めなくてもいい社会を

「みなさんの善意とほんのちょっとの他の人への思いやりで、この食堂が成り立つことが面白い」と陶山さんは話す。

「いまの世の中は、お金ですべてを生み出せる、それが当たり前になっています。でも、おすそわけ食堂はその当たり前をちょっと崩すきっかけになるかなと思います。もちろんお金も大事ですが、お金では手に入らないものもあります。私は経済的に大学に行ける環境ではありませんでした。でも、制度やさまざま人に支えられていまがあります。ですから、当たり前を崩すとか、人の思いやりに支えられて生きるということができたら、もっと可能性が開ける人、救われる人が増えるし、そう簡単に諦めなくてもいい社会がつくれると思います」

「おすそわけはひとつの豊かさだ」と陶山さんは言う。

「おすそわけには、わけ合う豊かさや、一緒につくる豊かさがあります。お金だけでは得られない喜びがたくさんあることはすごいことです。世界には70憶の人がいて、一生かけても全員に会うことはできません。でも、自分ができる範囲で誰かに何かをしてあげたり、それを受け取った人がその次の誰かに渡してくれるというバトンが繋がったら、世界中に届くのではないかと思います。だから、おすそわけなんです。私は私のできる範囲でバトンを渡していきたい」

4月からは、現在の店から車で10分ほど離れた場所で、「おすそわけ食堂まど」を発展させていく。卒業論文に追われながら、準備を進めてきた。食器や冷蔵庫も譲り受けたものを使う。

「ここからは頭の中にあるアイデアを一つひとつ形にしていきたい」と話す。いまは夜のみの営業で、立地条件からも、当初考えたような子ども食堂の役割が十分に果たせているわけではない。しかし移転先の近くには小学校がある。子ども食堂は全国的に週1−2回、月に数回などの開催が多く、毎日開く食堂は限られているが、ほぼ毎日開く子ども食堂にこだわり、実行していく。

メニューも増やす方針だ。店の近くにあるジビエの加工場から、脂身のない肉を安く買えるよう話が進んでおり、野菜以外の地産食材のフードロスにも取り組んでいく。ちなみに陶山さん自身も「農業にはイノシシ被害がつきものだから」と在学中に狩猟免許を取得している。

いよいよ社会人としての第一歩を、経営者として踏み出す。陶山さんは「これまで以上に責任を持ち、経営にも工夫を凝らして向き合っていきます。そして、お世話になっている地域の人に貢献していくことを大切にしたいです。地域の一人暮らしのお年寄りの方たちがきちんと食事をとれていないと聞くので、高齢者向けの宅食もやっていけたら」と笑顔をみせる。そして、ゆくゆくは高知以外でもおすそわけ食堂が開けるようにしたい、と未来を描く。

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