サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

Z世代など新世代は「消費」を変えるかーー新世代の原点や価値観をさぐる

  • Twitter
  • Facebook

これからの10年は2000年代以降に社会人になったミレニアル世代、Z世代が社会の中核になっていく。大量消費で育った世代と異なり、新世代はデジタルに強く、ダイバーシティを重視し、消費においてもブランドより自分の価値観に合うかを重視する。さらにその中の富裕層においてはフェアトレードや地産地消、オーガニックなど「エシカル消費」への関心が高い。自分たちの行動が社会にインパクトを与えられると考える人が多いのも特徴だ。なぜこの世代は「エシカル消費」に惹かれるのか。日欧の若者への取材を通し、変わる新世代の価値観を考える。(島 恵美)

オンラインで連帯する世界の若者

お菓子のレシピもインターネットで調べる森田ありあさん

「つい先日、私のSNSのストーリーがZARAのウイグル族強制労働に反対を表明する友人のリツイートでいっぱいになりました」。そう語るのは、パリ在住の大学生、森田ありあさん。日本人の両親とともに幼少期よりフランスで暮らし、現在はパリの大学に通っている。大好きな服を当たり前のようにネットで買うデジタルネイティブ世代だ。

フランスは黄色いベスト運動をはじめとする市民による日常的な抗議活動が特に盛んな国だ。高校時代には、誰しもが一度は学生デモや授業ボイコットを経験するほど、「正しくない」と思うことに意思表示をする習慣が根付いている。

特に20代以下のZ世代ではTwitterやInstagramを駆使したデモが活発だという。今回のZARAに対する抗議活動もSNSを活用して欧州の若者の間に広がった。NGOが用意したサイトから「賛同ボタン」を押すだけで、抗議メッセージがSNSのストーリーに配信される。普段はインターネットで洋服を買う若者たちが、オンラインでデモに参加する。

「私はアクティビストでありませんが、協力することはできます。ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)のように賛同する人が多いほど強い力になれるという場面では協力する人は多いです。例えば、フランスでは移民に対する警察の暴力が問題になっていますが、リツイートすることで、多くの人が怒っているという声を警察に届けることができます」

欧州の若者たちに共感を得たイシューは瞬く間に世界に伝播する。英語はもちろん、フランス語、ドイツ語、スペイン語など複数の言語を操る欧州の若者たちは国境を越え、容易に連帯する。それは企業の強制労働やBlack Lives Matterのような社会問題だけでなく、お気に入りのファッションやアートなど、ポジティブな情報も国境を越えてシェアされる。

取材の途中、「最近ベトナムで活動するお気に入りのアーティストを見つけたんです」と森田さんは教えてくれた。SNSを通して、地球の反対側で活動する(私たちからすると無名の)アーティストと簡単につながることができる。良いものを作り、発信すれば、世界の誰かが見つけてくれる時代でもある。

スウェーデンのグレタさんが始めた気候変動への対策を求める訴えに共感した多くのパリの高校生たちが学校を休んで大規模デモを開催した

Z世代はエシカルネイティブ世代

日本の若者はどうだろうか。今春に就職した武井加奈さん(仮名)は2019年から1年間、米国に留学していたが、コロナの影響で3カ月予定を切り上げての帰国を余儀なくされた。帰国後はオンラインを中心に就職活動を行い、サステナビリティ系の情報を発信する都内のウェブメディア企業に就職した。元々はサステナビリティやエシカルに関連する仕事を探したいと思っていたわけではない。だが、就職活動をする中で過去の自分の価値観を振り返ったとき、今の仕事に心ひかれたという。

「若いころアトピーに苦しんだ母はマクロビオティックを学び、オーガニック食品や健康的な食生活を大切にする人でした。その影響か、子どものころから私も食に興味があり、高校生の時は自分で健康食を学びました」

武井さんの周囲の友人たちは取り立てて意識が高いというわけでなかったが、オーガニック系の食品や化粧品にこだわる武井さんの価値観を普通に受容してくれたという。今でも、「加奈の好きそうなオーガニック化粧品みつけたよ!」という話題で盛り上がることもある。オーガニックやエシカルに関心があることは、好きなファッションスタイルの違いぐらいの感覚なのだ。

そんな武井さんが最近、特に同世代の価値観が変わってきていると感じるのは「クラウドファンディング」だという。クラウドファンディングは、インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する。出資者は投資目的で株主とは異なり、そのプロジェクトが失敗するかも、というリスクを前提にお金を出すこともある。経済的な見返りが目的ではなく、いわば1回限りの善意のつながりであることも多い。武井さん自身もクラウドファンディングで留学資金を集めるなど、ごく身近な存在となっている。

今を犠牲にして未来はない

関西の国立大学に通う猪原まゆみさんもクラウドファンディングを活用している一人だ。最近はインテリアや食器好きが高じて、食器をプロデュースするプロジェクトのクラウドファンディングを手伝っている。

猪原さんは学業のかたわら、ベンチャー企業の学生支部でリーダーとして活動するなど、積極的に大学外の活動にも参加していた。大学2年生の時にはカナダへの交換留学とニューヨークでインターンシップを経験。来年の春の卒業後はベンチャー企業への就職が決まっている。

さまざまなコミュニティやプロジェクトに参加したり、海外留学やインターンシップにチャレンジする彼女は、一見すると今どきのベンチャー企業を目指すアクティブな大学生だ。意識的にエシカルを意識したことはないという彼女だが、子どものころから海外の貧困問題などに関心があったという。

「中学生の時に社会の教科書に載っていたスラム街の写真を見て、これは本当なのだろうか、と思いました。そこで、大学生の初めての夏休みに、海外ボランティア団体が主催するスタディーツアーに参加しました」

滞在先のマレーシアではスラム街を訪問したり、戦争の話を聞いたりと、厳しい現実を目の当たりにした。その一方、日本と比べると経済的に恵まれていないマレーシアの人たちの方が幸せそうに見えた。いろんな意味で我慢を強いられる日本よりも、貧しくても自由に生きている彼らの方が幸せなのではないか、と思ったという。

「私にとっては、今の延長が将来で、将来の延長が人生です。今を犠牲にして未来の幸せはありません。だから、人々の『今』を大切にできる仕事がしたいと思っています」。彼女には、私生活を犠牲にして頑張ることを強要される伝統的な日本企業に就職するという考えはない。

一方で、保守的で安定志向な考えの若者も多いという。

「大学外のコミュニティで出会った友人たちはさまざまなことにチャレンジし、ベンチャー企業に就職していく一方で、大学の友人たちは大手企業、公務員などの安定した職業への就職を目指している人が圧倒的に多いです」

ただ、最近は積極的にチャレンジする猪原さんが羨ましいと言われるようになった。彼らは、本当は休学して留学やインターンをしてみたいのに、親の目が気になって行動できないという。

世界はより狭く、「ウォッシュ」は通じない時代に

Z世代の3人を取材して感じた共通点は、やはり彼らが「デジタルネイティブ」であるということだ。SNSの登場で世界はより一層狭くなった。コロナ禍でも、Z世代の若者たちはオンラインのつながりを駆使し、仕事を見つけ、共感するものは拡散し、とたくましく生きている。高校生になる頃にはほとんどの人がスマホを所持する彼らは、InstagramやTwitterなどのSNSでつながることに長けている。良い情報も悪い情報も瞬時に世界を駆け巡る。

彼らはいつも「エシカル」を意識しているわけでないが、何か共鳴するものがあった時は、SNSを通して発信する。ときには、クラウドファンディングを通じて直接消費者に訴えたり、SNSで連帯して自分たちの意見を表明する。同じ考えを持つ仲間がつながり、ダイレクトに世界に発信できる時代なのだ。

また、Z世代は「経済成長のために我慢し続けても世界は良くならない」ということを体感して育った世代でもある。表面的に「善」を取り繕った「エシカルウォッシュ」はすぐに嘘だと見抜かれる。個人やコミュニティを犠牲にして経済成長するという考えは彼らには通用しない。

逆に社会を良くしたいという価値観に共感が得られれば、SNSで拡散され、賛同者が集まりやすい時代でもある。目先の利益ではなく、誠実に良いものを提供しようという姿勢がこれからの消費者の支持を得られるのかもしれない。

  • Twitter
  • Facebook
島 恵美 (しま・えみ)

ESGビジネスライター。IT企業でサステナビリティ担当を15年経験。企業の内側から環境・社会(CSR)・コーポレートガバナンスの社内変革・体制構築を一通り経験。企業の立場から実効性のあるESGについて考えています。モットーは「明日、ビジネスに役立つヒント」をお届けすること。2017年から2年間パリで生活。2児を子育て中のワーキングマザー。