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森林資源でエネルギー自立と地域内炭素循環をーー宮城「VESTAプロジェクト」が始動

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未利用木材をチップ化して電気と熱を作り出すエネルギー資源にする

森林資源を余すことなく活用してエネルギーの自立と地域内の炭素循環をはかる新たな取り組み「VESTAプロジェクト」が宮城県大崎市で始まった。CHPと呼ばれる熱と電力を同時に供給するコージェネレーションシステムを使って、これまで捨てられてきた木質系の副産物や林地残材をチップ化して電気と熱を作り出す。作った電気は地域の電力会社に売電し、熱は新たに作られた「サステナヴィレッジ鳴子」で地域熱供給をする。エネルギーの地産地消だけでなく、持続可能な森づくりやエネルギー施設の見学も地域の魅力として発信するこのプロジェクト。新たな地域経済の循環モデルとして他地域にも水平展開していく方針だ。(環境ライター箕輪弥生)

カスケード利用で森林資源を余すことなく使い切る

建材になるA材、B材以外のC材などもすべてカスケード利用する

国土の約7割を森林が占める森の国日本だが、木質資源の活用では欧州などのバイオマス先進国から比べると、かなり遅れているのかもしれない。というのも、森で伐採された木が建材として使われる「歩留まり率」は、林野庁の調査でも50~55%程度。「実際追いかけてみたが、端材も含めて25~30%ぐらいではないか」と「VESTA(ウェスタ)プロジェクト」のプロジェクトリーダー大場隆博さんは話す。林地残材として山から搬出されずに放置される未利用材も多く、その量は年間で約2000万m³も発生している。

ドイツ、オーストリアなどの欧州のバイオマス先進国では100%まで木質資源を使うことを実現しているのに対し、日本は木質資源を使いきれていないことが明らかだ。

このような問題をとらえ、「VESTAプロジェクト」は木材を余すことなく利用する「カスケード利用」を徹底し、木材を建材や家具へ利用し、これまで廃棄されていた製材の残材、おが屑、樹皮、枝葉もエネルギーとして活用し、歩留まりを100%にすることを目指している。

薪もカスケード利用のひとつ。近隣エリアには「薪ステーション」も設置されている

その仕組みはこうだ。まず間伐材の未利用材を日本製の「木質チップ乾燥コンテナシステム」を使いその場でチップ化し、乾燥させる。それをドイツ製のCHP(Combined Heat and Power)「熱電供給システム」により50kwの発電と130kwの熱エネルギーを作り出す。作った熱エネルギーは敷地内の「サスティナヴィレッジ鳴子」にある集合住宅や戸建ての冷暖房として使われる。CHPによる地域熱供給は日本で初めてだという。

含水量50%の木質チップを12時間で5%まで乾燥し、そのまま輸送、ストックできる乾燥コンテナ
枝葉も燃やす木質チップボイラー。CHPのメンテナンス時は熱を作るバックアップボイラーとして働く
ドイツ製のCHP機。来年はCHPから出た熱を吸着式冷凍機により冷やして冷水にし、冷房にも使う予定

「サスティナヴィレッジ鳴子」の賃貸アパート2棟、戸建て1棟はすでに完成し、建築中のものもある。地元の杉材を使って木造建築の伝統工法「板倉構法」で建てられた賃貸住宅はコンパクトながら、電気も熱も再生可能エネルギーを使い、非常時は電気、熱、水のオフグリッド供給が可能になる。

神社などにも用いられている伝統的な板倉構法で建てられた集合住宅

エネルギーの地産地消は地域の経済を動かし、脱炭素を進める

これまで山に残されてきた林地残材もここでは大事なエネルギー資源となる

「2011年の東日本大震災の時には、津波で助かっても寒さで凍死する人も多く、熱の重要性を痛感した。それから身近にある森林資源で地域のエネルギーを賄うことはできないかとバイオマスの熱事業に取り組んだ」と大場さんはプロジェクトに取り組んだきっかけを振り返る。

大場さんは、化学処理をせず煙と熱で木材を燻煙するくんえん加工を行う製材所「くりこまくんえん」(宮城県・栗原市)の事業にもかかわり、木質ペレット燃料の製造や持続可能な森づくりにも取り組んでいる。その一方で熱供給事業を主とするウェスタ・CHP(宮城県大崎市)の立ち上げに参画し、「VESTAプロジェクト」をスタートさせた。

くんえん乾燥された杉材はワイスワイス(東京・新宿区)の椅子にも加工される

「過疎化が進む中山間地域にとってそこで暮らしていくためには地域にある資源で収入を得ること、そしてお金が地域の外に出ていかないこと。そのためには森林資源を中心とした循環型の地域の暮らしをつくり上げることが重要だ」と大場さんは考える。

「VESTAプロジェクト」が展開されている場所は、千年以上の歴史を持つ鳴子温泉に近い山間地にある。バブル崩壊でリゾート開発が失敗し、乱伐され荒廃した森を蘇らせるために、NPO法人しんりんが活動する「エコラの森」に隣接する。

NPO法人しんりんでは木を作業道まで運び出したり、下草刈りに馬を活用している

NPO法人しんりんは馬搬と小型林業機械を使った山を傷めない森林整備を行い、間伐した材はVESTAプロジェクトの燃料に、また「サスティナヴィレッジ鳴子」の建材にと使われている。木材チップで作った電気は、隣町の加美町が出資して作った新電力事業「かみでん里山公社」に売られ、必要な電気もここから購入する計画だ。

さらに、VESTAプロジェクトの視察や持続可能な森づくり体験、環境教育、アウトドア事業などをコーディネートする、地元の温泉旅館やNPO、有志が作った「鳴子温泉もりたびの会」も動き始めた。

つまり、エネルギーの地産地消をすることが、地域の脱炭素化を推進し、地域のさまざまな事業につながってお金がおちていく。「地域の森林資源を地域全体として共有していかなければ森の未来はない」(大場さん)と考えているからだ。

「VESTAプロジェクト」は行政の補助金に頼らず民間事業として行われている。チップボイラーやCHPの機械の選定も自分たちで行い、地域熱供給の仕組みもエンジニア会社を入れずに自ら設計する。新しい地域産業の誕生だ。

来年度は木材乾燥施設とペレット工場を隣の栗原市に作り、さらなるカスケード利用を促進する予定だ。

新たなペレット工場ではおがくず、バークなどもすべてペレットにしていく予定だ

「事業が軌道に乗れば他の地域にも水平展開をしていきたい」。大場さんらの構想は、過疎化が進む中山間地域の課題を解決する新しい仕組みとして広がりを見せそうだ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/