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日本、2050年温室ガス実質ゼロへ:識者・企業に聞く 「これからの10年が勝負」

日本が新しい経済社会への一歩を踏み出した。菅義偉首相は26日、成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると所信表明演説で発表した。世界における脱炭素経済への移行が必須となる中、日本は、国際NGOや国内の若者の団体などから気候変動対策の早急な転換が求められてきた。これまで国の方針が定まらず、企業も再生可能エネルギーやそれに伴う事業への転換に遅れるなどの課題を抱えてきた。将来世代の未来を左右し、日本経済の転換点となり得る今回の決定。具体策に注目が集まる中、識者や企業に話を聞いた。(環境ライター 箕輪弥生、サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

日本のCO2排出量は中国、米国、インド、ロシアに次いで世界第5位

日本政府が「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」方針を発表した。すでに欧州連合(EU)をはじめ世界122の国と地域(経済産業省)が「50年実質ゼロ」を目標に掲げており、日本も遅ればせながら世界の潮流のスタートラインに並んだと言える。

そもそも、世界の平均気温を産業革命以前に比べて1.5度に抑えるように努力するパリ協定の目標を実現するには、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を森林や海洋などの吸収分を差し引いて実質ゼロにする必要がある。しかし、日本はこれまで2030年度に2013年度比26%削減し、2050年までに80%削減という目標を掲げるのみに留まっており、海外からは「パリ協定の精神に反する」と大きな批判を受けていた。

本気で「50年実質ゼロ」を実現するためには、何よりもまず電力における脱炭素化が必須だ。国内の二酸化炭素(以下、CO2)排出量の約4割が発電部門から排出されるからだ。

世界ではすでに目標を達成するために、クリーンエネルギーへの転換と、そのための投資が加速している。

欧州委員会は今年1月に、「欧州グリーン・ディール投資計画」を発表し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への投資など、今後10年間に官民合わせて少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)の巨額投資を目指すことを発表している。

最大の温室効果ガス排出国である中国は、同時に最大の再エネの電力生産国でもある。再エネへの投資額は全電源の約7割を占め、今年9月には習近平国家主席が「2060年に排出実質ゼロ」を目標とすることを発表した。

米国では、来たる大統領選の民主党候補・バイデン前副大統領がクリーンエネルギー経済を実現するために2兆ドル(約214兆円)の投資計画を発表し、「2035年までに二酸化炭素を排出しない電力業界の実現」という目標についても言及している。バイデン候補が大統領となった際には、米国のエネルギー政策が大きく転換する可能性がある。

現在、資源エネルギー庁は2年前の2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」を見直す作業に入っている。現状の計画では、2030年時点の電源構成を、再エネ22―24%程度、石炭火力 26%、原子力20―22%程度と定めているが、今回政府が「50年実質ゼロ」を表明したことで目標達成との乖離は大きく、電源構成についても見直しは必至だ。

環境省の調査では、日本が持つ再エネの導入ポテンシャルは非常に大きい。同省は、ポテンシャルは電力需要の6倍以上、経済性を考慮したシナリオでも約2倍と推定している。資源、技術、資金があるにもかかわらず、これまで再エネが国内で大きく伸びてこなかったのは政策的な後押しや支援が欠けていたことも大きく影響している。逆に言えば、今回の「50年実質ゼロ」の政府の表明は再エネの普及、脱炭素への追い風になる。

脱炭素が国際競争力の必須条件に

企業にとっても再エネを潤沢に使えないのは国際的な競争力に大きく影響する。現在すでに再エネの発電コストは石炭火力を下回るものになっている。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告書によると、2019年に導入された再エネの発電容量の半分以上で、最も安価な新規石炭火力発電よりも発電コストが低かったことが報告されている。

さらに、EUは温暖化対策が不十分な国からの製品への「国境炭素税」を検討し、米アップルはサプライチェーンにも再エネ100%の事業経営を求めるなど、企業にとっても脱炭素をしないことがリスクになってきている。つまり、脱炭素は国際的な競争力を持つための必須条件になってきているのだ。

すでに東京都や京都市、横浜市をはじめとする163の自治体が「50年までに実質ゼロ」を表明している。また、2018年7月に企業や自治体が立ち上げた「気候変動イニシアティブ(JCI)」には現在500を超える企業や自治体が参加し、政府に早い時期から「50年実質ゼロ」を訴えている。

今回政府が「50年実質ゼロ」を発表した背景には、パリ協定との整合性だけでなく、企業や自治体など需要家からの強い要望を無視できなくなった事情が大きいと言える。

国の新たな方針に、企業も期待を寄せている。花王は「世界が直面する気候変動という共通課題の解決に向けて、日本の強いリーダーシップを期待する」と語り、「当社のESG戦略の中でも、脱炭素やゴミゼロなどは重点取り組みテーマの一つ。業界を越えた連携で、取り組みを加速していく機会になる。日々使う製品のメーカーとして、実質ゼロ移行時の、暮らしへの負担を少しでも和らげられる商品やサービスを、業界内外での連携も模索・推進しながら提供していきたい」とした。

新電力のみんな電力(東京・世田谷)は、「脱炭素社会と気候危機対策に向けた政府の規制改革の本気度を感じる。排出量ゼロを実現するためには、影響力のある企業や自治体が生活者を巻き込み、生活者自身がCO2ゼロを実現する仕掛けが必要だ。企業には(CO2の排出量より吸収量を多くする)『カーボンネガティブ』の発想で推進してもらいたい。気候変動対策に取り組むベンチャー企業に長期的な視点で投資する、ESGベンチャー投資にも期待する。一方、家庭から排出されるCO2の約半分は電気によるもの。気候危機を自分ごととして捉えてもらい、再エネへの切り替えを進めたい」と話した。

これからの10年が勝負に 産業界でも本来の挑戦が始まる

古野 真
気候変動に関するアジア投資家グループ(Asia Investor Group on Climate Change)プロジェクトマネージャー 、『ThinkESG.jp』編集長

日本が2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指すと発表したことは、地球にとっても、また気候変動に対する野心的な行動から恩恵を受ける日本企業にとっても素晴らしいニュースだ。 投資家は、2030年のエネルギーと温室効果ガス排出削減目標を更新したことを皮切りに、日本経済の脱炭素化へのスムーズな移行を促すような、近い将来の具体的な施策にも注目している。

日本が脱炭素へ舵を切ることで現在、アジアの三大経済国、日本、中国、韓国は、今世紀半ばまたはそれに近い時期に炭素排出量実質ゼロを達成するという明確な目標を掲げている。これは世界的に見ても重要なシグナルであり、取引先の政策やサプライチェーンの需要がゼロエミッションへとシフトしていく中で、気候変動対策に遅れをとっている企業や他のアジア諸国は競争上不利な立場に置かれることになる。サプライチェーンの多元化においても、相手国の脱炭素化もカギになるだろう。

政府がようやく脱炭素化を成長戦略として位置付けたことは、産業界、資本市場、そして国際社会の日本に対する期待に応える形で、スタートラインに並ぶことを示す。長期目標を立てたところから、本来の挑戦が始まるだろう。今後の10年間が勝負で、2050年までにCO2ゼロを目指す場合、2030年までに現在の排出量の半減が中期目標となる。あらゆる方策がある中、市民セクターや若者世代を含む幅広いステークホルダーを交えた議論と明確な道筋を期待したい。

投融資が脱炭素に進む、仕組みづくりを 日本企業のイノベーションに期待

吉高まり
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト

先進国においては、欧州が脱炭素経済移行に大きく舵を切り、米国の民間セクターや自治体、中国政府等も積極的に取り組んでいる。菅首相が所信表明演説の中で、「宣言」という形で発信したことは、内外への公約と言え、脱炭素経済への移行に向けた英断だ。特に、米国大統領選挙前に打ち出せたことは、どちらの候補者が勝っても、日本の立場が揺らがないという点で国際的に意義がある。

金融機関においては、リスク管理としての座礁資産(市場や社会環境の激変によって価格が大幅に下落する資産)の解消が急速に進むと同時に、クリーンエネルギー、温室効果ガス削減産業市場への資金導入のゴーサインとなる。ESG投資では気候変動が重視されているが、これは株式市場が主流。欧州では中央銀行(ECB)が、企業の発行するグリーンボンドを購入しており、さらに、グリーン国債、グリーン・リンクト・ローンなどでさらに、気候変動に関連した事業に資金が流れている。気候変動が金融を動かしており、このような動きが国内でも出てくるだろう。三菱UFJフィナンシャルグループも2030年度までにサステナブルファイナンスを20兆円という目標を掲げ、気候変動に関するファイナンスをさらに加速させる。

日本がグリーン・リカバリーを果たし、経済面で復興していくには、金融業界がさらに動きやすくなるよう、具体的な規制緩和や公的資金の導入などの政策が掲げられる必要がある。また、カーボンプライシング(炭素の価格付け)が重要だ。投融資が脱炭素の方向に進むためにはアセットをきちんと金銭価値化する仕組みがなければならない。欧米では、CO2排出に関するプライシングのデータが蓄積されており、金融機関がアセットの価値を算定してきた歴史がある。しかし、日本にはそれがなく、これでは日本企業の価値が測れない。

注目しているのは、2年後に決まるエネルギーミックス(電源構成)の計画、具体的なトランジションのシナリオと、2050年の産業構造のあるべき姿。特に、産業の自家発電の脱炭素化、少子高齢化が進むことによる分散化したエネルギー需給構造などだ。

日本は、新型コロナウイルス感染症の影響が先進国に比べると低く、激甚災害からのリカバリー力が高い。一方、資源は少ない。そのような国がどのように脱炭素社会をつくれるのかという点では世界的なモデルになれるのではないだろうか。なぜなら、そのような国は自立した強靭な国となり得るし、そのようなモデルを求める国はアジアには多いからだ。日本の企業はこれまでもさまざまな困難を乗り越え、新たな経済を築いてきた。モデル国になるようなイノベーションを起こすことを日本企業に期待する。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/