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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

セイコーエプソンがデジタル技術で目指すテキスタイル業界の変革とは

Presented by セイコーエプソン

左からインタビュアーのサンメッセ総合研究所代表(サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサー)田中信康、セイコーエプソン プリンティングソリューションズ事業部 P事業戦略推進部兼IIJ営業部 奥苑一臣部長、同事業部 P第四企画設計部 Digital Textile Printing シニアスタッフ 丸山紗恵子氏。デジタル捺染でプリントされた布が鮮やかだ

突出したインクジェット技術を持つセイコーエプソンが、テキスタイル(布地)業界でイノベーションを起こそうとしている――。そう聞くと意外に思われるだろうか。ファッションブランドに必須の捺染(なっせん・いわゆるプリント)技術。紙への印刷がアナログ印刷からデジタル印刷に変化したように、アパレルにおける布への捺染はいまデジタル技術によって変革しようとしている。その先に目指すのは多方面からの社会課題の解決だ。同社の奥苑一臣氏と丸山紗恵子氏は「イノベーションへの挑戦のために広く協働することが不可欠だ」と連携を促す。

新たな技術で実現するソリューション

田中信康:工場で実際に捺染機を拝見して、デジタル捺染の技術、クオリティがここまできているのかと驚きました。

奥苑一臣氏(以下、敬称略):「デジタルならでは」の鮮やかで繊細なプリントで、デザインの可能性を広げることを実現できたと思っています。セイコーエプソンの捺染機のラインナップはグローバルのショールームやソリューションセンターで公開していますが、お客様からのテスト印刷のご依頼もお陰様で増えており、注目度の高まりを感じています。

田中:ソリューションセンターにはプリント工程だけでなく、実際のお客様の工場を再現しており、前処理や後処理も含めたデジタル捺染の全工程の設備を備えられていますね。セイコーエプソンは「インクジェット・イノベーション」を掲げていますが、品質だけでない、デジタル捺染による社会課題の解決とはどういうものでしょうか。

奥苑:いわゆるアパレル業界を中心に、捺染事業の主な課題としてあがっているのは、労働環境改善と環境負荷軽減です。サプライチェーンの構造上でさまざまな負荷が指摘されています。造したアパレル製品の破棄量も多く、問題視されているとも言われています。

こうした課題の背景には、やはり製造コストがあります。バングラデシュやインドなど、比較的人件費の安い場所で大量に印刷・製造せざるを得なくなり、消費地から離れた土地だからこそ環境負荷が無視されてしまうということも起こりやすくなっています。また、アナログ捺染は比較的工程が多く、大量のエネルギーと水を使い、完成品までの工程が長く、時間もかかります。ケミカルを多く使い高温の中での作業になるため過酷な労働環境です。

デジタル捺染はこのソリューションの一つになります。生産するロットによってはアナログとの損益分岐点がありますが、労働環境の大幅な改善が行え、製造工程の短縮化を実現し、職人技ではなく比較的経験の浅い人材での運用が実現できます。インクや生地のロスがほとんどなく、水もアナログに比べて大幅に削減できます。

「デジタル捺染」普及のカギは

田中:現在のデジタル捺染の普及率はどれくらいでしょうか。

丸山 紗恵子氏(以下、敬称略):捺染の市場はアナログもデジタルも伸びていて、今後も伸び続けると予想しています。アパレル業界の需要は今後、服を着ない文化が流行するなどしない限りは増え続けていくと考えています。その中で、実は捺染全体のうちデジタル捺染は今、10%程度を占めているにすぎません。

田中:90%がアナログ捺染ということですね。逆に言えばデジタル捺染事業には大きな伸びしろ、ビジネスチャンスがあるということでしょうが、普及における課題は。

奥苑:やはり素材メーカーさんとブランドオーナーさん、この両面にどのようにデジタル印刷のメリットを理解してもらい、コミュニケーションを取っていくか、という点です。紙への印刷では数年前にアナログ印刷からデジタル印刷への移行が一気に加速しました。捺染の業界でも環境に対しての意識が高まり、サステナビリティというキーワードで取り組まれているブランドオーナーさんが増えているので、サプライチェーン上での改善要求は高まっており、このCOVID-19でニーズは顕在化していると考えています。

田中:環境負荷低減やサプライチェーン全体への配慮は確実に価値になります。捺染事業、アパレル業界だけでなく、社会全体の中でのサステナビリティへの関心度という意味でもそういった価値への理解はひとつの課題かもしれません。

奥苑:訴求に関して、セイコーエプソンの捺染事業としてアドバージがあるのは、高級捺染で培った技術と経験値です。世界有数の捺染拠点、イタリアのコモ地域で技術を培ったロブステリ社、フォルテックス社がグループに合流した2015年頃から、セイコーエプソンの捺染事業はさらに技術力を高めてきています。

デジタル捺染の技術は非常に複雑です。生地や素材によってインクの使い分けが違いますし、布の状態で品質が左右されることも多く、ノウハウやコンサルティング能力を求められる業界です。製品によって発生するさまざまな顧客のニーズに合わせて技術で応える必要があります。

その知見を持っていることは、大きなアドバンテージだと考えています。ご提案の引き出しが多いわけです。私たちはインクジェットのヘッドやハードの開発のみならず、インク、ケミカル、ソフトウェア開発も掌にのっているのが大きな強みです。

田中:連携によってビジネスの幅がかなり広がる業界でもありますね。

奥苑:素材メーカーさんへの訴求では、デジタルに適した素材を開発していただけるか、ということがひとつのポイントになります。例えばインクの開発や生地開発の段階から処理の過程を変えることで、よりクリーンな環境でアパレル製造ができると考えています。そのイノベーションを、さまざまな連携によって一緒に起こしていきたいですね。

強い気持ちで挑戦 セイコーエプソンのイノベーション

田中:「デジタル捺染」という工程から生まれる消費者のメリットについても教えてください。

丸山:特に販売機会のチャネルが多様化してきている背景がありますね。店頭だけでなくECなどが普及し、しかもすぐにお届けします、という販売形態だと在庫管理が複雑になります。同時に消費者のカスタマイズ・ニーズも増大しています。

デジタル捺染技術の活用でサプライチェーンを短縮することは、そういった消費者のニーズに応えることに貢献し、ブランドオーナーさんにとっては事業課題の解決につながります。
環境負荷の低減や労働環境の改善もすべてが関係しますが、「分散印刷」がひとつのキーワードになってきています。より消費地に近い場所で生産ができる環境を、セイコーエプソンの技術とソフトウェアの開発で実現できれば、アパレル業界にイノベーションを起こせるのではないかと目標を掲げています。

奥苑:また、服は季節による商品ですから、通常販売するシーズンの約半年前に生産が始まるんです。そのことも環境や労働条件など全体に負荷をかけています。「その季節につくった服を、その季節に販売する」というニーズに柔軟に対応することも目指しています。

田中:デジタル捺染技術による環境負荷低減、労働環境改善、サプライチェーンの短縮、それらがもたらすイノベーションがよくわかりました。デジタル捺染は、特に国内では未知の領域に挑戦する事業であると感じます。セイコーエプソンの今後の戦略について教えてください。

奥苑:セイコーエプソンの長期ビジョン「Epson 25」では、6つの価値創造ストーリーを掲げています。「気候変動と資源の枯渇への対応」「持続可能な社会実現に対する期待の高まり」「生産の向上・匠技術の伝承」「ライフスタイルの多様化への対応」「インフラや教育、サービスにおける地域格差の拡大」「危険・過酷な労働環境」です。

デジタル捺染事業はこの6つのキーワードに貢献できる点が多くあると考え、力を入れ始めている事業のひとつです。プリンターで培ったインクジェットの技術を中心に、関連する広いブランド、事業者の方々と協働しながら、「アパレル業界にイノベーションを起こす」というコンセプトがあります。そのためにはやはり、事例をつくっていくということが必要だと考えています。

セイコーエプソンはコンシューマ製品を中心に「大量生産、大量販売」というプロダクトアウトの事業が中心で成長してきました。このデジタル捺染事業は我々にとって新たな挑戦であり、お客様のビジネスに徹底的に寄り添うことによって業界にイノベーションを起こせると信じています。したがって、様々なパートナー様との協業を経て私たち自身の知見を積むということも急務だと考えています。私たちも強い気持ちを持って、社会と、私たち自身のイノベーションに取り組みたいと考えています。
 
 

アートディレクター・鷺森アグリ氏の世界観、デジタル印刷で表現

<セイコーエプソン>

鷺森アグリ氏によるデザインを、昇華転写技術を用いたデジタル印刷で表現。今後、技術の社会的価値がデザインやブランドの世界観の表現につながっていくのかもしれない

先日行った新製品発表会の際に、アートディレクターとコラボレーションした展示として、鷺森アグリ氏のデザインをインクジェットプリンターでプリントしたものだけで部屋を創り出して紹介しました。
  
ここでは着物や草履などの衣料品はもちろん、壁紙から、フロアラグ、クッション、ランプシェードまで、全てをテキスタイルに適したインクジェット昇華転写プリンターでプリントし、一つの世界観を表しましたが、デジタル印刷によるテキスタイル分野における可能性を感じて頂けたと思います。

インクジェット技術によるデジタル印刷は、高生産性はもちろん、色合わせ(=色品質管理)、適量生産による廃棄の削減、水を使わない事で環境負荷を極小化するなど、テキスタイル業界が抱える多くの社会課題を解決します。

こうしたメリットが生産面でデザイナーのイメージを高いレベルで実現するだけでなく、その社会的価値そのものがデザイナーやブランドの考える世界観の形成や表現にも役立っていくと考えます。

CSRやSDGsなどの潮流もあり、テキスタイル業界における、デジタル印刷の可能性は単なる生産技術としてだけでなく、ブランドやデザインそのものにも大きく影響をおよぼすのではないでしょうか。

エプソンは今後も多くのデザイナー、ファッションブランド、繊維メーカーなどとの連携により、デザイン性と社会的価値を両立したテキスタイル市場の拡大を目指します。

鷺森アグリ/アートディレクター
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