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ゴミから価値を生み出す 長野・諏訪市『ReBuilding Center JAPAN』流、豊かな未来の作り方

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東野唯史代表と東野華南子さん

ただ古材を再利用するのではなく、人の思いまで含めて再生する――。2016年、長野県諏訪市にオープンした建築建材のリサイクルショップ『ReBuilding Center JAPAN』(リビルディングセンタージャパン)。レスキュー(引き取り)した古材や小道具に新たな価値を見出し、次の使い手につなぐ空間設計やデザインを行う。「罪悪感のない仕事がしたいと思っていたんです」と、東野唯史代表は語る。その言葉は、ものづくりに携わってきた自身が、ずっと持っていた違和感への答えだった。(笠井美春)

「世の中のクリエイターたちは、実は気づいているはずなんです。自分の作り出したものたちは、いつかゴミになってしまうことを。違和感を持ちながら、ものづくりをしている。でも、ここでの仕事は不要だとされたゴミを原材料にしています。ここで作られたものがいつかまたゴミに戻るとしても、トータルで考えればゴミは増えていない。それって気持ちいいな、と思ったんです。いつかゴミになるものを作るのではなく、使われなくなってしまったものに再び価値を見出す。私たちがしているのは、そういう仕事です」

日本に古材を利用する仕組みを作りたい

岐阜・飛騨市の公民館のレスキュー

東野が「ReBuilding Center JAPAN」(以下、リビセン)を作るきっかけとなったのは、2015年に訪れた、ポートランドの「ReBuilding Center」(米・オレゴン州)との出合いだった。

そこは「世界最大のDIYセンター」と呼ばれる巨大なリサイクル資材ショップ。非営利団体が運営する倉庫のような店には所狭しと不要になったドアや建材、家具や照明器具などが並び、多くの周辺住民たちが必要なものを買いにやってきていた。

「そこで80歳くらいのおばあさんが、3メートルはあるだろう古い木材を颯爽と買っていくの見かけたんです。店のスタッフも、古材を持ち帰るお客さんも、捨てられたものを再度使うことが “当たり前” で、それが文化として暮らしに根づいているんだと感じましたね」

当時、東野は夫婦でデザインユニットを組み、日本全国を遊牧民のように移り住みながらフリーランスの空間デザイナーとして活動していた。手掛けていたのはゲストハウスやカフェなど。その過程で目の当たりにしたのは、多くの古い建物が無造作に取り壊され、廃材が量産されている現実と、一方で、インダストリアルデザインブームによって、古材を海外から輸入しているという事実だった。そこに大きな疑問を持った東野は「日本にも、もっと古材を再利用する仕組みができればいいのに」と感じていた。

その矢先に巡り合ったのがポートランドの「ReBuilding Center」。彼らの「再利用を通じてコミュニティを作る」という考え方や、古材利用のアイデアを提供するショップのあり方に深く感銘を受けた東野は、帰国後ほどなく「ReBuilding Center」に連絡。店名やロゴなどの使用許可を得て、「ReBuilding Center JAPAN」をオープンさせるにいたった。

現在、リビセンのベースとなる事業は、古材のレスキュー(引き取り)と販売。そして、レスキューした古材や小道具に新たな価値を見出し、次の使い手につないでいく空間設計やデザインだという。

「私たちの理念は、ReBuild New Culture(新たな文化の構築)。次の世代につないでいきたいモノと文化を日常から掬い上げ、楽しくたくましく生きていける、これからの景色をデザインしていくことです。その起点となるのが古材の引き取り、レスキューなんです」

多くの場合、レスキューは大家からの連絡でスタートする。大まかな仕事の流れは下記のようになっている。

①依頼内容を確認し、解体される前の建物から、重機を使わず人の手でできる範囲で、板材や床柱などを引き取る。
②依頼主に返戻金を渡す。
③レスキューした古材の釘を抜くなど、再利用できる状態に加工して販売する。
④デザイン設計などに古材を取り入れ、再び使用する可能性を見出す。

こうした中で、東野は残していきたいものや、そこに込められた思いを拾い上げていくのだ。

ただ古材を再利用するのではなく、人の思いまで含めて再生する

「私たちがレスキューするのは、誰かからゴミと判断されたモノたちです。でもその中には、誰かが大切に使ってきたモノだったり、丁寧な手仕事で作られたモノもある。モノに込められた、そういった人の思いをリビセンは一つひとつ掬い上げていきたいと思っています。以前、今はもうなくなってしまったけれど、ずっと地元に愛されてきたパン屋さんが使っていた包装紙やビニールの袋などをレスキューしたことがあります。それをリビセンのカフェで使用すると、地元の方が、懐かしいと喜んでくれたりしたんです。誰かにとって愛着のあるものは、それだけで価値がある。一層大事にしていきたいと思いますね」

リビセンの古材管理における「レスキューナンバー」は、まさにその思いを具現化した仕組みだと言える。

「私たちはレスキューした古材には、できるかぎりナンバーをつけ、いつどこでレスキューしたものか、それがどんな場所だったかが分かるようにしています。それがあるからこそ、レストランに使う古材に、料理好きのお母さんが住んでいた家の床板や、ずっと料理店で使われていたテーブルを使うことを、私たちは提案できるんです。建築の世界であれば、ここは吉野杉や木曽桧を使いましょう、とブランドで提案するところかもしれないですけどね」

リビセンのいうリユースは、ただ再利用するのではない。そこに込められた思いまで含めてもう一度、再生するということなのだ。

モノの価値を揺さぶることに、面白さがある

オープンして間もない頃、リビセンにやってきた若者と年配の方を、同時に案内したことがあった。ショップに並ぶ古道具や古材を手に取り、若者は「安いし、かわいい!」と目を光らせた。しかし、年配の方は「え?こんなものなら家にもたくさんあるぞ。これがこんな値段で売れるのか?」と驚いた顔をしていたという。

「モノの価値は、人それぞれ違うんだと感じましたね。おそらくその年配の方は、ここで売られている商品と同様のモノを、それが不要になればお金を払って廃棄するんです。でも私たちは、それをお金を払って引き取り、ゴミではなく商品に生まれ変わらせて販売します。リビセンのビジネスは、ゴミを減らして、新たな価値を作り出し、さらに雇用も生み出すことができる。そこが面白いし、気持ちのいい部分です」

一方でビジネス展開において、戸惑うこともあったという。それはレスキューの返戻金にまつわる話だ。

「スタート当初、実はいくつかの案件で返戻金を受け取ってもらえないことがありました。いらないものを引き取ってもらったので、お金なんていらないよ、と言うんです。そこで始めたのがギフトを渡すというシステム。例えば、古材を利用してずっと使ってもらえる椅子を作ったり、廃校になる学校には解体前の写真を飾るためのフレームを作ったりしてプレゼントしました」

思い出の詰まった建物を取り壊す人にとって、こういったギフトは何よりも価値のあるものなのではないか。このギフトシステムは本家「ReBuilding Center」にはない、「思いをつなぐ」日本独自のシステムである。

Reuse(リユース)から生まれるコミュニティを

これから叶えていきたいことはあるかと聞くと、東野は「古材を利用できる人を増やしていくことに加えて、リビセンから新たなコミュニティや文化をつくることにも力を注ぎたい」と答えた。

現在そのコミュニティづくりに一役買っているのがリビセンに併設されているカフェだ。ここは、古材レスキューとは違った側面から、リユースへの関心を広げたり、新たな文化を作る場となっている。

「カフェは古材をふんだんに使ってデザインされています。普段、あまりリユースに興味のない方にも、ここで古材に触れ、その温かみなどを感じてもらえるはず。また、傷ものの野菜や果物など、市場で売ることのできない食品などをレスキューして販売したり、金継ぎのワークショップを開いたりしています。ここに来れば美味しいものが食べられて、面白いワークショップにも参加できて、サステナブルな暮らしを体験できる。カフェは、リビセンの思いを発信する、とても重要な役割を果たしてくれています」

その言葉通り、リビセンの行動指針は、本家の意思を引き継ぎ、「Building Community Through Reuse(再利用を通じてコミュニティを作る)」となっている。壊れたものは自分で直してもう一度使う。もったいないと感じられる土壌を作る。そのことで得られる喜びを発信しつつ、使われなくなったもの、失われつつある文化などを見つめ直し、豊かに暮らすことのできる社会、コミュニティを再び作っていきたい。約1000平方メートルの店舗全体で、リビセンはそれを訴えていた。

愛される続けるまちづくりにも、貢献していきたい

今後の展開としては、「まちづくり」などにも関わっていけたら、と東野は言う。

「リビセンのビジネスは、世の中に対して、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を提案するものです。使われなくなったものを原料にスタートし、アップデートしたり、再利用したり、再生させたりしながら新たな価値を生んでいく。この動きをまちづくりにもつなげていけたらと思うんです」

実際に、リビセンの近くには新たな移住者によるカフェ雑貨店、食堂、コーヒショップが近年続々とオープン。その他にも老舗パン屋がリニューアルするなど、諏訪駅からリビセンまでの徒歩10分の道のりがここ数年で賑わってきたという。

空き家や使われなくなったスペースを生まれ変わらせることで、よりよいコミュニティを生み、人々が暮らしやすいまちがそこにできつつあるのだ。

「現在は、エコハウスを手掛けたり、エコタウンの勉強をしたりしています。エコタウンはコミュニティの中でエネルギー対策をしっかりと行い、資源循環型社会を目指す取り組みですが、まちづくりにおいても “ずっと続いていくこと、愛されていくこと” を大切にするべきだと考えています。リビセンでは、楽しくたくましく生きていける未来づくりについて、今後もあらゆる方向から発信をしていきたいですね。それに加え、人と人をつないだり、地域と人をつないだり、愛されるまちづくりのために自分たちにできることはないかと、考えています」

リビセンのある諏訪市は、江戸時代から温泉宿場町として、他所から来た者を温かく迎え入れ、栄えてきた。現在も市内には多くの温泉が湧き出ており、地域住民が登録制で利用できる地区温泉などもあるという。東野たちリビセンのスタッフは移住以降、そういった地区温泉に登録して通い、地域住民との中を深めてきた。

ずっとそこにいる人も、そこに移り住んだ人も、誰もが心を緩め、穏やかな時間を過ごすことのできる場所。リビセンはこれから、そういった場所になっていくのかもしれない。

ReBuilding Center JAPAN

古材と古道具を販売する建築建材のリサイクルショップ。併設するカフェ「live in sense」では様々なワークショップを展開中。2019年には、既存の古材店にはない価値を提供したことなどが評価され、グッドデザイン賞により「GOOD DESIGN BEST100」に選出された。
http://rebuildingcenter.jp/
〒392-0024 長野県諏訪市小和田3-8 ※JR「上諏訪」駅から徒歩10分
定休日:水曜日・木曜日 
営業時間:cafe 11:00〜18:00 古材 11:00~18:00

東野 唯史 (あずの・ただふみ)
ReBuilding Center JAPAN代表取締役。1984年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部卒業後、株式会社博展に就職、空間デザインに従事する。その後、世界一周旅行を経て独立し、2014年に空間デザインユニットmedicalaを妻と設立。2016年、長野県諏訪市にReBuilding Center JAPAN設立。

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笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。