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捨てられていた青みかんが地域を照らす名産品に フードロス解決の鍵は「もったいないからおいしい!」へ

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Image credit:コバヤシイッセイ

神奈川県の農産品と聞いて「柑橘」をイメージする人はどのくらいいるだろう。または、あの鮮やかなオレンジの色に変わる前の姿を知っている人はどのくらいいるだろうか。瑞々しくて甘いみかんとは対照的に、硬くて酸味が強い小さな未熟な実は間引いて廃棄されている。その事実を知り「もったいない!」と行動を起こしたひとりの女性がいる。横浜市金沢区にあるみかん畑で滴果された青みかんを使い、新しい地場産品を開発した奥井奈都美代表に話を聞いた。(やなぎさわまどか)

照りつけるように強い日差しの8月、みかん栽培はひとつの大事な過程をむかえる。「摘果(てきか)」と呼ばれる間引きの作業だ。果樹は一般的に隔年結果(かくねんけっか)といって、収量が多い年と少ない年を交互に繰り返すが、そのバランスをできるだけ安定させるためには、毎年こうした間引きをするのが効果的である。また、間引くことによって、一つひとつの果実に養分が行き渡り、食べ頃の時期には果実それぞれがちょうどいい大きさと十分な甘さになる。

温州みかんの場合、「葉っぱ20枚に1果実」くらいのバランスにまで果実を間引く。摘果のとき、まだ実はとても硬く、色も深緑色をしていて、通称「青みかん」と呼ばれている。

Image credit:佳川奈央

「はじめて摘果体験に行ったとき、たくさん分けてもらって色んな食べ方を研究しました」と、話すのは摘果した青みかんの果汁を使い「横浜あおみかんドレッシング」を開発したアマンダリーナ(横浜市金沢区)の奥井奈都美さんだ。当時、ラテン料理研究家として活動していた奥井さんは摘果した青みかんがすべて廃棄されていると知り、とても驚いたという。

「素直に、もったいない!と思いました。青みかんはそのままだとかなり酸っぱいのですが、うまく料理に使ったり、ミントとラム酒と合わせてモヒートにするとすごくおいしくて、料理教室やイベントでもとても評判が良かったんです」

その後、ほんの1年ほどで青みかんドレッシングを商品化した奥井さん。市内のみかん農園とのパートナーシップを結び、「横浜産青みかん商品化プロジェクト」と名付けたビジネスプランを立てた。「もったいないから、おいしい!へ」をコンセプトに掲げ、プロジェクトが横浜市の「地産地消ビジネス創出支援事業」に採択されたことで大きな転機を迎えた。

商品名の「アマンダリーナ」には奥井さんの実績と情熱、そして柑橘にぴったりの明るいイメージが込められている。

「温州みかんはスペイン語でマンダリーナというのですが、横浜のhamaをあたまに付けました。スペイン語はhを発音しないので、それを『アマンダリーナ』と読みます。そして、ロゴの下には『横浜の青みかんでハッピーな生活を』と、この事業の芯となる思いを入れました」

Image credit:奥井奈都美

現在「横浜あおみかんドレッシング」は、神奈川県のアンテナショップ、ホテル、JA横浜の直売所、飲食店など市内12カ所で販売され、オンラインショップでも取り扱われる人気商品に成長した。そのため横浜だけではなく、県内でも柑橘栽培が盛んな西湘地域の柑橘農家にも協力してもらい原材料を確保している。

「横浜あおみかんドレッシングには横浜産の果汁だけを使っています。言わば、横浜産青みかんのシングルオリジンです。ただどうしても収量が少ないことがあるため、それ以外の商品には西湘で採れた青みかんを使っています」

2地域の契約農家にお願いしている共通の条件は3つある。

「果実の大きさが35mm以上あること、摘果してから3日以内であること、そして、消毒処置から45日以上経過している果実を買い取らせてもらっています」

毎年、春には摘果の時期を相談して収量を予測、搾汁場での作業日も決める。横浜の圃場では毎年、摘果体験のボランティアが来てくれるのも定番イベントとなった。奥井さんの「もったいないから、おいしい!へ」は、周囲の共感を呼び、それまで捨てられていたものが活かされる新たな市場を作り出したことになる。

「人に恵まれていたおかげで、いつも色んな人に助けてもらっています」と話す彼女は、まだまだ新たに挑戦したいアイディアで溢れているようだった。

青みかんの皮を使った「金澤八味」

Image credit:奥井奈都美

「青みかんの状態だと手で剥くことができないほど硬い皮なんですが、果汁を絞った後の皮ももったいないと思い始めました。そこで最近、青みかん胡椒を作っています。まだ少しずつしか販売できない量ですが、評判はいいですね」

手剥きした青みかんの果皮と果汁、奥井さんが畑で育てた青唐辛子を使い、柚子胡椒ならぬ「青みかん胡椒」とは、ラテン料理家としてのセンスが現在も活きている上、実は栄養成分にも配慮している。

完熟前の青みかんの皮には「ヘスペリジン」というポリフェノールの一種の有効成分が豊富に含まれており、血管力を高めたり血流を改善する効果が期待できるという。また最近は、青みかんだけでなく、完熟したみかんの有効成分も逃さないよう、果皮の取り扱いを始めた。

「初めは乾燥させて陳皮を作り、七味唐辛子をつくるワークショップなんかをしていたんです。2年ほど続けていたら昨年からSDGsとの繋がりが始まりました」

横浜市では現在「一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」がリードしながら、市内のさまざまな団体や専門職が垣根を超えて、地域の社会課題を解決する取り組みを行っている。奥井さんが活動する「SDGs横浜金澤リビングラボ」では、地域産品づくりによるまちおこし振興プロジェクトが進み、フードロスの削減や地場産業をビジネスモデルにおいた地域産の原材料でつくる「金澤八味」(かなざわはちみ)に奥井さんの陳皮が生かされている。

「横浜市金沢区の金沢八景にちなんで八味、です。陳皮の他に、小学校で栽培した唐辛子と紫蘇、椎茸農家さんの椎茸、環境対策として地元で育てている昆布も使われていて、すごくおいしいですよ」

奥井さんの「もったいない」から始まった思いは、横浜市のビジネス支援をきっかけに見事に「おいしい」ものへと変化し、今またさらなる高みへと進化を続けている。誰も手を差し伸べなかった青みかんを救い出したように、みんながハッピーになる「宝石の原石を見つけたい」と話す奥井さんの言葉に明るい希望が感じられた。

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やなぎさわまどか

神奈川県出身。ナチュラリストの母により幼少時代から自然食や発酵食品で育つ。高校在学中から留学など度々の単身海外生活を経験。都内のコンサルティング企業に勤務中、東日本大震災で帰宅難民を経験したことをきっかけに暮らし方を段階的にシフトする。現在は横浜から県内の山間部に移り、食や環境に関する取材執筆、編集、翻訳通訳のマネジメントなど。