自動車は「CASE」に対応し、人の心とつながるモビリティづくりの時代へ
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100年に1度の大変革期をどう乗り切るか。どの自動車メーカーもそう口を揃えた。自動車メーカーが最先端の技術を披露する「東京モーターショー」が24日、東京ビッグサイトで開幕。モノから人、そして心の充実を求める時代へと変わる中、各社は共通して、戦略の基盤となるキーワード「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化の頭文字の略)」への対応を挙げた。トヨタ自動車の豊田章男社長は「クルマではなく人が主役」と強調。展示ブースでは意外にも新車は紹介せず、未来に求められる新型モビリティのみを展示した。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)
自動車だけで人は集まらないーー。新しい現実を受けとめ、模索する自動車メーカーの挑戦がうかがえた。国内の新車販売台数の減少にともない、モーターショーの来場者も減少傾向にある。今回、東京モーターショーは「OPEN FUTURE」をテーマに、変化する人々の暮らしにモビリティがどうより添えるかに焦点を当てていた。
主催の日本自動車工業会は、「さまざまなターゲットに向けて『くらしの未来』に領域を拡大することで、参加企業や主催者側のマインドも拡張する」とテーマを説明。来場者を楽しませるだけでなく、業界内部の変革につなげようとする狙いがある。新たな試みとして、会場の一部に、「近未来の日本に入国」体験できる「FUTURE EXPO」を設置。未来の移動体験、スポーツ観戦、地方観光、宇宙技術をテーマに、NECやパナソニック、富士通、ソニーなどが最新技術を公開した。
自動車業界の変革のカギ、CASE
独・ダイムラーが2016年に発表した、メルセデス・ベンツの中長期戦略「CASE(ケース)」。Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)は自動車業界を根底から大きく変えるテーマであり、同時に、これらを包括的、調和的に組み込むことによって真の改革を起こすことができる、というもの。キーワード「CASE」は業界全体に広がり、各社の戦略の根本をなす考え方となっている。
そのダイムラーは今回、新型電気自動車「EQS」を公開。「サステナブル・モダン・ラグジュアリー」をテーマにした同車の内装素材には、リサイクルペットボトルや海洋廃棄プラスチック、持続可能な木材、ヴィーガンレザーなどが使われている。メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は、「CASE戦略に基づき、電動化を加速する。今年中にあわせて20台のEVとプラグインハイブリッドを発売。2030年までに、その販売比率を50%以上にする」と話した。
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「CASE」に新たな概念を付けくわえた戦略を発表したのは日野自動車。下義生社長は、プラットフォームの頭文字「P」を付け加えた「SPACE」戦略を発表。「働くモビリティは、インフラとしてさまざまなサービスを提供するプラットフォームになる。変革のカギはプラットフォーム。それによって、商用車は人々に寄り添い、社会に一体化していく」とし、車のボディ部分をサービスに応じて装着できる「フラットフォーマー」を世界初公開した。
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とにかく「人」
「今日はとにかく人の話なのです」とトヨタの豊田章男社長は切り出した。AIやロボットが進化し、自動化が進む時代をトヨタはどう乗り切ろうとしているのか。トヨタ生産方式「ニンベンのついた『自働化』」「ジャスト・イン・タイム」にその答えがあると同社長は話す。
創業者・豊田佐吉氏が発明した自動織機の最大の特徴は、糸が切れたら自動的に止まること。不良品を出さないというだけでなく、そこには「人間を機械の番人にしない」という考え方がある。そして、必要なものを、必要なときに必要な量だけつくる「ジャスト・イン・タイム」。豊田社長はこう話した。
「2つの考え方に共通するのが『人』を中心に置くということ。だからこそ、人が中心にい続ける未来を私たちは描いている。自動化が進めば進むほど、人間の力が試されることになる。例えば、人のぬくもりや優しさ。そしてそれを感じる心。このブースで表現したかったのはヒューマンコネクティッド。それは人間同士がつながる社会。人のぬくもりや優しさを感じる社会。キーワードはヒューマン。トヨタは人間の力を信じている」
新車を展示しなかったトヨタは、「人を中心とした未来のモビリティ社会」をブースで表現。そこには「ヒューマノイドロボット」や空飛ぶホウキを模した「e-broom」、移動しながら診察を受けられる「TOYOTA e-Care」などが展示された。
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自動車の2極化 自動車がハコ型デザインに移行する理由
TOYOTA e-4me
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スズキ HANARE
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ダイハツ ICOICO
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自動車は今後、シェアする自動車と所有する自動車に分かれ、デザインも2極化していく。シェアする自動運転のクルマは、ハコ型のシンプルなデザインに。東京オリ・パラの選手村で走るトヨタの自動運転車「e-Palette」がその例。同車は、ただ人を運ぶだけではなく、将来的にはオフィスや店舗として使われる。
「e-Palette」の一人乗り用として紹介されたのが「TOYOTA e-4me」。移動時間を使って、車内で好きなことができる一人乗りの自動車。服のシェアリングサービスや外食サービスなどと連携し、利用者は移動しながら服を着替えたり、通勤しながら食事をすませることができる。
自動車のシェアと一言でいっても、単なる共有ではない。例えば、トヨタのいう「人を中心とした未来のモビリティ社会」が目指すシェアはこう。晴れの日にはオープンカーを使い、キャンプをするときはキャンプに特化した自動車、通勤にはコンパクトなクルマ。そうして、自分の生活にベストなクルマを選んで使う。
トヨタのデザイナーはいう。
「これまで自動車をデザインするときは、荷物も載せられて格好もよくないといけなかった。そうすると、商品のデザインは中庸になりバランス商品になる。しかし、これからは用途によってデザインが分かれていく。高齢化社会が進めば、車いすの乗り降りがしやすいデザインが増えていく可能性もある。まるいクルマが流行る、赤いクルマが流行るなど流行でデザインが決まるのではなく、自動車のデザインは人の生活や行動、用途にあわせて形を変えていく」
自動車デザイナーの仕事も時代に合わせて、大きく変わっているという。図面を引いていたデザイナーは、社会システムや未来に必要なビジネス、ビジョンも考えるというように職域が拡大している。
世界初、ノーベル賞・天野教授が青色LED材料で開発したエコカー
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この日、環境省のブースでは「ミライのクルマ」と題して2台の自動車が展示された。
1台目は、青色発光ダイオード(LED)を発明し、2014年にノーベル賞を受賞した天野浩・名古屋大学教授らが開発した青色LEDの材料「窒化ガリウム(GaN)」を電動化技術につかったEV「AGV(All GaN Vehicle)」。例えば、バッテリーの直流電力を交流電力に変換する「インバーター」を窒化ガリウムで製造することで、従来のシリコン製のものをつかったEVに比べ、電力消費を約24%削減できるという。
天野教授は「電源は自動車やエレクトロニクスだけではなく、あらゆるところに使われている。応用することで、さらに低炭素社会を加速していきたい」と話した。
2台目は、木材由来の軽くて丈夫な「セルロースナノファイバー(CNF)」をつかった自動車「NCV(ナノセルロースヴィークル)」。環境省の事業の一環で、京都大学やトヨタカスタマイジング&ディベロップメントなど22団体が連携して取り組んでいる。
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量産化を目指した仕様では、世界初のCNF活用部材をつかったコンセプトカー。ボンネット、ドアアウター、ドアトリム、バックガラス、スポイラー、ホイールフィンなど13部品にCNF材料を使用。10%以上の軽量化に成功。軽量化によるCO2削減量は調査中で、12月のエコプロ2019で発表される。今回は木材を細分化したセルロースナノファイバーを使ったが、繊維があるものであれば使い終わった茶葉などでもつくれるという。
環境省の担当者は、「世界の温室効果ガス排出量のうち自動車などの運輸部門の割合は約20%。そのうち30%が日系企業の自動車から排出されている。また、家庭の二酸化炭素排出量のうち約23%が自動車から。自動車会社のみなさんには、ぜひこうした技術を活用した製品を市場に投入にして欲しい」と話した。