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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

元JAXA研究員が「持続可能な水産養殖」を掲げ起業した理由

「持続可能な水産養殖を地球に実装する」――。ウミトロン(東京・港)は持続可能性をミッションに大きく掲げたスタートアップ企業。水産養殖分野にAI、IoTといった最新のテクノロジーを投入し、食料生産の課題解決を目指してスマート給餌機「UMITRON CELL」などの製品・サービスを提供する。2016年に同社を起業した藤原謙CEOは元JAXAの研究員。なぜ水産養殖に注目し、どのように事業を拡大しているのか。藤原氏は「自分が本当に重要だと感じていることでしか、事業は興せない」と力説する。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

――ウミトロンでは具体的にどのような製品を展開していますか。

藤原:メインのプロダクトは「UMITRON CELL」という、水産養殖の餌やりを自動化する製品です。遠隔操作機能やモニタリング機能を持ち、給餌を最適化します。餌やりというのは養殖業の一番大きな課題なんです。

スマート給餌機「UMITRON CELL」。スマホでの遠隔操作が可能なほか、海洋データを分析し給餌を最適化しながら自動化を可能にした

魚類の養殖は生産コストのうち6-7割は餌やりが占めていて、これは生産者の経営の持続可能性という観点から重要なテーマです。また養殖に使う餌は天然の魚の乾燥粉末を約50%含んでいます。餌を大量に使えば天然魚の消費につながるので、無駄な餌を減らすことは海洋資源の持続可能性の観点からも重要です。適正に給餌をすることは、もちろん水質保全にもつながります。生産者の経済的なサステナビリティ、海洋資源のサステナビリティ、海洋環境のサステナビリティがすべて給餌という工程につながっています。

もちろん遠隔操作や自動化で悪天候時の作業そのものの危険を大幅に軽減するので、現場の労働環境の改善にも大きく貢献できます。

――AI、IoT、衛星技術など最先端のテクノロジーを活用しているとうかがいました。

藤原:そうですね。魚の餌食いは海洋環境によってとても大きく変化しますから、海洋データのモニタリングに衛星技術を使っています。例えば海の温度やプランクトンの分布は人工衛星で取ったデータを基に分析しています。生産現場や衛星で収集したデータをバックエンドの独自プログラムに集約し分析することで給餌を最適化して、そのアウトプットを「UMITRON CELL」に反映させます。

宇宙開発から養殖産業へ

――藤原さんは以前JAXAに在籍されていました。JAXAではどのような仕事に携わっていて、どうして水産養殖の持続可能性を掲げてウミトロンを立ち上げることになったのでしょうか。

藤原:JAXAではハード面で小型の人工衛星の開発や、天文衛星ですね、星の観測をする探査機の開発のサポートをしていました。JAXAを退職した後、カリフォルニア大学バークレー校に留学し、三井物産で投資側からビジネスをサポートする業務などを経て、人工衛星のリモートセンシング技術を利用して農業のIT化、効率化をする会社のサポートなどをしていました。そこで宇宙技術と一次産業の接点がとても面白いな、まだほかにも可能性があるんじゃないかな、という手応えを感じたんです。

今年は月に人類が降り立ってから50年という節目の年です。宇宙から地球を眺めた写真を見ると感じることが、2つあります。やっぱり地球が「水の惑星」だということと、地球は外の世界から断絶された、宇宙の中で孤立した存在だということです。2050年には人類は火星に行くかもしれないけど、大多数の人たちは地球という、限られた、閉鎖された惑星の中で進化しながら生活を続けていくんだなと感じます。

ではその限られた水の惑星でどうやって人の生活をサポートしていくか。養殖業は環境負荷が低い食料の生産方法で、現時点で成長し、そして今後も成長する産業です。とても可能性を感じています。

――「限られた地球」という視点で持続可能な社会を考えたときに食料生産の課題に向き合われたわけですね。

藤原:食料生産が大事だと思ったきっかけがもうひとつあります。JAXAを離れ留学していたときに、ナイジェリアの学校給食プログラムを改善するプロジェクトに現地州政府のコンサルタントとして関わりました。小学校に学校給食にプログラムをつくると生徒の参加率も上がるし、地元の農家の需要にもなる。地産地消を促し、子どもの栄養状態を改善して生徒の就学率を挙げるというプロジェクトでした。

実際に現地で農家を訪問し、子どもたちや家族にお話を聞いて、世界にはまだまだ食料が足りていないということを痛感しました。給食のゆで卵が大事すぎて食べることができず、休み時間にずっと持っている子どもいました。こういった経験もウミトロンを立ち上げた背景にあります。

ベンチャーでもESG指標の投資は拡大へ

――ウミトロンは2016年に創業し、2年目の18年に12.2億の調達に成功しています。水産テック分野のアーリーステージ投資として世界過去最高額ということですが、資金調達が成功した要因は。

藤原:背景のひとつは、養殖業という産業が身近な産業であることです。投資家目線というより、投資家も一消費者として魚類の生産がすごく大事だよね、と共感してもらえたことが一番大きいと思います。資源枯渇に対して課題意識の共有ができたと思います。天然資源の魚を漁獲し続けることには限界もあるし、世界的に人口も所得も増え続ける中で、魚の生産の担うという観点では有力な生産方法が養殖しかない部分があるということですね。

僕らが受けている投資はESG的な側面がすごくあると思いますが、ベンチャー投資の中でのESG投資というのはまだあまり割合が大きくないという感覚です。これからかなと思います。

――ベンチャー投資の中でのESG投資額は今後、増えると思われますか。

そう思いますね。まずベンチャー企業として起業する場合、自分が心底大事だと思えることしか事業にできないと思います。そういった観点で起業する人がこれからもっと増えるということがひとつ。それにベンチャーっていろんな人のサポートがないと立ち上がっていかないので、共感してもらえる人がどれくらいいるかがすごく大事だと思います。ESGという側面に着目すると共感を非常に得られやすいというメリットもあります。

重要なのは「ミッションに共感するメンバーの存在」

――ミッションに「持続可能性」を掲げていますが、そこに投資への思惑はありましたか。

藤原:思惑はあまりなかったです。繰り返しになりますが起業する場合に、やはり自分が本当に重要だと思ったことを事業にするしかないと感じています。養殖業自体が食料生産の分野ではもっとも成長率が高い分野で、今後も伸びていくだろうというなかで、産業の成長と地球資源の持続可能性を両輪でまわすことが、養殖業自体の将来的な発展性に対して非常に重要な側面だと思っています。

イメージとして「こういう事業をやりたい」ということは明確だったので、ミッションはそれを言葉にしただけですね。英語ではinstall Sustainable Aquaculture on Earth――。installという単語を使い、技術を活用することを表現しています。持続可能な養殖業に貢献すること、それをグローバルレベルでやることを掲げています。

――現在、日本に16人、シンガポールで4人のメンバーが在籍していますが、社内でミッションをどのように共有していますか。

藤原:僕らがまだスタートアップだからということもあると思いますが、基本的にミッションに共感してもらえるかどうかが採用時にかなりのプライオリティを占めています。現場での細かいサービスや、どの技術を使うか、どういったサービスを提供するか、という顧客目線で必要なものは、どんどん変化します。テーマが変わったとしても、ミッションに共感できていれば対応して新しい技術を取り入れることもできるんです。そういった意味でも「持続可能な水産養殖を地球に実装する」というテーマに対して共感してもらえるメンバーがいることがとても重要だなと思います。

――誰のためのサービスか、という点では「生産者のため、消費者のため、地球のため」ということを明言されています。

藤原:直接の顧客は一次産業の生産者の方たちなので生産者のためというのは当然ですが、食料生産に貢献するという意味では消費者のためにという考えも大事だと思います。そして養殖業の感覚ってすごく面白いなと思うのは、自然の力をうまく使いながら食料生産をするという要素がすごく強いんです。自然の海という環境や、魚という生物が持つ成長性、それらを技術でエンパワー、サポートすることによってより養殖生産が成長していけるんじゃないかなと思っています。だから「地球のため」を掲げています。

「共感」という定性的な要素を事業に組み込む

――公開されている会社メンバーの日記を見るとウミトロンはエンジニアも頻繁に養殖の現場に足を運ぶ「現場主義」だと言われています。その狙いは。

藤原:何かの課題を解決するときの最短のアプローチは、一番優秀な人間が直接現場に行って自分で解決策を提案してくることだと僕は思っています。営業から課題をまた聞きするのではなくて、ソフトウェア開発をやっている人間が自分で現場に行き、生産者が何に困っているかを肌で感じて、自分でプロダクトをつくるということを大事にしています。現場に共感するということはあると思います。

ビジネスの観点でも、事業計画を引いたりマクロ視点で何が伸びているかという議論をしたところで、ロジックだけではわからない部分がたくさんあります。共感というのはすごく大事な要素だなと思っていて、共感できる課題の解決、共感できるプロダクトは将来的にすごく伸びる可能性がある。特に今後の事業の成長性が不確かなベンチャーでは、長期的な事業計画は、ほとんどがただの仮定なんです。その中に「共感」という独特で定性的な要素を入れるということが、将来の事業性を占う上でも大事なのかなと思います。

藤原 謙
ウミトロン Co-founder / CEO

宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて人工衛星の研究開発に従事した後、三井物産株式会社にて衛星を活用した農業ベンチャーへの新規事業投資及び事業開発支援を実施。
好きなシーフード料理はアヒバーガーわさびマヨネーズソース。

東京工業大学大学院 /修士(工学)
University of California, Berkeley /修士(MBA)

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。