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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

老舗の紙製品メーカー・山櫻は「脱プラ」時代をどう捉えて製品をつくるのか

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クラウディとのコラボで実現したペーパーハンガーの型紙

脱プラスチックの思考や対策が浸透し、代替素材として紙が注目を集めている。一方で、森林保護の観点からペーパーレス化を進める風潮も根強い。そんな中、アイデアを次々と形にし、新たな紙製品を世に送り出し続けているメーカーがある。ビジネスパーソンならその封筒や名刺を必ず手にしたことがある老舗、山櫻(東京・中央)だ。製品づくりにサステナビリティの考え方を強く結びつけ、アパレル分野などで新製品を投入する。こうした戦略はどのように培われているのか。同社の市瀬豊和代表、高﨑啓介マーケティング部門 部長に聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

ペーパーハンガーをアパレルブランドと共同開発

山櫻の市瀬豊和代表(奥)と高﨑啓介マーケティング部門 部長

名刺や封筒、賞状用紙などを手がける紙製品メーカー山櫻の創業は1931年。創業88年を迎えた老舗企業だ。FSC認証紙や間伐材を利用した素材の製品、エシカルな新素材「バナナペーパー」を利用した製品など、環境負荷の低減を強く意識した製品ラインナップが充実する。顧客が意識せずとも自然とエシカルにつながることを目指した製品の拡充により昨年、「環境省グッドライフアワード」のサステナブル・ビジネス賞を受賞した。

同社は8月、ファッションブランド「クラウディ」と共同で紙製のハンガーを開発、発表した。価格は一般的なプラスチックハンガーの3倍だ。紙製だが「ハイエンド向け」を強く意識し、繰り返し使える強度を持つ。素材はすべてFSC認証紙で、クラウディの「Bye plastic」というコンセプトに呼応しているが、意外にも「山櫻として脱プラスチックを大きく掲げているということはありません。やってきたこと、考え方を製品としてかたちにした時に、たまたま脱プラスチックと『掛け算』になったというのが本音です」と高﨑啓介マーケティング部門 部長は説明する。

つくる責任を意識したきっかけは

森林資源の減少や保護に注目が集まり始めた1990年、山櫻は初めて、古紙からの再生紙を利用した名刺を開発した。当時は「お客様にお渡しする名刺に古紙を混ぜるとは何事だ」と顧客に叱られることもあったという。エシカルという言葉もなかった。市瀬豊和代表は「紙に関わる企業として森林を守る、というそれだけの動機で始めました」と振り返る。そして2008年、大きな社会的事件となった、製紙業界の古紙配合率の偽装問題が明るみに出る。

製紙業界が表示していた古紙パルプ配合率より、実際の配合率が大きく下回っていた。古紙を利用しながら白い紙をつくる技術やコストに限界があったことが偽装の要因だったという。製紙業者から紙を仕入れて製品化している山櫻も衝撃を受けた。さまざまな顧客の反応がある中で「再生紙という表示を隠すためにラベルを貼りたい」という顧客もいたが「こんな偽装紙は使えないから、全部作りなおしてくれ」という顧客も多かった。

「エコだから再生紙という選択をしていたはずなのに、再生紙じゃないからすべて作り直せば、その紙は捨ててしまう。紙を利用した製品の、作り手の責任を強く意識し始めました」(市瀬代表)

それ以降、森林資源の保護にとどまらず、サステナビリティやMDGs、SDGsに接続する考え方でさまざまな取り組みを始めた。2012年からはアフリカで生産されるバナナの茎の繊維を利用したエシカルな紙「バナナペーパー」を製品に取り入れたほか、現在では東北コットンCoC、タンザニアコットンCoCなどの認証紙も活用している。

「無駄な紙は、使わないほうがいい」

「社内からも『請求書の発行や給与明細はすべて電子化しましょう』という声が上がります。無駄な紙は、使わないほうがいいんです。現在、売上高の6割が封筒ですが、封筒も使われなくなっていくでしょう。それは経営上のリスクと言えばリスクで危機感はありますが、当然のことです」と市瀬代表は話す。それを織り込んだ上で、アパレル業界などに向けて新たな紙製品を投入する。

クラウディとコラボしたペーパーハンガーに続き、9月にはファッションとデザインの一大イベント「room39」で、山櫻の新ブランド「rik skog(リーク スクーグ、スウェーデン語で「豊かな森」の意)」の製品を発表した。紙製品メーカーならではの持続可能で、エシカルな製品を提案するブランドだ。

「紙だからこそ、顧客がブランディングに活用できます。脱プラスチックを起点にすれば『安く、多く』という方向性になりますが、山櫻の製品はハイエンドに向けています。顧客はブランドのオリジナルを作ることができるのです」(高﨑氏)

「rik skog」ではハンガーだけでなくショップ向けの紙バッグや、POPにも利用可能な収納箱などを展開。room39で製品を見たアパレル関係者の反響は大きく、問い合わせが相次いだ。製品の意味合いを顧客が腹落ちしてくれた、と高﨑氏は分析する。単に脱プラ、エシカルだけでなく、紙だからこその価値を掛け合わせて提案する。「デザインの良さ、面白さがないと結局売れることはありません。逆に『持続可能性』の根底にあるのが『楽しさ』なのかもしれません」(高﨑氏)という。

rik skogブランドは「エシカル×ブランディング」でアパレル業界に切り込む。収納ボックスのPOPへの活用でバックヤードの運用もより便利に(写真提供=山櫻)
紙バッグだが耐久性がある。生地縫製時に出る端切れを持ち手として加工することで、導入するショップのオリジナルなストーリーを生みだすことを提案する。加工の工程をシルバー雇用、障がい者雇用に生かすことも考えられる(写真提供=山櫻)

「伝える責任」果たして持続可能性を広げる

環境課題と深く関わる製品を扱うだけに従業員の環境への関心も高く、社内で実施したメールでのアンケートによればSDGsの認知度は90%を超えているという。トップダウンで認知度を高める施策も行っているが、製品ベースにじわりと従業員に持続可能性への意識が広がっている面もあり、浸透はボトムアップとの両輪だ。

「SDGsの取り組みの第一歩は『伝える責任』だと考えています。企業が社員に伝え、社員が家族や友人に伝えることで広がっていく。最近、バナナペーパーの販売パートナーのもとに、小学5年生の児童からメールが届きました。『エシカル消費について学び、自分の学校の卒業証書をバナナペーパーにしたいから見本をください』と。こういうことが起き始めています」(市瀬代表)

製品を通して社会に伝える同社のメッセージやコンセプトが、紙という素材に新たな価値を与えている。

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。