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動物福祉「アニマルウェルフェア」の指標がESG投資に影響力

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米国ニューヨークのホールフーズマーケットの食肉売り場。アニマルウェルフェアの表示が商品購入の目安のひとつとなっている


家畜への負担を考慮した飼育「アニマルウェルフェア」に関する指標が食品関連企業に対する評価のひとつとして重要視されてきている。英国の2つのNPOが2012年に共同で立ち上げた「BBFAW(畜産動物福祉に関する企業のベンチマーク)」は、世界の大手食品会社150社を対象に動物福祉政策、管理システム、実績、透明性などを評価して投資家や消費者に情報を提供し、投資への影響も拡大している。現在、日本企業5社も評価対象となっているが評価は低い。一方で昨年、ネスレ、ユニリーバなど7社は動物福祉に対応する共同のイニシアティブ「GCAW」を独自に立ち上げるなど対策に積極的だ。(環境ライター 箕輪弥生)

欧米の金融グループが食品会社への投資にBBFAWの指標を活用

欧米では、畜産動物の福祉が食品分野への長期投資の価値を左右する重要な課題だという認識が広がっている。

例えば、欧州を本拠とする世界有数の金融グループであるBNPパリバ・アセットマネジメント・グループは、畜産動物の福祉(以下、FAW:ファーム・アニマル・ウェルフェア)をESG投資の重要な分析指標として捉えている。その中には食品会社が畜産動物に感染症予防のための抗生物質や成長促進剤を使用しているかどうか、使用停止について明確な方向性を持つかどうかなど具体的な課題も含んでいる。

米国に本拠を置く大手金融グループであるモルガン・スタンレーも同様に、畜産動物の福祉について明確なポリシーを持ち、BBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare:畜産動物福祉に関する企業のベンチマーク)から高い評価を得た企業は今後も成長する可能性があると判断している。

2012年にスタートしたBBFAWは食品会社におけるESG投資に影響を与える指標だ。2018年度は35の指標について、食品小売業者、卸売業者、食品製造業者などの食品企業大手150社を対象に評価を行った。

ベンチマークでの評価対象としては、以下の4つの領域で設定されている。

1)経営・管理の取り組み:FAWのポリシーなど全体的な考え方に加え、畜産動物が閉鎖された飼育環境にあるか、長距離輸送を行っているかなどの具体的な項目も含まれる
2)ガバナンスと経営管理:FAWの目的と目標があるか、内部監査があるかなど
3)指導力と技術革新:FAWを進める事業に投資しているかなど
4)業績の報告と影響力:主要なFAWについての経営政策、目標に対する実績と結果の評価など

この中には、「畜産動物の愛護を企業の重要な問題としてとらえているか」といった基本的な質問から、「狭い畜舎や檻の中での、身動きできないほどの過密な飼育を避けているか」「栄養を管理した速成の肥育をしていないか」など飼育環境についての具体的な質問も数多い。

2018年の結果について、BBFAWのニッキー・エイモス エグゼクティブディレクターは、2012年に22%だったFAWに関する改善目標の公表が71%に上昇、77%の企業が過密飼育を回避すると確約するなど、改善が見られたと話す。

■畜産動物の福祉(FAW)に関する企業評価 (2018年BBAFWレポートより)

*2018年BBAFWレポートより著者作成

低い日本企業のFAW対応、一方欧米では対応を進める企業連携も

FAW(畜産動物の福祉)への関心の高まりに応じて、その対応をより具体的に進めるために2018年、大手の食品会社が協働するイニシアティブGCAW(Global Coalition for Animal Welfare)が誕生した。これは、イケアフードサービス、ユニリーバ、ネスレ、コンパスグループなど7社が専門家と協力してFAWの基準の策定を加速し、研究を行う企業協働のプラットフォームだ。

GCAWはグローバルなケージフリー(平飼い卵)、食用ブロイラーの福祉、魚の福祉(特にサーモン)、抗菌剤耐性、輸送と屠殺という5つの優先課題を設定し、対応を加速する意向だ。

一方で、日本の食品関連企業の動きは遅い。BBFAWで評価対象になっている企業には、イオングループ、セブン・アイ・ホールディングス、明治ホールディングス、マルハニチログループ、日本ハムの5社があるが、評価は低く、FAWに関する情報をほとんど提供していない。

欧州では早くから、家畜にも身体を伸ばしたりする行動の自由を与え、不必要な苦痛や恐怖を与えないようにすべきだという「動物の福祉」という考え方があり、1976年にはすでに「畜産目的で飼育される動物の保護のための欧州協定」が定められている。

それに対して、日本ではいまだ企業にも消費者にも畜産動物の福祉に関する明確な認識が育成されていないのが現状だ。

持続可能な開発と責任ある調達戦略に関して25年のキャリアのあるニッキー・エイモス代表

ニッキー代表は日本の企業のFAWの状況をとらえ、「FAWへの理解が普及している国に食品を輸出する場合、国際的規制を求められること」や「過密飼育での感染症の拡大や抗生物質利用の人間の健康への影響などリスクが高まること」を指摘した。

また、採卵鶏のケージフリー運動を展開している国際NGO「ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパン」の上原まほ氏は日本でFAWの普及が遅れている理由として「企業の生産性、効率性が優先され、マインドの転換がまだできていないのでは」と指摘する。

来年の東京五輪では、畜産動物の福祉について日本がどのように対応するか、世界の視線が集まりそうだ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

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