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  • 公開日:2017.11.21
  • 最終更新日: 2025.03.21
リクシルやANA、BOP層の衛生問題解決で連携
    • 小松遥香

    リクシルグループとサラヤ、ANA ホールディングス BLUE WINGプログラム、世界トイレ機構(シンガポール)は共同で17日、「衛生課題への取り組みに関する日本イニシアティブ共同宣言」を発表した。BOPビジネスを本格化させているリクシルとサラヤ、社会起業家へのフライト支援を行うANAが連携して実施するもので、衛生先進国の企業・機関として技術やネットワークを結集し、SDGsの目標6「安全な水とトイレをみんなに」の達成を率先していく方針だ。(オルタナ編集部=小松遥香)

    イベント会場に設置された「シースルートイレ」。中に西洋式のトイレがあり、室内からは外が見えるようになっている

    11月19日の「世界トイレの日」、リクシルグループは東京・明治神宮外苑で開催されたイベント会場で、3日間にわたって、ガラス張りの公衆トイレを展示し、屋外排泄の問題を啓発した。

    WHO(世界保健機関)によると、世界の約23億人が安全で衛生的なトイレを使用できておらず、そのうちの3人に1人は屋外排泄を行っている。そうした不十分な衛生状態が原因で下痢性疾患になり亡くなる5歳未満の子どもの数は、1日あたり約800人に達する。しかし子どもたちが食事や排泄後などに石鹸で手洗いした場合、下痢性疾患になるリスクは40%も下がるという。

    トイレを設置する重要性は、衛生面だけにとどまらない。屋外排泄に行く途中、女性が暴行を受けることや、男性であってもコブラなどに襲われて亡くなることがある。また学校にトイレがないことで、思春期の女生徒が恥ずかしさや生理を理由に学校に通わなくなることもある。

    衛生課題の解決は民間レベルでの連携なくして不可能

    世界銀行などの調査によると、SDGsの目標6を達成するために、水と衛生設備へのアクセスがない地域に基本的な設備を整えるには、2030年までに毎年284億ドル(約3182憶円)が必要だと言われている。しかし水や衛生課題分野へのODA(政府開発援助)の支出は全体の約5%と少なく、民間企業の投資と製品の開発なくして課題解決が難しい分野だ。

    そんな中、リクシルグループは昨年からBOP市場でプラスチック製の簡易式トイレ「SATO」を現地生産し、2―10ドル程度で販売する事業を本格化している。同製品は現在、世界15カ国で約120万台が使われている。

    簡易式トイレ「SATO」の開発責任者、石山大吾さん

    SATOの開発責任者を務める石山大吾さんは、現地生産の課題について「流通経路の把握とパートナー探しが重要だ」と話す。

    「その国の全域にSATOを普及できるようなパートナーと組み、製造する人、輸送する人、販売する人、設置する人も儲けられるようにする。さらに、現地の人が買える価格設定にする。そのことに労力と時間をかけている」(石山さん)

    SATO事業を推進するのは、石山さんが所属するBOP市場向けのソリューションビジネスに特化した専門家チーム「ソーシャル・サニテーション・イニシアティブ部」だ。来年以降、人員を増やすなどし、現地製造する地域を拡大し、インドネシアやベトナムなどアジア太平洋地域での販売を行っていくという。

    得意分野を生かし、日本から革命を

    リクシルグループが17日、東京・六本木で開催した「LIXIL 世界トイレの日フォーラム2017」には、共同宣言を発表した4つの企業・団体とユニセフとJICAの代表が登壇した。

    世界トイレ機構のジャック・シムさん

    世界トイレ機構の創設者であるジャック・シムさんは、「世界トイレの日」を制定し、衛生課題の解決に向けて活動している。「日本がこれまで漫画や日本食、カイゼンなどの文化を海外に紹介してきたように、日本のトイレ文化を輸出する時だ。トイレがあることはかっこいいことで当たり前のことだという文化を途上国に根付かせたい」と語り、「ぜひ色々な組織の方々にもこの連携に参加していただき、議論を進めていきたい」と話した。

    リクシルグループのジン・モンテサーノ執行役専務は、「安全で衛生的なトイレを利用できることは基本的人権だ。水や衛生の課題はイノベーションがなかなか起きなかった分野だが、日本には世界に誇れる衛生技術がある。得意分野を持つそれぞれのセクターが連携することで、世界に革命を起こせるだろう。企業として、イノベーションを生み出し、低価格で持続可能なソリューション提供を進めたい」と語った。

    サラヤは2011年からウガンダで現地法人「サラヤイーストアフリカ」を設立し、石鹸での手洗いの習慣化と医療施設での消毒の普及を進めている。代島裕世取締役は、「トイレと手洗いは切っても切れない関係だ。すべてのパートナーシップが結びついて、単独ではできないことが実現できる。2050年にはアフリカのサラヤが日本よりも大きくなっているかもしれない。会社の未来を見据えて、ここから種まきをしていきたい」と力強く語った。

    ANAは社会起業家のフライト支援を行う「ブルー・ウィング・プログラム」で、世界トイレ機構のジャック・シムさんのフライト支援を行っている。同プログラムを立ち上げたANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボの深堀昴さんは、「ANAが提供する価値は『世界の人をつなげること』だ」と話す。現在は、アバターを使った社会課題の解決策「アバター・プログラム」に取り組んでいる。「ロボット技術を使い、飛行機に乗って移動せずとも、世界中のお医者さんが仮想空間上のアバターを介して遠くの人の医療診断ができるようにしていきたい」と今後について語った。

    written by

    小松 遥香(こまつ・はるか)

    オルタナ編集部

    アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。趣味は、大相撲観戦と美味しいものを食べること。

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