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シェア自転車、なぜ中国は急増、日本は停滞?

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駅前のモバイクとオッフォ(北京市内で筆者撮影)

中国で自転車シェアサービスが爆発的に伸びている。北京市のユーザー数は2016年8月の38万人から2017年4月までに約1100万人へと急増。1年足らずで北京市市民のほぼ2人に1人が利用する巨大サービスへと成長した。一方で日本の自転車シェアは総じて出足が鈍い。なにが違うのだろうか。 (北京=斎藤淳子、オルタナ編集部=沖本啓一)

日中のサービスで料金と「使いやすさ」に違い

中国のシェア自転車の最大の特徴は使い勝手の良さだ。車体にGPSを搭載することで、特定の駐輪拠点ではなくても利用できるようになった。車体のQRコードをスマートフォンでスキャンして開錠し、利用後は好きな所で乗り捨てられる。

登録手続きや保証金と使用料の支払いもスマホで即時完了し、料金は30分一回1元(約17円)と安い。東京より5割多い約600万台の車がひしめく渋滞都市の北京では、自転車とバス・地下鉄を組み合わせた移動の方が、自動車での移動より9割の確率で速いという(「自転車交通青書」2017年9月)。

日本では駐輪ポートでの使用が前提。1箇所につき5~10台の自転車が配置されている。

一方、日本ではどうだろうか。実際に記者が代官山~渋谷間でシェアサイクルに乗ってみた。利用したのは今年10月にサービスを開始したばかりの「渋谷区コミュニティサイクル」だ。物価の違いはあるものの、30分150円と中国ほどのお得感はない。

日本では駐輪拠点(ポート)でないと乗ることができない。記者が利用しようとしたところ、駅から最も近いポートでは、全て利用中で自転車がなかった。これではビジネスにはなかなか使えない。乗ってしまえば、電動アシスト付きの自転車での移動は東京でも快適だが、返却のためのポートも探さなくてはならず、なかなか日常的に利用しにくいというのが正直な感想だった。

渋谷区コミュニティサイクルなどを運営するドコモ・バイクシェアでは「日本では乗り捨ては文化的にもなじまない。ポートを拠点にする方式が日本では最も適切と考えている」と話す。

中国はSNSで利益度外視のキャンペーン

北京市内の大学キャンパス内(北京市内で筆者撮影)

北京市で運営する15社のシェア自転車企業のうち、市場シェアの約9割をほぼ互角に占める2大勢力の「モバイク」とofo(オッフォ)」の戦略を見てみよう。両社は「ウィーチャット」などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を中心に、利益度外視のキャンペーンを展開している。

特に、大学キャンパス内で生まれ、学生をコアユーザーとしてきたofoは当初から保証金額を199元(約3400円)とモバイク(299元=約5100円)の3分の2に設定し、低価格戦略を展開している。

さらにofoは、今夏は「1カ月限定1元で乗り放題」、秋には新規登録者向けの「保証金免除、59元で1年間乗り放題」など激しい値引きキャンペーンを実施した。モバイクも今秋、「新規登録者は5元で90日乗り放題」と応戦した。

モバイクは8月に札幌で日本でのサービスを開始したが、その後目立った展開は見られない。ofoはソフトバンクC&Sと提携し、「9月以降にサービスを開始」と8月に発表したが、11月13日現在、まだ営業開始の動きはない。ofo広報担当に問い合わせたところ「調整中のため進展が決まり次第、発表する」と回答した。実際には「日本での戦略が未定」とのことだ。

中国では自治体が積極的に後押し

最近新たに塗装整備された自転車専用道路(北京市内で筆者撮影)

中国では、行政が環境改善の必要性から自転車振興に前向きだったことも追い風になった。北京市環境保護局によると、自動車排気ガスは微小粒子状物質(PM.2.5)による最大の汚染源で、大気汚染源の約3分の1を占める。北京オリンピックのころから行政は区営のレンタル自転車事業に2万1000台の自転車を投入するなど、自転車都市に向けたビジョンを持ち続けてきた。

その後、シェア自転車導入後の半年ごろから無秩序な駐輪などが問題になり、、政府は管理強化の側面を強めた。今年5月、運営企業に対して駐輪管理、保険加入や利用者の保証金及びデータ管理の強化を要請する一方、各地方政府に対しては駐輪場や自転車道などの整備を求めた。

これを受けて北京市は今年10月、市内の600キロにわたる歩道と自転車道の補修・整備や、自転車専用高速レーンの新設計画などを発表。市内の記者宅付近でも自転車用レーンが赤く塗装され、自転車用インフラの整備が始動している。

日本のシェア自転車の体制作りはこれから

日本ではポートの利用を前提としているが、ポートに使える土地が少ないという課題がある。ドコモ・バイクシェアの場合、全国のポート数は2014年度末に158か所だったが、2017年10月には589か所まで増加した。それでも「利便性を考えるとポートの数はまだまだ足りない。コンビニと提携することは考えている」(ドコモ・バイクシェア)。

東京・原宿で11月8日に開催された「シェア・サミット2017」に登壇した高井崇志・衆議院議員は「ポートの確保に行政と民間の連携は必須。普及には、ポート数を一気に増やすことが必要。自治体がもっと自転車中心の社会を創る取り組みをするべきだ」と力を込めた。

中国の投資ブームと「走りながら考える」メンタリティ

中国のITビジネス企業も自転車シェアに熱い視線を投げかける。「どうすれば儲かるかはまだ分からない」という王暁峰・モバイクCEOの発言にもかかわらず、同社に潤沢な投資資金が流入し続ける。アリババ(ofoを支援)やテンセント(モバイクを支援)などによる巨大投資無しには、短期間の大量の車両投入や派手な値引きキャンペーンも不可能だったはずだ。

中国では企業、消費者、自治体のそれぞれが「やってみないと分からない」という変化に対応する意識を持っている。中国の自治体は、新規サービスに対して当初は過度の規制はせず、導入後の影響を見極めてから管理と振興策を打ち出す。「前例がない」ことを恐れる日本のお役所にとって参考になりそうだ。
中国ではサービスの魅力、迅速で強力な企業の対応、積極的な自治体の受け入れ、過去の自転車王国インフラの遺産、そして、昨今の上向きな中国経済環境などが中国のシェア自転車の大ブレークを後押しした。日本との違いも多い一方で、中国の「前例」は日本への示唆にも富んでいる。

日本でも2011年度に年間4万回だったシェア自転車利用数は2016年度に220万回になっている(ドコモ・バイクシェア)。ただし、中国のように「交通インフラ」として、爆発的な流行を引き起こしていないのは一目瞭然だ。大規模な土地や資金投入は中国同様にはできないが、マナーの良さや限られた資源の有効利用などは日本人の得意分野でもある。日本独自のシェアサイクル文化の醸成が期待される。

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