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エシカルの看板をあえて下ろしたジュエリーブランド

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「エシカルという言葉を使えば使うほど、意味合いが薄れていくように感じた」――。ジュエリーブランドHASUNA代表の白木夏子さんはそう話す。同ブランドは、日本のエシカルジュエリーの草分けで、ジュエリー業界では不可能とされてきた倫理的な素材調達を行う。伊勢丹新宿店にも常設店を構え、世界的なジュエリーブランドと勝負するなか、エシカルから「パーペチュアルジュエリー」へブランドコンセプトを変えた。(オルタナ編集部=池田 真隆)

HASUNAを立ち上げた白木夏子さん

ジュエリーブランドのHASUNAは2009年4月に立ち上がった。金融業界で働いていた白木さんは、大学時代に見たインドの鉱山労働者が働く劣悪な環境に問題意識を持っていた。鉱山では素足で、劣悪な環境の中働く子どもたちがおり、「この子たちのために世界を変えたい」と決意し、自分の得意とするジュエリー作りの分野で27歳で起業した。

当時ジュエリー業界では、素材調達の過程が透明化されておらず、エシカルな素材を調達することは不可能だといわれていた。白木さんはパキスタンなどへ赴き、自身の目で児童労働がされていない素材を確認し、一つずつ調達していった。

しかし、創業した当初は、現地で大規模なテロが起きるたびに、現地との連絡が取れなくなったり、営業先に「エシカル」を売りに説明しても、相手にされなかったり、多くの壁にぶつかった。起業に用意していた資本金も数カ月で底を尽き、両親に泣きながら土下座して、お金を借りたこともあったという。

それでも、素材の産地・採掘工程など制作過程における透明性を大切にしたジュエリーは共感され、多くの人を巻き込みながら年々成長を続けた。2013年には、百貨店の売上規模が世界トップクラスの伊勢丹新宿店1Fに常設店を出した。2014年4月には、日本で初となるRJC(責任あるジュエリー協議会)の認証を取得した。

HASUNAはエシカルジュエリーの草分けとなり、創業者の白木さんは、社会起業家の第一人者として、世界経済フォーラムGlobal Shapersなどに選定された。

「続けていけば必ず誰かが助けてくれる」と社会起業を志す若者へエールを送った

拡大を続け、創業10年目に向かう今、HASUNAはブランドコンセプトを変えた。新コンセプトは、「PERPETUAL JEWELRY(パーペチュアルジュエリー)」。永続的に絶え間なく続いていくという意味を込めた。合わせて、「Signature」「Swing」「Timeless」「Holy」の4種類の新コレクションを発表した。

白木さんは、「私たちが一番大事にしていることは、親から子へ、世代を越えて、長く使い続けてもらうこと。永続的に愛用される普遍的な美しさを目指しています」と話す。
これまでの製品は、自然をモチーフにした丸みをおびたものが中心だった。コンセプトを変えたことで、普遍的な美を追求するために、直線的なデザインにも挑戦し、クールで潔い空気感を追求した。

日本の職人の繊細な技術力を最大限に生かし、ゴールドの形を三角柱にした。四角柱より、三角柱の方がさまざまな角度から光が当たるので、屈折が生まれてより輝く。「素材の持つきらめきを最大限に生かした」と言う。

今回、パーペチュアルジュエリーとして生まれ変わるが、エシカルを捨てるわけではない。会社を経営して8年が経つが、「エシカルは当たり前で、心の中に自然にあるもの」と話す。さらに、「(エシカルという)言葉を使えば使うほど、その意味合いが薄れていく気がする」と明かした。

Signature。巧みに磨き上げられた三角形のバーと、つややかなベネチアンチェーン

日本ではグーグルでの「エシカル」の検索件数は、2010年に4.6万件だったが、2015年にはその10倍の46万件に及んだ。「マーケティング用語として、言葉だけが一人歩きしている。エシカルという言葉だけが独り歩きする可能性もある。大切なのは、言葉ではなく、エシカルを当たり前に捉えること」とブーム性のエシカルに警鐘を鳴らした。

世界的なブランドへ、本格的に海外に拠点を構えることも検討中だという。まずは韓国や台湾から始め、ヨーロッパや米国のマーケットも見ている。

世界で勝負していく上で、「日本の職人の技術力が問われる」と話す。金はペルー・コロンビアなど、ダイヤモンドはカナダ・ロシア・ボツワナ、石はパキスタンなどから取り寄せているが、加工は日本の職人に依頼している。

「日本人の職人だからこその細部までこだわる繊細な仕上げ」と絶賛する。一方、日本の職人の給与に関しては、「長年修行を積んだとしても、とてもリスペクトされているとは思えない金額で働いている人が多い。日本の高い職人技術を認め世界に広めたい」と日本の宝飾業界の歪みにも触れた。会社としても、個人的にも日本の職人技術を支援していきたいと力を込めた。

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池田 真隆 (いけだ・まさたか)

株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナS副編集長