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響き合い、つながり合うウェルビーイング

【武蔵野大学ウェルビーイング コラム】第3回 ウェルビーイングと「生きる意味」

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SB-J コラムニスト・武蔵野大学ウェルビーイングコラム

第3回 吉野優香

何のために生きているのだろう。生きる意味がわからない。

大切な人がこのように言っていたら心配になりそうな言葉です。念のために注釈をいれると、上記の言葉に「死にたい」とか悲観的な言葉が続く場合には適切な援助要請が必要になりますが、おそらく誰しもが人生で1度くらいは自問自答したことがある問いではないでしょうか。

私は心理学を専門としていますが、「何のために生きているのか」は、ポジティブ心理学の文脈から見ると、人生の意味(meaning in life)の研究と関連する話です。人生の意味とは、「自分自身の人生に対するa)価値と意義、b)理解可能性と納得感、c)1つもしくは複数の非常に価値のある包括的な目的や使命の受容や追及によって人生を説明できること、の3点における主観的な判断」1)とされています。

例えば、あなたが「社会の幸せの実現」を、価値も意義も高く、人生の意味として納得できると考え、かつ人生がその目的を追求するためにあると考えるならば、それはあなたの人生の意味です。研究では、人生の意味を有する人は幸せであり2) 3)、人生の意味を「探している人」は全体的に幸福度が低いとされています4)

「生きる意味が分からない」と感じる人が自らを不幸であると考えるならば、それは人生の意味が見つからず探していることが背景にあると説明できます。しかし、生きる意味が分からないと感じることのある人であっても、常に人生の意味を探索しているわけではないはずです。人生の意味を探索しがちな人も仕事終わりの一杯や友人との語らいをすることで、このために生きていると思うことがあるように、実は個人的で刹那的な満足を志向する人生の意味を有していた、ということもあるかと思います。

ところで、個人的で刹那的な満足を志向することは、「社会の幸せの実現」のような超越的で永続的な業績を志向することに比べ「人生の意味」として不適切なように感じられます。ですが、「楽しい時間を過ごすこと」も「社会の幸福の実現」も、人生の意味の定義から逸脱する部分はないため、どちらも人生の意味であると言えます。

このように考えると、人生の意味を有している状態は多様であり、確固たるものもあれば、揺らぎ変化することもあり、また道義的もしくは克己的に定めなければならない、というわけでもないようです。

ここまでの話は「参考文献1)」に基づいて説明していますが、そのなかには、人生の意味を1つのモデルに整理し、人生の意味に関する統一モデルも示されています(図参照)。モデルでは、人生の意味の3つの側面(意義、理解、目的)の割合が円によって表されています。各側面の割合は均等であるとは限らず、個人によって異なります。

図の左側には、超越的で永続的な業績から個人的で刹那的な満足まで幅広い人生の意味の志向性が表現されています。

図 Stegerの考える人生の意味に関する統一モデル(「参考文献1)」を基に編集部作成)

人生の意味の探索は矢印で表され、意味に出会い上昇し高揚する様子や、出会えずに下降し落ち込む様子が表現されています。これと同時に、人生の意味の探索を経て人生の意味が変容する可能性も示しています。

「参考文献1)」のモデルに基づけば、例えば家族の幸せに意義を見出し生きることも人生の意味であり、仕事の業績アップという目的の遂行のために生きることも人生の意味です。加えて、これらの人生の意味を社会の繁栄のような超越的な業績のために志向した場合も、個人的な満足のために志向した場合も、どちらも人生の意味であると解釈できることになります。また、仕事に人生の意味を見出していた人が家族に人生の意味を見出す変化や、その逆の変化もあり得ます。

人生の意味を有することは幸せな人生を送る鍵かもしれませんが、人生の意味を超越的で永続的な業績をなすような意味に限定し、終わらない探索を繰り返すことで不幸せを感じることは、本末転倒に思います。ご飯を食べる、友達と過ごす、大好きなあの人の笑顔を目にするなど、日常の中にある個人的な満足を個人的で刹那的な人生の意味として見直すだけで、誰もが人生の意味を見いだせる可能性があるのです。

人生の意味は探索を繰り返すことで変化もするようですから、いつどのような形態の人生の意味を有していてもよいはずです。音楽好きの人が自己の「楽しい」を追求した結果、他者や世界の幸せを願う音楽家になることがあるように、個人的な満足や刹那的な人生の意味を追求し探索し続けた結果、いつの間にか人生の意味が超越的で永続的な業績をなすような意味になっているかもしれません。

一度限りの人生がいろいろな意味に彩られることによって、皆さんそれぞれのウェルビーイングが実現されたら良いなと思います。

参考文献
1) Steger,M. F. (2021). Meaning in life – A unified Model --. In C. R. Snyde, S. J. Lopez,L. M. Edwards,& S. C. Marques (Eds.), The Oxford Handbook of Positive Psychology Third Edition,(pp.959-967). New York: Oxford University Press.
2) Schnell,T. (2009). The source of Meaning and Meaning in Life questionnaire (SoMe): Relations to demographics and well-being,Journal of Positive Psychology,4,483-399.
3) Shek,D. T. L. (1992). Meaning in life and psychological well-being: An empirical study using the Chinese version of the Purpose in Life Questionnaire. The Journal of Genetic Psychology,153,185-200.
4) Park,N. Park,M. & Peterson,C. (2010). When is the search for meaning related to life satisfaction? Applied Psychology Health and Well-Being,2, 1-13.

吉野 優香(よしの・ゆか)
武蔵野大学ウェルビーイング学部 講師
研究・専門領域は、心理学、社会心理学

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武蔵野大学ウェルビーイングコラム
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