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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第30回 CSRとCRM

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

「あなたが食べると、もう1人がうれしい」。有名お菓子メーカーによるチョコレートのキャンペーン・メッセージです。社会的価値をもたらすCSR活動とマーケティング手法が融合したCRMの好事例です。

「1チョコ for 1スマイル」

森永製菓は、経済的な自立が難しいカカオ生産国の子どもたちの笑顔のために、商品売上連動型キャンペーン 「1チョコfor 1スマイル」を行っています。2008年に創業110周年を記念したCSR活動として開始しました。対象商品1個につき1円をカカオ生産国における子どもたちの教育支援、およびカカオ農家の自立支援に充てる活動です。この活動は、創業者の「世界の子どもたちをお菓子で笑顔にしたい」という想いを具現化すると同時に、菓子を通して消費者を満足させるとともに、社会支援にもなる取り組みということです。

こうしたビジネス戦略は、コーズ・リレーテッド・マーケティング(Cause Related Marketing:CRM)の好事例といえます。CRMは、企業の商品・サービスの収益の一部が、慈善団体などに寄付されることで、社会課題の解決に資するというマーケティング手法であり、社会価値と経済価値を同時に実現することができます。

CRMの歴史と事例

CRMの歴史は比較的古く、日本では1960年にスタートした「ベルマーク運動」がその先駆けとなり、米国では1976年にホテル大手のMarriott CorporationとMarch of Dimes(早産や乳児死亡等を減らし、母子の健康を改善することをミッションとする慈善団体)が協働して実施したキャンペーンが、初期の成功事例とされています。

Marriottの目的は、一つは米国カリフォルニア州サンタクララに建設した大規模ファミリー向けエンターテイメント施設のオープンに際し、効果的なPRとメディア露出を図ることであり、もう一つはキャンペーンを通じてより多くの寄付を集めることでした。このキャンペーンは米国西部の67都市で同時に開催され、結果として当時としては前代未聞となる240万USドル(約2億7700万円)もの寄付金を集めると同時に、数多くのパブリシティ(報道等のメディア露出)によりMarriottの施設にオープン年に220万人が訪れることになり、キャンペーンは当初の2つの目的を大きく達成しました。

また、「コーズ・リレーテッド・マーケティング」という言葉が広く普及するきっかけとなった成功事例としては、1983年のAmerican Expressによる「自由の女神修復プロジェクト」が挙げられます。同社はカードの発行1枚あたり、カードの利用1回ごとにアメリカン・エキスプレスが1セントを修復資金として寄付をするというキャンペーンを展開し、結果として自由の女神の修復基金として170万ドル(約1億9600万円)を寄付することができました。

そして近年、日本で展開されたCRMで、その意味合いが広く認識されたのは、Volvic(ボルヴィック)の「1L for 10L(ワンリッター フォー テンリッター)」でしょう。「ボルヴィック・1リットル分の出荷につき、ユニセフとの連携で、アフリカに住む人々に10Lの清潔で安全な水を供給する」という明快なキャンペーンで、2007年から2016年まで続きました。

「1L for 10L」は、他社にも影響を与えたといわれる息の長い活動でした。CRMは社会課題に関わるため、ある程度長い目で取り組む必要があります。一方で企業としては、一定の収益が確保できなければ社会貢献も長続きし得ないわけで、両者のバランスをどう取るかが経営やマーケティングの腕の見せどころとなります。

コンシャスコンシューマーとCRM

CRMの登場によって、消費者は該当商品の購入という行為を通して、手軽に社会貢献ができるという手段を手にすることができました。消費トレンドのひとつとして、コンシャス・コンシューマー(Conscious Consumer:社会課題に関心の強い消費者)が存在感を増しています。自分の消費行動がもたらす結果まで考え、なるべく負のインパクトを環境や社会に与えないことや社会の課題解決に対して、選択肢を求める人を意味します。その代表例として、次世代の消費を担う「ミレニアル世代・Z世代」が台頭してきています。CRMは、こうしたコンシャスな消費者の琴線に触れるマーケティング手法として期待されています。

CSRとCRM

とかく、CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業市民」的な概念も根強く、「CSRとは社会貢献」という認識が多いようです。あわせて、リスク対応の側面で捉えられ、義務的・受動的に取り組む傾向があります。CSRは進化してきており、2006年にハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授が、「戦略的CSR」のコンセプトにて、本業を通じた社会課題の解決や社会価値の提供を唱えました。そして2011年には、経済価値と同時に社会価値を創出する「CSV(Creating Shared Value)」を提唱するに至っています。広義のCSRは、社会貢献活動を含みつつ、リスク回避のための基本的CSRと価値共創の側面であるCSVを包摂する概念となっています。したがってCRMは、社会価値と経済価値を両立させるCSR活動の一つと位置付けられ、主にマーケティング・広報セクションが担当するに適しています

「CRMウォッシュ」とならないために

CRMは、CSRとマーケティング手法を融合した次世代型ビジネス戦略として期待される反面、留意すべき大事な点があります。

コーズ・リレーテッド・マーケティングの「コーズ(cause)」は、直訳すれば、「原因・理由」といった意味となります。ただ、CRMの文脈では、マーケティング活動の元になる原因・動機として、社会課題にまつわるものであることが前提となります。企業が持っている主張、主にどのような社会的課題を解決したいかがコーズの本意です。すなわち、日本語でいう『社会的大義』という理解をお薦めします。昨今脚光をあびる「パーパス(Purpose)」の概念といえましょう。

したがって、単なるマーケティングのお題目として社会性を標榜し、小手先やうわべだけの取り組みと見透かされれば、『CRMウォッシュ』の烙印を押されかねません。イメージアップや好感度獲得のみを目的とした『ええかっこしい』は厳禁です。

コーズ・リレーテッド・マーケティングは、大義とつながったマーケティングです。すなわち、社会的大義のもとに成立するマーケティングです。冒頭の森永製菓のキャンペーンは、創業者の信念や想いを具現化するという、理に適った好事例といえます。

持続的成長に向けて

「1チョコ for 1スマイル」は、ガーナなどカカオの生産国の子どもたちが安心して教育を受けられるように、商品の売上の一部を使って支援する活動です。この活動により、チョコレートを食べる消費者の共感を得られるとともに、結果として企業側にとっても、チョコレートの原料であるカカオの「持続可能な調達」が実現できるというストーリーが描けます。そして、表層的・一過性でない本筋のCRMは、社会的評価(レピュテーション:reputation)を高め、企業価値向上のキーファクターである無形資産に寄与します。それが持続的成長の原動力となり、『らしさ』を持ち味として発揮すれば、サステナブル・ブランディングにつながります。

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細田 悦弘
細田 悦弘 (ほそだ・えつひろ)

中央大学大学院 戦略経営研究科 フェロー / 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 キヤノンマーケティングジャパン(株)入社後、営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、同社・サステナビリティ部門に所属しながら、企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。CSR・サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において、豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

中央大学ビジネススクール 戦略経営アカデミー講師、一般社団法人日本能率協会 主任講師、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、経営品質協議会認定セルフアセッサー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員、 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。


◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~ ) など。

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