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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第25回「ドラゴン桜」とインターナルブランディング

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

連続ドラマ「ドラゴン桜」が話題を集めています。とっておきの受験テクニックやユニークな勉強法も興味深いですが、サステナビリティを社内で推進する上で参考となる名言も多く発せられています。

「ドラゴン桜」の名言に学ぶ!サステナビリティ推進の極意

TBS系「日曜劇場」の連続ドラマ「ドラゴン桜」が高視聴率を獲得しています。特に第7話では、世代別の「ティーン層(13~19歳)」の数字が番組最高をマークしました。東大合格を目指す劇中の高校生と同じ受験生世代に響いているとみられています。

本作は2005年に同局で放送され、社会的ブームとなった大ヒット学園ドラマの16年ぶりとなる続編です。主演の阿部寛さん演じる元暴走族で弁護士の桜木建二が、偏差値が低迷し経営破綻寸前の私立龍海学園の再建に挑む姿を描いています。ドラゴン桜ではさまざまな受験テクニックやユニークな勉強法が紹介されるだけでなく、学びになる名言も多く発せられます。この熱いメッセージが、サステナビリティの『社内浸透』(インターナルブランディング)の参考となり、琴線に触れます。珠玉の名セリフから、2つ引用します。

①「暗記よりも、物事の本質をとらえる力をつけろ!」

秀才・藤井遼の付箋だらけのノートを見てしまった東大専科の生徒は、水野直美(桜木の教え子・⻑澤まさみさん演じる仲間の弁護士)が出題するクイズより、英単語を一つひとつ覚えた方がいいと主張します。しかしながら桜木は、単に暗記するのではなく物事の本質を考えることが大切だと強く訴えます。東大の入試にはありふれた日常の問題が出題されることも多くあります。だからこそ、「あらゆる角度から本質を見抜く力をつけろ」と言いたかったのです。

▶︎「CSR/CSV/ESG/SDGs」の断片化に要注意

サステナビリティの世界では、続々と登場するテクニカルタームに翻弄されがちです。言うなれば、「葉っぱを見て枝を見ず、枝を見て木を見ず、木を見て森を見ず」といった富士の樹海(青木ヶ原樹海)現象です。

勢い、「CSRはもう古い、これからはCSRからCSVだ、今はESGが旬だ、いやいやSDGsが主流だ」といった個別概念の断片化と錯綜が生じてしまいます。この原因として、これまで広く普及したCSRの解釈(本業とは関係のない社会貢献活動)とあるべき本来のCSR(社会への対応力)の間にギャップが大きく、それに対応する企業においても、先進企業とそうでない企業との間で二極化してしまったことが推察されます。実はCSVもESGもSDGsも、本来のCSRの概念が原則(Principle)であり、サステナビリティがゴール(目的)となります。

下記に、サステナビリティ経営の底流に響く通奏低音を示します。

企業がこの世に存在し事業を営めば、必ず地球や社会に影響を及ぼします。その「影響」には、負の影響(Negative Impact)と正の影響(Positive Impact)があります。現代社会において企業セクターは、ネガティブは防ぎ、ポジティブは能動的に発揮し、サステナビリティを希求することが強く求められています。これを企業側からみれば、前者が「リスク回避」の側面であり、後者が「事業機会の創出」の側面と捉えることができます。こうしたスタンスで事業を営む企業は、持続的成長・中長期的な企業価値向上を図ることができると資本市場等で評価される。こうした文脈が本質的理解につながるセンターラインです。

サステナビリティ・SDGsを推進する極意は、その本質を自社にフィッ トするように「翻訳(わかりやすく言い換える:rephrasing)」して、ブランド意識と融合させ、共感を得ていくことです。テクニカルタームは噛み砕き、複雑な概念は解きほぐします。社員は、意味がわかれば、意義に気づきます。意義に気づけば、自発的に動いてくれます。したがって、サステナビリティやSDGs研修等の社内講師を務めるには、コミュニケーション能力・プレゼンスキルに磨きをかけることも不可欠です。

②「強制と服従の時代は終わったんだ」

勉強合宿で放たれた桜木先生の言葉です。時間割は「自由」。16時間ぶっ続けで勉強するような地獄の勉強合宿ではなく、勉強するのも休むのも自由とのことです。東大受験と聞いて一般的に想像するのは、ぶっ続けの勉強ではないでしょうか。ところが今の時代、この桜木先生の語る「自由」な勉強のほうが、確実に成績が上がるというわけです。目標が与えられ、自由にやれと言われたからこそ、それまで教わったことも含めて、「納得」することができます。人は「いいからやれ」「つべこべ言わずにやれ」と言われても、やりたくないと感じてしまいます。だからこそ桜木先生は、生徒に「東大」という大きな目標を提示し、そこから先は生徒を信じるということです。「自由だ」と言ったからって、それで彼ら彼女らが勉強しないわけがない。そう考えて自由にやらせて、生徒の自主性を引き出したわけです。これからは「自由」にして自分で納得していく方式が効果を発揮するといえましょう。

▶︎「サステナビリティ・SDGs」推進のためのインターナルブランディング

「社内浸透」というと、「上から目線」で「落とし込む」「一方的に伝播する」といった語感がありませんか。サステナビリティ・SDGsの原動力は、社員の自主性・主体性です。そのためには命令や強制ではなく、「共感」が第一です。お仕着せの教育ではなく、創業の精神・企業文化の根っこから「自社への誇り」に訴え、社員が腹落ちし自発的に行動に結びつけてもらうことが大事です。そのためには、インターナルブランディングをお薦めします。

インターナルブランディングとは、社員に対して「サステナビリティ・マインド」や「ブランド意識」を理解・共感してもらい、誇りと自覚のもと自発的・主体的な行動に反映させていく『戦略的な社内浸透術』です。目指すのは、時代にふさわしい企業の考え方や価値観(サステナビリティ)、あるべき姿や目指す方向、そして『自社らしさ(Brand Identity)』を伝え、共有することです。従業員と企業の想いをシンクロさせ、個々の従業員の意識・活動を同じ方向に向けていくことが重要です。

社員一人ひとりが自社ブランド

サステナブル・ブランディングにおいては、サステナビリティ・SDGsの本質的理解を通じて、あらゆるステークホルダーとの接点(タッチポイント)で企業の評判とブランドは創られることを肝に銘じ、全社員で「社会(ステークホルダー)」を意識しながら、価値を提供することが肝心です。「あれは、やめておきましょう」「これは、やりましょう」という他律的な働きかけではなく、自社ブランドへの誇りにかけて「あれはやめておこう」「これはやっておくべきだ」と一人ひとりが自立的に発想することを目指します。

そのゴールイメージは、社員一人ひとりが、自社のブランドのあるべき姿、サステナビリティ時代のステークホルダーの要請・期待をしっかりと認識し、『一人ひとりが自社ブランド』と自覚して、ブランドのありたい姿を体現していくという意識を持って業務に携わることです。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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