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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第22回 DXでつかむ!時代が求める新しい競争力!

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

今年も「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」が開催されました。横浜といえば、幕末の黒船でのペリー来航を思い起こさせます。日本が約200年続けた鎖国は終わりを告げ、歴史を変える重要な転換点となりました。現代においても、DX革命が巻き起こり、ビジネス界のゲームチェンジの勢いが押し寄せているようです。

セッションのテーマ:「DXでつかむ!時代が求める新しい競争力」

今年で5回目となる「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」が、2月24日-25日の2日間で開催されました。両日で延べ 4100名(オンライン参加を含む)を超える皆様が集いました。

私が担当とするセッションは、「DXでつかむ!時代が求める新しい競争力~選ばれ続ける企業であるために」と題して、DX先進企業のキーパーソンをパネリストにお迎えして行いました。

テーマは、サステナビリティ・SDGsへの関心の高まりやコロナ禍に起因する社会環境の著しい変化により、企業活動が大きな変革期を迎えている中、「DX:Digital Transformation」によって、いかに現代社会の期待に応えるかという視点です。人の移動やフィジカルなコミュニケーション等が制限される状況下、DXに対する需要や期待が日に日に増しており、社会インフラとして欠くべからざるライフラインであることを、多くの人が強く認識したことでしょう。

今この時代の新たな価値観においては、これまで以上に時代にふさわしく存在意義(Purpose:パーパス)を発揮し、自社の持ち味を生かした社会課題解決が期待されています。それを実現するには、DXが大きな役割を果たします。DXによる自社らしい社会課題解決を通じ、コーポレートブランドに磨きをかけるというゴールデン・ストーリーが、サステナブル・ブランディングにつながります。

本稿では、セッションのセンターラインとなるセオリーの勘所をお伝えします。

DXによるゲームチェンジ

セッションのプロローグでは、ちょうど同時期に放映が始まった、NHK大河ドラマ・第60作「青天を衝け」を引用しました。このドラマは、吉沢亮さん演じる「日本資本主義の父」とも称される渋沢栄一を主人公に、幕末から明治までがエネルギッシュに描かれます。2024年からの新1万円札の顔として知られ、「論語とそろばん」で有名な偉人ですので、本サイトの読者は関心の高い方が多いことでしょう。

その第3話から、いよいよアメリカ合衆国の軍人マシュー・ペリー提督率いる艦隊(黒船)来航のタイミングでしたので、まさに今日の「DX」の到来が、ビジネス界のゲームチェンジを引き起こしつつある旨のメッセージを発信しました。

ゲームチェンジとは、ビジネス界の常識やいろいろな慣習を大きく変えるようなことを指します。革新的な技術で今まで不可能だったことができてみたり、考えられないほどのコストダウンを実現することで、今までのビジネスのルールを抜本的に変えてしまうということです。過去の代表例では、インターネットの普及で我々は経験済みです。DXはさらに大きなうねりとして出現し、コロナ禍によって加速しているといえます。黒船もDXも、それを脅威としてのみ捉えるか、千載一遇の機会(opportunity)として挑むかによって、将来を左右することになるのは言うまでもありません。デジタル化が広く深く進展すれば、経済システムや産業のあり方、個人のライフスタイル、企業が目指すべき存在意義など、あらゆる面で世界観が変わることが想定されます。

「DX」は、企業を丸ごと変えるもの

企業が取り組むべきDXについて的確に表しているものとして、経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」が挙げられます。それによると、DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。

この定義によれば、「データとデジタル技術を活用して」となっており、それらはあくまで「手段」として位置づけられています。巷間では、DXはブームと言っても過言ではありませんが、単にAI、5G、IoTなどのデジタル技術を活用することが「目的」ではないということを意味します。すなわち、それによって、「製品・サービスやビジネスモデル」にとどまらず。「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土」までも変革するとしており、変革(Transformation)の対象は、『企業を丸ごと変えること』といえ、非常に広範な概念です。すなわち「DX」の本質は、デジタルで企業を変革するのではなく、デジタルに適合した企業に丸ごと生まれ変わらせることを意味します。

そして定義の後半に、「競争上の優位を確立すること」とありますが、これまでの優位だったものが、劇的な変化によって、陳腐化したり、コモディティ化したりすることがあり得ます。そこで、「パーパス」にあらためて立ち返り、時代に適合するために、DXを通じて「社会的存在意義」を発揮するという発想が求められます。それにより、競争優位を維持し、さらに強化するという文脈です。このコンセプトは「サステナブル・ブランディング」のフレームに当てはめてみましょう。

DXを通じて、パーパスを実現する

企業ブランディングに、サステナビリティ要素で現代的意味づけを行い、時代が求める価値を赤“自社らしく”提供し、社内外のあらゆるステークホルダーと良好な関係性を構築していく。これが、私の提唱する「サステナブル・ブランディング」のコンセプトです。

サステナブル・ブランディングは、「ビジネスと社会課題解決を両立させ、“らしさ”で競争優位を創り出す」戦略メソッドです。下記の図が、「事業活動×社会課題×自社らしさ」の3要素を掛け合わせた「サステナブル・ブランディング」のフレームワークです。

これまでの「事業戦略」にDXでドライブをかけ、「社会課題(サステナビリティ要素)」を組み込み、時代にふさわしいビジネスとして磨きをかけ、その上で、「自社らしさ」が触媒になることで「差異化」が実現し、競争力を発揮できます。この3つの輪が重なった、真ん中の「★(レッド・スター)」こそが、時代が求める競争優位の源泉です。

このフレーム図は、それぞれの「輪の重なり」のポジションがポイントとなります。

◎青と緑の重なりのポジション:「事業活動(DX)」×「社会課題」 ・・・CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)、DXによる社会課題解決

★3つの輪の重なり:「事業活動(DX)」×「社会課題」×「自社らしさ」 ・・・サステナブル・ブランディング

DX×社会課題×自社らしさ=サステナブル・ブランディング。この成功方程式を具現化することが、企業の社会的存在意義であるPurposeを実現し、「時代に選ばれ、次代にも輝き続ける会社」につながります。とりわけ、「脱炭素」やコロナ禍による「非接触」のニーズは、グローバルレベルの社会課題であり、DXはまさに時代が求める新しい競争力といえます。

最後に、本稿で引用した大河ドラマのタイトルの「青天を衝け」は、渋沢栄一が詠んだ漢詩が由来だそうです。若き渋沢が藍玉(あいだま:藍の葉を発酵・熟成させた染料である蒅〈すくも〉を突き固めて固形化したもの)を売るため信州に旅した時、険しい内山峡で詠んだ漢詩の一節「勢衝青天攘臂躋 気穿白雲唾手征(青空をつきさす勢いで肘をまくって登り、白雲をつきぬける気力で手に唾して進む)」からきているそうです。時代の大きな変化やコロナ禍に翻弄される現代人にとって、逆境に負けることなく突き進んだ栄一の気概に、心打たれるのではないでしょうか。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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