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危機を機会に変える、「未来をつくる経済」を思索する

日本のサステナビリティの最大の焦点とは 「エネルギーの脱炭素化」をいま改めて考える

SB-J コラムニスト・古野 真

来年、日本のエネルギー基本政策が見直される。これは日本が近い将来に下すだろう最も重要な政策決定だ。もし年々深刻化する気候変動をどうにかしなければと考え、持続可能な未来を希求するなら、この動きを注視してもらいたい。

日本は現在、電力供給の80%近くを天然ガス、石炭、石油などの輸入化石燃料に依存しており、日本の温室効果ガス排出量の約9割がこうした資源のエネルギー消費によるものだ。日本の化石燃料への依存度は、この国が気候変動に対してより野心的な行動をとるための最大の障壁となっている。

熱波や異常気象が年々悪化する今、日本のエネルギー供給を、気候変動を加速させるような高汚染源から再生可能エネルギーに大規模にシフトさせることが急務だ。

ここでは、現在の政策の基本的な内容と、日本が気候危機に真正面から対応し、パリ協定の国際的義務に沿って温室効果ガスの排出量削減に向けた公平な役割を果たすために、現在の政策がどれぐらい変わる必要があるのかを検証してみたい。

現在の日本のエネルギー事情

経産省のデータによると、日本の電力供給量は2018年末時点で、天然ガスが38%、石炭が32%、石油が7%、原子力が6%を占め、再生可能エネルギーが17%を占めていた。このように化石燃料への依存度が高いため、日本の電気の二酸化炭素原単位はOECD平均よりもはるかに高い。ドイツや米国の発電量が1キロワット時あたり約383~386グラムの二酸化炭素を排出するのに対し、日本の発電量は1キロワット時あたり約426.7グラムの二酸化炭素を排出していると推定されている。ブルームバーグNEFによると、英国の電力の炭素原単位は169.2グラムCO2と推定されて、日本の半分以下となる。

小泉進次郎環境大臣と梶山弘志経済産業大臣が率いる日本の気候変動・エネルギー政策に関する最近の議論では、日本が二酸化炭素排出量の最も多いエネルギー源である石炭に大きく依存している状況から、どのようにして段階的に脱却するかに焦点が当てられてきた。老朽化した石炭火力発電所を段階的に廃止し、石炭火力発電所の輸出金融をさらに制限するという最近の公約は一歩前に進んだ印象を与えるが、残念ながら、2030 年時点でも推定 3000万kW(電力供給の 20%程度に相当)といわれる稼働中および新設が計画されている新しい石炭火力発電所は含まれていない。国連のグテレズ事務局長の言う、日本の「石炭中毒」はまだ続くのだ。

石炭のほかに、現在、日本の電力需要の中で最も大きな割合を占めるのは天然ガスで、その割合は38%に達する。ガスは石炭に比べて比較的クリーンなイメージがあるが、採掘地での水圧破砕による水系への影響や、ガスプラントや採掘場でのメタン漏れの影響が不透明であることから、ライフサイクルの観点から見たガスの実際の排出量は、石炭火力発電の排出量とさほど変わらないという調査結果もある。

国際エネルギー機関(IEA)によると、石油は2018年時点で日本の電力需要の7%を占め、運輸などを含む総エネルギー供給量の40%近くを占めている。

ホットハウス・アース「温室地球」を避けるために、どれぐらいの電源構成の変更が必要か

地球の温度上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以下に抑えるためには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を半減させ、2050年までにゼロにする必要がある。世界全体の年間排出量の3分の2以上を占めるエネルギー部門にとっては、これまでの化石燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギーを中心とした全く新しいエネルギーシステムへの革命的な転換することを意味する。言い換えれば、10年後には、電気、熱、運輸、産業用重機製造などに要するエネルギー源を自然エネルギーへ大幅に転換させる必要があるということだ。
     
日本のような先進国は、公平性の観点から、近年、経済発展をしていながらも過去に排出量が少なかった新興国に比べて、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、エネルギーシステムをさらに早く変えなければならない。

温度上昇を1.5℃以下に抑え、暴走する気候変動が招く最悪の影響を回避するために、地球温暖化の最大の要因である化石燃料を使用した発電所を新たに建設する余地はない。既存の発電所を今後10年から20年の間に段階的に廃止する必要があることは科学的に明らかだ。

最新の科学的知見によると、1.5℃の目標を達成するためには、先進国では2030年までに、新興国では2040年までに石炭火力発電をほぼ完全に廃止する必要がある。

日銀や金融庁が参加する中央銀行・金融監督当局ネットワーク(NGFS)が提供する、金融システムのグリーン化に向けた将来シナリオによると、1.5℃達成のためには、天然ガスは2025年までに世界的にピークを迎え、2050年に向けて通常通りのシナリオより50−70%減少させる必要があると予測している。

輸送用燃料として依存してきた石油は、私たちの輸送ニーズを今後満たすために、電化や水素に完全に置き換える必要がある。

2030年の日本の電源構成は?

気候変動問題の解決に向けた世界共通の目標を達成するためには、日本はエネルギーの急速な脱炭素化を目指す必要がある。つまり、ゼロエミッション経済への道筋を国策として掲げること。しかし、現在のエネルギー基本計画では、非常に異なった絵が描かれている。

2030年の日本の電源構成は、27%(現在の38%程度から減少)をガスが占め、次いで石炭26%(32%から減少)、原子力20~22%(6%から増加)、石油3%(7%から減少)、そして再生可能エネルギーが電力供給の22~24%(17%から増加)を占めるというもの。

産業革命発祥の地、英国が2025年までに石炭火力の全廃、ドイツが2038年までに石炭火力の全廃を計画していることから、2030年時点で石炭火力発電への依存度が26%に達する日本の現在の計画は、今後も国際社会から激しい批判を浴びることになるだろう。

再生可能エネルギーについても同様だ。日本が目指す、2030年時点での再生可能エネルギーの比率は22~24%と野心的な目標とは言えないもので、2020年現在の世界の総発電量のうち自然エネルギーが占める割合、約26%(国際エネルギー機関(IEA)推定)とほぼ同じ割合だ。つまり、日本の計画は世界から10年遅れていると言っても良いだろう。

最近、経済産業省が洋上風力発電を推進していることは、日本が2030年に想定するエネルギーミックスの一部として再生可能エネルギーの比率を高めようとしていることを示すポジティブな兆候であるが、これまでのような微々たる努力から明らかに大きく飛躍することが必要だ。

2030年までに再生可能エネルギー50%へ

国内でも多くのステークホルダーが、日本がパリ協定に従い国際的な義務を果たすために、2030年までに再生可能エネルギーの目標を40~50%の範囲まで引き上げることを求めている。その中には、経済同友会(40%)、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(50%)、自然エネルギーユーザー企業ネットワーク(44%)、知事会(40%)なども含まれている。

私が勤務している気候変動に関するアジア投資家グループ(Asia Investor Group on Climate Change)は最近、中央銀行・金融監督当局ネットワーク(NGFS)が提供しているエネルギー転換シナリオの分析を発表した。その将来シナリオでも、温暖化を1.5℃未満に抑えるためには、日本の電源供給量の5割を再生可能エネルギーで賄う必要があると予測する。逆に、総発電量に占める石炭と天然ガスの割合は、それぞれ供給量の8%、13%まで大幅に減少させる必要がある。しかし、原子力をどうするかは難しい判断になるだろう。

日本のエネルギー供給を変革し、ゼロカーボンの未来に向けて決定的なシフトをするには、現在の日本のエネルギー政策の基本的な公約を抜本的に見直す必要があるのは明らかだ。将来のサステナビリティに大きく影響するエネルギー政策こそ、幅広い議論と多様なステークホルダーが参加できる政策決定のプロセスが求められる。

どうすれば再生可能エネルギーの供給量を倍増させられるか

日本のエネルギー業界では、再生可能エネルギーは高価で信頼性が低いというのが一般的な理論だ。しかし世界の現実は、特に風力や太陽光などの再生可能エネルギーが急速に安価なエネルギー源になりつつあり、新しい電源の投資先としてはすでに圧倒的に選ばれるようになっている。

理由は簡単だ。風力や太陽光エネルギーは無料で、石炭やガスのような継続的な燃料費は必要ない。必要なのは、適切な送電線、柔軟な電力網やマネジメントシステム、そしてエネルギー貯蔵ソリューション。大規模な初期投資が必要になるのは事実だが、再生可能エネルギーの経済性を考えれば、短期間で従来のエネルギー源よりもはるかに安価なエネルギーを生産できるということになる。それにより、製造業の競争力も高まる。

必要なのは、中長期の政策へのコミットメントと確実性である。

これまでの議論の多くは、断続的なエネルギー源と分散型エネルギー源のバランスをとる技術的課題に焦点を当ててきた。これらの技術はすでに利用可能であり、再生可能エネルギーの規模が大きくなればなるほど容易になる。

さらに重要なのは、再生可能エネルギー源が最も効率的な方法で電力供給に統合され、分散型エネルギー源との互換性を確保するためにインフラがアップグレードされることを保証する柔軟な市場メカニズムとルールの実行である。

技術的な議論やコストの話は重要な判断基準に含まれるが、最大の障壁となっている政策から論点をずらそうとするものだ。

従来のエネルギー産業は、過去の集中型モデルでは、もはやゼロカーボン、回復力のある分散型電力ネットワークのニーズを満たすことができないということを受け入れ、変化する必要がある。

再生可能エネルギー、エネルギー効率、バッテリー技術、近代的なグリーングリッドインフラの設置、EV、グリーン水素。これらの技術はすでに存在する。国は2030年までに再生可能エネルギーが電源供給の大部分を占めることを明確に示す必要があり、また、それらの技術を効率的に展開するための補完的な政策が求められる。ESGの台頭により、持続可能な投資機会を求める民間資本の新たな投資を呼び込むことは間違いない。

しかし、倍増という大きな移行はそれだけでは起こらない。政府は、カーボンプライシング(炭素価格付け)、再生可能エネルギーの容量目標、電力市場改革、ゼロエミッションの新技術の研究開発に対する税制上の優遇措置を導入する必要がある。

新しい目標やルールが設定されれば、新たな投資を呼び込むことがでる。なぜならば、日本のエネルギーシステムを脱炭素化へシフトさせるための規制の確実性と長期的なコミットメントがあることを確信できるからだ。堅固な炭素価格の導入は、市場の外部性を内部化し、再生可能エネルギー導入のインセンティブとなり、持続可能なインフラを整備するための追加収益を上げることになるだろう。これらの措置は、自然災害が増加し、供給の安定性が脅かされているときに、時間の経過とともにコストが減少し、より大きな安定性をもたらすことに貢献するだろう。

私たちはまた、クリーンエネルギーの付加的な利点も忘れてはならない。さらなる温暖化を防ぎ、きれいな空気、きれいな水、そして持続可能な経済を築くための雇用創出をもたらす。

新型コロナウイルスの影響で世界が深刻な経済不況に苦しむ中、科学的にも経済学的にも明らかなように、日本でも世界でもゼロエミッション・エネルギーへの移行は、持続可能な復興のための取り組みの最前線でなければならない。

投資の確実性を高め、民間資本を奨励するためには、2030年までに再生可能エネルギーの導入量を大幅に増加させるという信頼できる野心的な目標と、パリ協定の目標に沿って2050年までに経済全体でゼロエミッションを達成するという国家目標が重要な決定要因となるだろう。

究極の転換 「マインドセット」を変える

日本がゼロカーボンにシフトする上で不可欠なものは、「思考と発想の転換」だろう。現在の政策では、気候変動のシステミック・リスクが将来の経済の健全性と福祉に悪影響を及ぼす。気候変動目標に適切に対処しなければ、日本の経済的・社会的目標(SDGsも同様に)は達成できないという認識を持つことが必要だ。

コストとリスクに焦点を当ててきた狭い世界像から転換し、早期に効果的な気候対策を講じることでもたらされるプラスの影響に焦点を当てることが重要な変化となるかもしれない。

強力な気候変動対策が、日本経済や日本企業、そして日本人全体にプラスの影響をもたらすことを示唆する証拠は増えている。

先月、年金積立金管理運用行独立政法人(GPIF)は、世界最大の年金基金の中長期的なパフォーマンスに影響を与える可能性のある気候変動リスクと機会について分析結果を発表した。

GPIFのESGレポートでは、地球温暖化を1.5℃以下に抑えるためにこれまで以上に力を注ぐことが、日本企業に本質的にプラスの影響をもたらすという。そうすることで、2100年までこれ以上の温暖化対策をとらず、地球温暖化が4~6℃まで上昇してしまうシナリオよりも、GPIFの投資ポートフォリオに17%の黒字効果が出る、と試算されている。

繰り返しになるが、強力かつ早期に気候変動対策を行うことは、長期的に日本企業と日本経済に利益をもたらす。

さらに、世界第3位の経済大国であり、アジアにおいて大きな影響力を持つ日本がゼロカーボンへの移行を成功させることができれば、地域全体に持続可能な経済発展への道を開き、新型コロナウイルスからの持続可能な回復を大幅に加速させることができる。

小泉進次郎環境大臣が9月3日、COVID-19からの持続可能な回復を促進する国際連携プラットフォーム(閣僚会議)を開催する。そこで、日本が気候変動・エネルギー政策を強化し、世界経済のゼロエミッションへの移行を加速させるリーダーシップを発揮できるかどうかに世界の注目が集まるだろう。

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古野 真
古野 真 (ふるの・しん)

気候変動に関するアジア投資家グループ(Asia Investor Group on Climate Change)のプロジェクトマネージャーとして2020年1月に活動を開始し、投資家の立場から投資先企業及び政府機関とのエンゲージメントを担当。ESG 投資家・気候変動専門家として活動しながら、ESGに関するブログ・情報サイト「ThinkESG.jp」の編集長も務める。現職に就任前は国際環境NGO350.orgの東アジアファイナンス担当を努め、350.orgの日本支部350Japanを2015年に立ち上げた。NGOセクターに携わる前にはオーストラリア政府の環境省で課長補佐として気候変動適応策を推進する国際協力事業を担当。気候変動影響評価・リスクマネジメントを専門とする独立コンサルタントとして国連開発計画(UNDP)、ドイツ国際協力公社(GIZ)や一般社団法人リモート・センシング技術センターのプロジェクトに参加。クイーンズランド大学社会科学・政治学部卒業(2006),オーストラリア国立大学気候変動修士課程卒業(2011)

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