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新型コロナ禍の「ビジネスと人権」 責任ある企業としての取り組みとは

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の影響が国内外で拡大しており、企業活動やそのサプライチェーンにおいても深刻な影響が生じています。このようなCOVID-19の世界的なパンデミックの状況下で、企業活動が制限されることによって生じる変化が、特にサプライチェーン上の脆弱な立場の人々へ影響を及ぼすなど、そうした人々への人権リスクが懸念されています。

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」には、(1)国家の人権を保護する義務、(2)企業の人権を尊重する責任、(3)人権侵害の被害者に対する救済へのアクセス、という3本の柱があります。この指導原則のフレームワークにおいて、まず(1)国家が人権を保護する義務、その上で企業は、(2)企業の人権を尊重する責任を果たす必要があります。そしてこのCOVID-19の状況下においても、国家が人権を保護する義務はもちろん、企業が人権を尊重する責任を果たし事業を進めることが必要となります。

企業が人権を尊重する上で、企業行動により影響が及ぶ人たちには、企業内やサプライチェーンに関っている立場の弱い、サプライヤーの労働者、女性、子ども、障がい者、高齢者、マイノリティのコミュニティ、先住民族、国内避難民、極度の貧困の影響を受け過密状態で生活している人々、ホームレスの人々、移民や難民、LGBT、また外国人労働者などのグループが含まれます。そしてこのCOVID-19感染症の拡大によって、企業活動は制限され、またさまざまな製品やサービスの需要が低迷し、企業は経済的に深刻な打撃を受けており、この状況が、企業内やサプライチェーンに関わる脆弱な立場にいる人々の人権に影響を及ぼしています。

サプライチェーンに与える影響の事例として、海外においては、ミャンマーとカンボジアでの調査で、すでに完了した作業への費用が多くのサプライヤーの労働者に支払われず、また作業が中断しているという報告がされています。バングラデシュにおいての調査も同様に、この調査に参加した316社のバングラデシュのサプライヤーに対して、95%以上のブランドと小売業者が一時的に停止された労働者の賃金、または解雇された労働者の退職金の支払いを拒否していると報告されています。

このような中、南アフリカのサプライヤーと繊維労働者組合が、6週間のロックダウン期間中、労働者へ給与の全額支払いを行うことを協定で合意している事例もあり、すべてが悪い状況に陥っているということではありません。それにしても、現状は弱い立場にいる労働者にしわ寄せがいっている状況です。

具体的に、サプライチェーン上で行われてしまっている事例として、発注企業がサプライヤーに対して「作業が完了している商品の注文をキャンセルする」もしくは「作業途中にある商品の注文をキャンセルする」、また立場の弱いサプライヤーに対して「すでに出荷された製品の支払いについて、割引の要求を行う」「注文済みで作業途中のものがあっても、それらの支払いの責任を明確にせず、支払い時期の指定もしない」という事例が報告されています。

このようなことから、憂慮されるサプライチェーン上の人権のリスクは、以下が考えられます。

● COVID-19状況下における人権の尊重
● ブランド企業/小売業者からのサプライヤーへの注文取消しの影響によるサプライチェーン上の労働者の解雇
● サプライチェーン上のサプライヤーにおける労働者の不十分な衛生管理や衛生用品の不足によるCOVID-19の罹患
● COVID-19状況下でのサプライチェーン上の脆弱な人々への差別、ハラスメントまた虐待。特にCOVID-19が中国から世界に拡散したことから、中国人や中国人に風貌が似ているアジア系の人々への人種差別、また外国人労働者(日本の場合には外国人技能実習生を含む)、移民労働者への嫌悪や偏見
● COVID-19状況下で、性別、人種、宗教、年齢、障がい、LGBT(性的指向)、国籍、政治思想、社会集団、出身民族などを理由にする差別
● COVID-19対応のため、不足している個人用保護具製造工場への生産移行に伴い、新しい製品を製造するにあたって必要となる労働安全衛生管理、保護具の欠如
● 製品需要の落ち込みから、サプライヤーに対する支払いの遅延や注文のキャンセル。またサプライチェーン最上流の農家、特に小規模農家の貧困の助長。またさまざまなイニシアティブからの支援の減少や停止

これを踏まえ、企業が人権を尊重する上で、その影響下にあるサプライチェーンに与える影響について特定し、そのリスクに対応する必要があります。

私が代表を務める一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーンでは、責任ある企業としての取り組みのために以下を推奨する声明を出しています。

● COVID-19で変化した社会情勢の中で、責任ある企業としてサプライヤーへの果たす役割を理解する。
● 自社のサプライチェーンに関連する全てのステークホルダーとの対話と協議を行う。
● サプライヤーとの取引関係を終了せず、他の選択肢を探る議論を行う。
● 完了した注文および進行中の注文の支払いを行い、計画している注文のキャンセルを回避する。
● サプライヤー側の理由としてのCOVID-19の影響による納期の変更、また支払い条件の変更についての柔軟な対応を行う。
● サプライヤーとのコミュニケーションを密にし、状況把握を行い迅速な対応を行う。
● 感染のリスクを下げるための安全衛生対策についてサプライヤーと協力する。労働者の安全衛生に重点を置き、COVID-19の情報提供を行うとともにポスターなど感染予防の掲示を行い、手洗いと消毒液の使用、検温の実施などを強化する。また労働者への水の支給、手洗い休憩、消毒液、マスクや手袋など衛生用具を支給する。
● サプライヤーにおける外国人労働者(日本の場合には外国人技能実習生を含む)、移民労働者に対する差別的対応がないか確認する。またCOVID-19に関する母国語による情報提供、また他の労働者と差別なく消毒液やマスク、手袋などの衛生用具を支給する。また罹患の恐れがある際にも病院の手配を含め人道的な対応を行う。
● 人権デューディリジェンス・リスクマッピングを行い、COVID-19の状況下で、自社のサプライチェーンにおいてどこに人権リスクがあるのかについて特定し、脆弱な立場の人々を含む人権への負の影響の拡大を可能な限り緩和できるようにする。
● 苦情処理メカニズムを活用し、サプライチェーン上の労働者から声を拾い上げて、このCOVID-19の状況下でさらに権利侵害に該当する事例が行われていないか確認し対応する。

現在のCOVID-19の状況下において、企業がどのように行動するかについて、企業の倫理観、価値観が試されています。まずは自社のサプライチェーン上のサプライヤー、また最上流の農家の状況を確認すること、またそれらの対応についてさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを行いながら、対応を進めていくことが重要となります。

アフターコロナと呼ばれるCOVID-19の収束後に向けて、自社の関わるステークホルダーとのコミュニケーション、そして連携からより持続可能な状況を作り出していくことを考えて行動を起こしていきましょう。

「ASSC COVID-19状況下の責任ある企業としての取り組みに関する声明」
http://g-assc.org/assc-statement-covid-19/

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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