第7回 広報のためのサステナブル・ブランディング入門 (7)
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「説明責任」という言葉が飛び交っています。「不適切だが、違法ではない」という記者会見も見受けられます。ステークホルダーからの信頼があってこそ、組織の円滑な運営が成し遂げられます。信頼してほしければ、「誠実な対応」が必要不可欠です。
ステークホルダーへの「誠実な対応」とは
「ステークホルダー」という言葉は、あまりにもポピュラーに使われるようになりましたが、サステナビリティ時代の企業ブランディングにとって中核ともいえる概念ですので、これまで以上に奥深い理解が求められます。このステークホルダーを表層的に捉えると、社会との関わり方が形骸化し、空転(空回り)します。
企業は、ステークホルダーあっての存在です。通常は「利害関係者」と訳されますが、その本質は「会社と関わっている人々」ということです。企業経営・事業活動は、こうした『欠くべからざる人々』に囲まれ、営まれています。もしも、このような人々に反発を買いますと、何をやるにしてもギスギスするし、足を引っ張られるかもしれません。そして、いなくなった瞬間に企業が消滅する、という緊張感のあるこわい存在でもあります。
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現代企業はこうした『欠くべからざる人々』に対して、誠実な対応をして、信頼を獲得し応援してもらってこそ、持続的成長・中長期の企業価値向上を果たすことができます。「誠実さ」は、グローバルでは『integrity(インテグリティ)』の概念で表現されます。日本では、一般に「誠実」「真摯」「高潔」などを意味します。
では、サステナビリティの観点から「誠実な対応」を次の3つのキーワードから解きほぐしてみます。それは、Transparency(透明性)、Disclosure(情報開示)、Accountability(説明責任)です。とりわけ、最後の「アカウンタビリティ(説明責任)」は、テクニカルに行き交う言葉となっています。その意味するところは、「やったことは説明してほしい、説明できないことはやらないでほしい」と掌握することをおすすめします。
ステークホルダーはそれぞれの立場から、
〇商品・サービスを購入しているのだから
〇株式に投資しているのだから
〇資金を融資しているのだから
〇原材料等を納めているのだから、おたくの商品を扱っているのだから
〇働いているのだから、働こうとしている学生なのだから
〇事業所の近所に住んでいるのだから
「やったことは説明してほしい、説明できないことはやらないでほしい」と訴えているのです。
TV等で違和感を覚える記者会見は、『透明性、情報開示、説明責任』のうち、1つないし、3つとも欠落したシーンに出くわした時ではないでしょうか。「嘘をつかないでほしい、隠さないでほしい、説明をきちんとしてほしい」ということです。よく、投資家保護・債権者保護と言いますが、身柄をかくまうわけではありませんので、株を持っている人・お金を貸している人が、当該企業から最もやられたくないのは「嘘をつかれる、隠される、説明されない」ことでしょう。
不適切だが、違法ではない
「不適切ではありますが、違法ではございません」という謝罪・釈明会見がありました。このフレーズこそが、あまりにも表層的なコンプライアンスが露呈しています。「法律さえ守ればよい」「法律に抵触しなければ問題ない」という認識の企業不祥事が、まだまだ後を絶ちません。
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近年の企業不祥事は、明白な違法行為そのものが発覚したことに端を発するよりは、時代の社会要請に反した企業姿勢が糾弾される傾向にあります。現代企業の生命線は、社会(ステークホルダー)からの「信頼」です。社会は、企業が起こしたこと(良くないこと)を、いちいち法に照らして判断するでしょうか。信頼は、違法行為を起こさなければ獲得できるでしょうか。「企業犯罪≠企業不祥事」なのです。司法に裁かれなくても、
『
社会
』
に裁かれます。
一般的に「コンプライアンス=法令遵守」と捉えられがちですが、「コンプライアンス≧法令遵守」といった具合に、2つは同心円ではなく、法令遵守はもとより倫理的に問題がないか、そして社会的に望ましいかというレベルまでを見据えた概念が大切です。
コンプライアンスの語源は、「外力が加えられたときの物質の弾力性やたわみ強度」とされています。そこから考えるならば、「社会の要請・期待に対して、企業がしなやかに対応すること」といった広義の認識でのアプローチが重要です。コンプライアンスとは、「法令や社会のルールを守り、社会正義を堅持し、社会の要請や期待に応え続けていくこと」と捉えていくことが要諦です。
企業の「KY」は、不祥事のもと
社会の価値観は時代とともに変容し、企業への要請や期待は刻々と変化し厳しさを増しています。この社会の空気感を俊敏に読み取って対応することが基本です。若者ことばを引用すれば、企業の「KY(空気が読めない)」は、不祥事のもと。社会から白い目線を浴びるもとだといえます。組織の「社会的感受性(Sensitivity)」は、現代企業必携の資質といえます。
サステナビリティ時代の企業ブランディングに取り組むには、社員一人ひとりが一段高い判断基準をもって、法令遵守だけでなく、社会から顰蹙(ひんしゅく)を買わないこと。さらには、「さすが」と一目置かれる存在となることを目指していくことが大切です。社員のブランド意識が高まれば、潜在的なブランドリスクを下げることにもつながります。「自然人としての社員の人間性、法人としての企業倫理」、「自然人としての社員の社会性、法人としての社会対応力」が企業の品格として注視される時代となっています。
現代企業にとって「信頼・信用」は競争力であり、企業ブランドの芯や背骨となるものです。自社のブランドを担う広報活動の矜持は、社会(ステークホルダー)への「誠実な対応」といえましょう。