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公共からパブリックへ、変わる都市経営

自治体もサステナブル経営を意識する時代へ(1)

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SB-J コラムニスト・伊藤 大貴

10年ひと昔とはよく言ったものである。筆者は30代の10年間を横浜市議会議員として過ごした。日経BP社の記者を経て、横浜市議会議員に当選したのが2007年。今から12年前のことである。初当選したころ、国の各種統計を見ていて感じたのは、「いよいよ日本に本格的な人口減少社会が到来する」。

そんな当たり前のこと、何を言ってるんだ、と読者の方は思われるかもしれない。しかし、わずか12年前、人口374万人を要する横浜市において、人口減少社会の到来は遠い未来の、横浜には無関係な話と受け止められていた。もちろん、行政のごく一部の職員は問題意識をもっていたと思うが、少なくとも議会では「そんな暗い話をするもんじゃない」とベテラン議員からたしなめられたのを今でもはっきりと覚えている。

あれから12年。気づけば、2019年をピークに横浜市ですら、いよいよ人口減少社会へと転じる。

変化の兆しは意外に気付きにくい

冒頭にわざわざ、こんな話を持ち出したのにはワケがある。社会の変化はちゃんと目を凝らせば気づくのに、「従来の当たり前」が続くと無意識に思い込んでしまうと、その変化に気づかないからだ。誰の目にも明らかになるころには、時すでに遅しとは言わないが、もう少し早く手を打っていれば、ということになりかねない。

今回、シリーズタイトル「公共からパブリックへ、変わる都市経営」と題して、自治体がこれから直面するであろう都市経営の変化と、そこに求められるサステナビリティについて解説する。端的に結論を言えば、従来のように公共サービスを自治体が一手に担う、自治体総合百貨店時代が終わりを告げ、企業なども公共サービスを担う時代が本格的に到来する。これを「都市のオープン化」と呼ぶ。

本稿では、都市のオープン化がどのように進んでいくのか、その際に官民連携のカタチはどう変化するか、企業と自治体の関わり方が変わる時、公務員の働き方、複業・兼業は当たり前になっていく時代の都市経営について連載したい。

今、こんな話をしても、もしかしたら、読者の方の中には、「自治体の一部を企業が担う時代がくるなんて」と思う人もいるかもしれない。しかし、社会は10年もすれば変化する。その萌芽は既にそこかしこにあるのだ。そう、まさに12年前、「人口減少なんて、横浜には無関係だよ」と議会で言われていた時と同じ状況と言っていい。

国の調査が示す都市部と地方の生産性の厳然たる差

本題に入ろう。日本は長らく、都市部が生み出す富によって地方を支える社会システムを採ってきたが、都市部と地方の生産性の格差は大きく開いてしまった。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、都市部とそうでない地域の生産性は2倍ほど違うという。都市部が地方を支えるモデルそのものが非効率なものになり、今は当たり前に享受している全国共通のユニバーサルな行政サービスの維持は、そう遠くない将来難しくなるだろう。

急速な人口減社会の進展により、自治体財政も減少トレンドをたどることなる。しかも世界的なトレンドとして人口は都市部に集中することから、その傾向はより強まる可能性すらある。必定、自治体が今のまま、すべての公共サービスを維持するのは現実的ではなくなる未来がやってくる。

これから起きる変化は、自治体による都市経営の生産性向上である。向こう10年は、その取り組みが本格化する入り口になるだろう。

気づいた自治体からスタートする生産性向上の取り組み

では、生産性を高めるために、自治体は何をするだろうか。それは「選択と集中」である。一つの自治体があらゆる公共サービスを提供する総合百貨店時代のやり方を改め、外部に頼るものは外部に頼るやり方に切り替えていく。従来の垂直統合型の都市経営から、アウトソースするものはアウトソースする水平分業型の都市経営への転換だ。アウトソースする先は様々である。(1)隣接する自治体と行政サービスをシェアする、(2)民間企業が提供するサービスを利用する」といった具合だ。

自治体の総合百貨店時代の終わりは、人によっては感情的に受け入れられないという人もいるかもしれないが、数字を見ていくと、従来のやり方に終止符を打たないといけない時期に来ているのは明らかだ。事実、2018年7月に総務省が発表した「自治体戦略2040構想研究会第二次報告」には、自治体行政の標準化、共通化や、新しい公共私の協力関係の構築、プラットフォーム・ビルダーへの転換などが明記されている。この報告書は一読の価値あり、だ(http://www.soumu.go.jp/main_content/000562117.pdf)。

都市のオープン化の引き金となる要素は4つある。(1)少子化、(2)高齢化、(3)人口減少、(4)都市化、である。これらの4要素がどのように都市と地方に影響を与えるか、見てみよう。

少子化は生産年齢人口の減少に直結し、これまでの社会のあり方を根底から変えてしまう。少子化という言葉が初めて、世に登場したのは1992年のこと。これを以外と早いと見るか、かなり昔と見るとか、人によって様々かもしれない。1992年11月に経済企画庁(当時)が発表した「平成4年度国民生活白書」に少子化という言葉が明記された。出生率が2.07を下回ると、その国は総人口を保てなくなると指摘される中、その2年前の1990年に「1.57ショック」が起きた。戦後最も出生率が低かった1966年をも下回ったからだ。1966年は丙午(ひのえうま)という60年に1度の特殊事情があったことを考えると、1990年の1.57ショックの衝撃は大きかった。しかし、そのショックは常態化してしまった。今や出生率は1.44(2016年値)である。

かくして、これから自治体の都市経営は生産性を高める方向へ舵を切っていく。もちろん、その動きはそこかしこに見られるが、それが「都市のオープン化」という文脈でまだ語られていないだけのことである。そこで次回は、官民連携2.0ともいうべき、これから迎える新しい官民連携時代について触れようと思う。

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伊藤 大貴
伊藤 大貴(いとう・ひろたか)

株式会社Public dots & Company代表取締役。元横浜市議会議員(3期10年)。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心した企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大学非常勤講師なども務める。

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