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僕たちがつくる、次世代の人事モデル

SDGsの時代が求める、人事部門の変革

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SB-J コラムニスト・西村 英丈

人事に求められる機能の変化

この話はあらゆるところで説明がされているので、改めての整理とはなるが、これまでの日本社会は終身雇用前提のもと、大量生産・大量消費モデルで経済成長を続けてきた。「長く仕事をしていれば能力があがる」というコンセンサスのもと、職務遂行能力と会社の在籍年数が比例する関係が成立していたという経済的・社会的な背景がある。

そのため職能給、いわゆる「メンバーシップ型雇用」となっていたわけである。メンバーシップ型雇用では、新卒一括採用のもと、階層別に研修を組み、社内で人を育てることができてさえいれば、人事は機能した。

しかし2000年代に入ると、「ジョブ型雇用」という言い方で表現されることもある職務給の考え方が登場した。グローバル・スタンダードとして、Pay for Performanceを合言葉に、成果主義の導入が図られるようになった。ジョブ型雇用では、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」で職務や勤務地、労働時間などを明確に定めて雇用契約を結ぶ。労働者は、ジョブディスクリプションに書かれていない命令に従う義務はない。

グローバル化、デジタル化、少子高齢化を背景に、働き手の職業観・労働観も明らかに変化した。雇用の在り方も変化し、それにあわせて、人材マネジメントの変化も求められる時代になった。経産省の人材マネジメント研究会の場でもその議論はされている。

出典:経済産業政策局産業人材政策室 人材マネジメントの在り方に関する課題意識 資料

労務視点で絞ったかたちでは以下の表を見れば変化が読みとれるだろう。

作成:社会保険労務士法人シグナル

人事部門と経営側に求められる、新たな連携

このような変化に伴い、組織の中で人事部門と経営側の関係にも変化が求められている。これまでは、経営側が戦略をつくり、戦略を実行する組織を人事部が作っていた。そういう意味では、経営と人事の連携はあったのだと思う。

しかし、経営と人事は連携を超えて融合することが必要であるという考え方を私は持っている。SDGsを経営戦略の真ん中におく経営と、実際にSDGsを実行する組織を作る人事との融合なくしては、連載第1回で述べた、サステナビリティに役割を果たす人事部門は成立しない。

「融合」とは、経営戦略と人事戦略がいわば重なり合い、以下の2つの考え方を行き来しながら議論できている状態なのではないかと考える。

ひとつは、1963年にアルフレッド・D・チャンドラーJr.が提唱した「組織は戦略に従う」という考え方。そして、二つめは、1979年イゴール・アンゾフが提唱した「戦略は組織に従う」という考え方だ。

「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか――。

「組織は戦略に従う」とは、組織のトップの戦略目的を達成するための、あくまで手段として組織自体が存在するのであって、まず戦略が先行するという考え方だ。対して「戦略は組織に従う」というのは、組織は、個人が織合わさって形成されているのであって、個々人の能力から生み出される組織能力がその戦略を生み出すという考え方だ。

例えば製造業の場合、事業計画をつくるときには、まず販売計画、次に生産計画、設備投資計画、そして最後に人員計画(人事)が話されることが多い。それも、いわゆるHead Count(人員数)の話に終始してしまうこともある。しかし、時代の変遷とともに経営と人事の融合が必要とされるならば、そもそもの経営戦略、事業戦略を“人”が作るのであるから、人の話からスタートし、次に経営と組織の関係を議論すべきではないだろうか。

ある能力を持つ人材がいることを前提に、その能力から生み出される戦略が実行され、組織が成り立つというということだ。

ESG投資において評価される人事部門を

冒頭で説明をしたように、これまでの時代背景の人事部門では、事業戦略にあわせて部門をつくり、その部門にどういった職務権限を持たせるかを検討し、ハード面(給与など)の制度設計を行ってさえいれば良かった。

しかし令和時代には、先ほど紹介した「戦略は組織に従う」という着想を根底に持つことが、本当の意味で経営と人事戦略が融合するために必要不可欠な要素だ。もちろん、全てを「人」ベースにするという話ではなく、むしろ「組織は戦略に従う」という考え方とのマトリクスで考えなければならない。

そこで、これまでの日本型雇用のベースにあり高度経済成長を支えてきた、事業戦略を実行するためのあくまでも手段としての人事戦略(事業戦略からみると戦術となる)を担う人事部門の考え方に、“Innovation by HR”という着想を盛り込むべきではないだろうか。

会社の3年先を見るにはその会社の営業力を見ればよく、5年先はその会社の企画力(マーケティング・開発)を見ればよい。そして10年後を見るには採用力、さらに20年後を見るには、育成力を見る必要がある。採用力・育成力とは、まさに人事力そのものであり、その人事力を測る要素として、資本市場と労働市場とのかけはしになり、投資家情報に結びつけるというアプローチがHR版SDGsの狙いのひとつなのだ。

VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の時代に、HRからイノベーションを加速させ、ステークホルダーから持続的に必要とされる組織となるための経営戦略をHRから作り出していくというアプローチが必要だと私が考える理由は、そこにある。

平成型人事部の3つのレベル

ここまで、時代や社会の変化とともに人事部門にも変革が必要なことを明かしてきた。次に、既存の人事部門(平成型人事部)の体制がどのように構成され、どのような課題を持っているかをより具体的に解説したい。平成型人事部は「ファンクション型人事部」「一気通貫型人事部」「バックキャスト型人事部」の3つのレベルにわけることができる。

▪ファンクション型人事部

旧来の機能ごとに分かれた人事部内の組織(採用チーム、育成チーム、評価チーム等)から構成される組織体制。ファンクション型人事部では、図1の太枠で囲ったそれぞれのチーム編成がとられ、それぞれの要件に沿って、業務が遂行される。

このファンクション型人事部の難点は、図2に示すように横の人材フローシステム(Human Resource Development)をいくら整えても、例えば、採用や育成のみを強化したところで、縦の人事制度(Human Resource Management)との整合性がないと、人事部全体として機能しないという点だ。

図1
図2

▪一気通貫型人事部

先ほどの縦と横のフローを機能させるための次のレベルの人事部の組織体制が一気通貫型人事部だ。例えば、組織を設計する組織設計チームや、ポジションと人を管理するタレントマネジメントチームや、昨今では人事関連のデータを解析し、施策を講じるピープルアナリティクスチームなど、目的別に機能連携された組織体制である。

バックキャスト型人事

一気通貫型人事部組織体制のもと、5年後、10年後、30年後、50年後の姿を見据えて、人事施策を創ることができる人事をバックキャスト型人事と呼ぶ。未来組織からの逆算の組織設計を行うことで組織開発を行える人事部である。

最後のレベル3に該当するバックキャスト型人事部とは、未来組織からの逆算の組織設計ができる人事部門であり、この考え方は、令和型人事部モデルへも引き継ぐ必要のある最も大切な要素だ。

例えば、ある製造業における統括人事部長のポジションがどのタイミングで組織設計上、必要になったかということを分析してみたとしよう。

そのポジションができたタイミングを調べると、売り上げ100億円、社員数1000人を超えたタイミングが一つのターニングポイントであったということが分かる。さらにその分析を進めると、そのターニングポイントでは、ちょうど、営業に対する人事施策・運用と製造に対する人事施策・運用との整合性が求められた時期であり、会社全体の人事施策を統括する人事ポジションが必要となったということも分かった。

そういった組織設計上の変遷データを把握できていれば(自社がまだ進出していない市場、分野であれば、同業種のケースをベンチマークすることでも見えてくるはずである)、ターニングポイントに対してバックキャスト的に捉え、現地の社員をそのポジションに向けて予め育成することができる。結果、そのポジションから生み出される事業競争力は高まるのである。

常に一歩先を見据えた人事施策を講じていくのだ。そのような人事こそが、経営から最も必要とされる人事である。ここまでを踏まえ、次回ではいよいよ、求められる「令和型人事部モデル」について具体的かつ詳細な考察と提案を行いたい。

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西村 英丈
西村 英丈(にしむら・ひでたけ)

One HR共同代表、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム理事、一般社団法人シニアism.理事、一般社団法人インタープレナー協会代表理事

東京理科大学卒業後、約70ヶ国/地域で事業展開をするグローバルカンパニーへ入社。アジアリージョン統括人事(シンガポール駐在)として5年にわたり、新興国市場の人材マネジメントを推進。HR版SDGsを策定し、次世代人事部モデルとしてメディアにも取り上げられる。そのほか、定年退職後のライフスタイル構築を応援する(一社)シニアism.を立ち上げ、HR分野のデータ活用の推進をする(一社)HRテクノロジーコンソーシアム理事、インタープレナー研究会プロジェクト代表に就任し、現在に至る。その他、(一社)日本バングラデシュ協会理事、東京ビエンナーレのエリアディレクターなども務めてきており自身としてもインタープレナーとして活躍中。

著書に『トップ企業の人材育成力』(さくら舎・共著)、『弁護士・社労士・人事担当者による 労働条件不利益変更の判断と実務ー新しい働き方への対応ー』(新日本法規・共著)がある他、数多くの登壇、執筆実績がある。

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