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世界で加速する人権への関心

欧州CSR最前線:海洋プラスチック汚染に企業はどう対処するのか

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

下田屋 毅

「海洋プラスチックの汚染にどのように企業は取り組むことができるか」という会議が2017年10月下旬にロンドンで開催され参加した。ここでは、海に浮かぶビニール袋やプラスチック空き容器など使い捨てられたプラスチックが海を汚染している状況、そしてその課題にどう企業や政府が取り組む必要があるのかについて議論がなされ、その深刻さを伝えていた。

近年プラスチック製品が海洋生態系に深刻な影響を及ぼしている。毎年最大で約1270万トンの廃棄プラスチックが海洋に流出しているとされ、魚、海鳥、海洋哺乳類の中にもプラスチックの残留物が日常的に発見されている。また最近の調査で海底11キロに生息する海洋生物の胃の中にプラスチックが取り込まれているのが発見された。

海洋に流出したプラスチックは、生分解されず分子レベルの小さな破片となり、そしてプランクトンや小魚の体内に取り込まれ、食物連鎖の上位にいる魚、海鳥、海洋哺乳類に取り込まれる。そして最終的に食物連鎖最上位にいる人間の体内に取り込まれているとしている。プラスチックの成分には有害物もあり、濃縮された有害物が人体に影響を与えるという懸念がなされている。

最近、英ガーディアンとオーブメディアが研究者とともに進めた調査では、世界各国の水道水に非常に小さなプラスチック(マイクロプラスチック)が含まれていることが確認されており、人体への影響に関する緊急の研究が科学者に求められている。集められたサンプルの83%がプラスチック繊維で汚染されており、ニューヨークでサンプリングされた水道水は94%もの高い汚染率を記録している。英国、ドイツ、フランスなどの欧州諸国は汚染率が低いが、それでも72%だという。

海洋プラスチックの汚染により、汚染された海産物を介して人々はマイクロプラスチックを摂取していることが示唆されるとともに、さらにこの分析では、水道水にもその影響が及び、地球環境におけるマイクロプラスチックの汚染がどこにでも及んでいることを示唆している。またプラスチックの総量は2050年に魚の総量を超えると言われており、プラスチックのリサイクル拡大と使用量削減が求められている。

英国で加速する海洋プラスチック対策

英国では年間130億本のペットボトルが消費され、その半分以上の77億本が、投棄または埋立処分されている。国連海洋会議の調査によると、世界全体で、年間800万トンから1200万トンものプラスチックが海洋投棄されている。

海に廃棄されたプラスチックは波や紫外線により粉砕される

これらの状況から英国議会下院環境監査委員会は2017年12月22日、英政府に対し、海洋プラスチックの削減のための施策を実施することを要求する報告書を提出した。ペットボトルの預かり金返金スキームの導入や、ペットボトルの購入を削減させるため、飲食を提供する場所での無料で飲料水を提供すること拡充する他、多くの無料飲料水の提供場所の確保、また遅くとも2023年までに、ペットボトルに50%以上のリサイクル材を使用することを促す内容が盛り込まれている。

また、業界団体のウォーターUKは、小売業者、コーヒーショップ、企業、地方自治体のネットワークを構築し、2021年までにすべての英国の町と都市でボトルに飲料水を無料で提供することを提案し、ペットボトルの使用を防止し、使い捨てプラスチックによって生み出された廃棄物の撲滅に取り組むことを目指している。

そしてこの対応として2018年1月10日、英国テリーザ・メイ首相は、2042年までに回避できる不用なプラスチック廃棄物をゼロにする25年間の環境計画を発表。25年間で段階的に計画を実施していく。英国では2年以上前に、スーパーマーケットの使い捨てのビニール袋に5ペンスを課税、その後6ヶ月以内に85%の使用削減がなされたとしている。またこの計画では、スーパーマーケットに対して、食料品にプラスチックのパッケージをしないようにしていくことを推奨している。

また英国では2018年3月現在、フィリップ・ハモンド財務大臣が、プラスチックの海洋汚染を食い止める為の方法として、プラスチック廃棄物を削減する取り組みの課税の仕組みについて、コンサルテーションを開始している。

EUとしては、欧州委員会が2018年1月16日、プラスチック汚染への対応のための2030年までの目標を含めた戦略を発表。2030年までにEU市場全てのプラスチックのパッケージがリサイクルできる状態にする。現状では、欧州の人々がプラスチックの廃棄物を年間2500万トン発生させており、そのうち30%以下のリサイクル率であるとし、全世界の海洋プラスチック廃棄物の半分を占めるパッケージなどの使い捨てのプラスチックの削減や、マイクロプラスチックの使用制限を行っていく。

また英国エレン・マッカーサー財団は、世界経済フォーラムとともに、サーキュラーエコノミーの下で、「ニュー・プラスチック・エコノミー」という3年間のイニシアチブを2016年に立ち上げ、CE100メンバーでもあるダノン、ユニリーバ、マースなどの企業、政府、大学関係者、NGO市民社会などと推進している。ここでは、製造販売された中の多くのプラスチック製品は使い捨てで、そのうちたった14%しかリサイクルされておらず、800億ドル(約9兆円)を1年間に損失しているとしている。今後20年以内にはプラスチックの需要が2倍になると推測しており、このままこの問題を放置しておくと、海洋プラスチック汚染がより深刻となり、さらに経済的損失、資源の確保が困難になっていく観点から、根本的な原因を解決する新しいプラスチックの循環ビジネスモデルが必要だとしている。

インターフェイスは廃棄漁網でカーペットを開発

企業の対応事例としては、持続可能なカーペット・カーペットタイルを製造する米系企業・インターフェイスは、海洋プラスチックの削減イニシアチブである「NextWave」を米IT大手デル、米自動車大手GMなどと創設。インターフェイスは、海洋プラスチック汚染を食い止めるための施策の一環として、環境的インパクトゼロ、炭素ゼロのカーペット製造の素材・原料として、フィリピンで捨てられた漁網からカーペットを製造している。

アジアの漁港では、たくさんの古い漁網が海の中に捨てられ、これら漁網には毒性のある化学物が含まれており、魚が死に、人体にも影響を及ばしている。この問題解決のために、同社はアジアでの海洋汚染をしている漁網を集め、オランダの工場でカーペットにしているのだ。現時点では小規模で、142立法トンのみで世界を救うところまではいかないが、その周辺の環境改善とともに関係者の雇用を生み出し6万2000人の生活改善にもつながっているという。

また2018年1月16日、英国冷凍食品大手で小売店も手掛ける「アイスランド」は、世界で初めて2023年までに自社ブランド製品の全てでプラスチックのパッケージを使用しないことをコミットメントした。アイスランドはすぐに問題に着手し、今後5年間で達成するとしている。同社は、最新のテクノロジーを使用し、完全にリサイクル可能な紙袋、紙・パルプ素材のトレーやパッケージを作り導入していくとしている。

気候変動とともに人類が地球環境に影響を及ぼしている緊急課題として持ち上がってきている「海洋プラスチックの汚染」。このままでは2050年までに海洋のプラスチックの数は魚の数を超えるとまでいわれている。今回お伝えしたように海外では政府の対応とともに、企業も対応を始めている。これは我々の地球に関係することであり、自分自身や日本企業それぞれの行動にも関わることであるので、その深刻さを理解するとともに早急に対応することが迫られていることを認識しなければならない。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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