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世界で加速する人権への関心

トリプルボトムラインを定款に入れたデンマーク企業

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅
ラース フルアーガー ヨルゲンセンCEO Photo: Takeshi Shimotaya

CSR/サステナビリティの推進には、トップのリーダーシップが不可欠だ。トップが交代しても変わらず、その事業活動の基本となる「トリプル・ボトム・ライン(Triple Bottom Line:TBL)」の考え方が、経営戦略上必要なものだと判断し、実行している企業が北欧にある。「ノボノルディスク」だ。

ノボノルディスクは、デンマーク・コペンハーゲンに本社を置く製薬会社だ。糖尿病の治療薬研究・開発の分野を90年以上にわたりけん引する世界的な企業で、製品は5大陸165カ国以上で販売されている。従業員は世界77カ国に現在4万2000人。血友病と成長ホルモン不全の治療でも著しい貢献をしている。

同社が基本としている「トリプル・ボトム・ライン」とは、1997年に英国のコンサルティング会社のサステナビリティ社のジョン・エルキントン氏が提唱したものだ。企業経営において、経済面だけでなく、社会や環境の側面からも自社の事業活動を評価し、意思決定を行うという考え方だ。

ノボノルディスクでは、企業活動の中心に「患者さん」を据え、TBLの考えを取り入れて経営することが持続性(サステナビリティ)につながると考えている。

2017年1月に副社長からCEOに昇格したラース フルアーガー ヨルゲンセンCEOは、筆者とのインタビューの際に同社のTBLについての考え方として次のように述べている。

「TBLは、私たちが正しい方法でビジネスを行うために必要なものだ。TBLが、持続可能なビジネスと長期的な価値創造のための前提条件であると認識している。そのため、私たちは常に財政的、環境的、社会的責任を持って行動していく。

TBLは定款に入っており、CEOである私がそれを変えることはできない。永遠に引き継いでいくものなのだ。定款の変更には株主の同意が必要だ。TBLが定款にあるということは、非常に強いコミットメントを示している」

目に見えるリーダーシップで、TBLを強化する

ノボノルディスクは、各部門の代表が運営する委員会がTBLを推進しているが、ヨルゲルセンCEOはこれをさらに強化しようと考えている。そして、CEO自ら、TBLのアジェンダを直接実施していく責任を負い、年に4回、TBLの状況を確認して優先順位の決定を行うというのだ。

「私たちの究極の目標を達成するために、経営陣がどれだけの時間を割いてTBLに取り組んでいくのかを従業員に示していく。こうした目に見えるリーダーシップは非常に重要で、この姿勢を見せることにより従業員は信頼してくれる」とリーダーシップを発揮する上での重要性を語る。

ノボノルディスクは、統合報告書にいち早く取り組んできた企業だ。IIRC(国際統合報告評議会)の推進するプロジェクトにおいて、世界で最も先進的な統合報告書を発行し、内外が認める中心的な役割を果たしリーダーシップを発揮してきた。

長年、人権に関する取り組みにも力を入れている。国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき人権デューディリジェンスを進め、同業界・他業界にも良い影響をもたらすなど世界をけん引する存在だ。

ヨルゲンセンCEOは、TBLの重要性について次にように語る。

「このTBLの経済、環境、社会の3つの側面は、どれかが優先されるものではなく、会社にとって同等に重要なものだ。それぞれのステークホルダーは、それぞれ違う優先項目をもっている。私たちは四半期決算を開示することで、財務的な数字に関しては外部からの注目が高い。しかし会社を経営していく上では、経済面だけでなく環境や社会の2つの側面も同時に取り組むことが求められている。

例えば、患者への向き合い方を重視せず、イノベーションも生み出さず、良い製品を提供できなければ、多くの患者が犠牲になり、財務的にも立ち行かなくなる。また、工場において、環境に配慮した活動をせずに工場からの排気が近隣の大気を汚染していることがあれば、株主は信頼できず、患者からもその製品を好んで使用してもらえることはなくなる。

どの側面もそれぞれつながっている。短期的にも長期的にもTBLに関して、いいバランスをとって意思決定をする必要がある。

経営陣は、経済面でのプレッシャーだけでなく、今まで以上に環境や社会面に対するステークホルダーからのプレッシャーを感じている。TBLは、経営陣がトップダウンでバランスを保ちながら進めることが必要不可欠だ」

このようにノボノルディスクは、TBLを定款に取り入れ、CEOや経営陣がTBLの重要性を認識しトップダウンで進めるとともに、従業員からのボトムアップで実践するための模範事例である。同社の取り組みを是非参考にし、社内のトップ・経営陣にはTBLを基本にサステナビリティを推進していただきたい。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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