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G☆Local Eco!

北の大地のクロス・バリューチェーン(下)

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹
日高山脈の手前に広げる穀倉地帯(2017年7月、筆者撮影)

[G☆Local Eco!第12回(下)]
前半の「北の大地のクロス・バリューチェーン(上)」はこちらから

今春、じゃがいもを入手できずにポテトチップスが生産中止となったニュースを覚えている方は多いであろう。昨年、十勝平野を台風が3つも直撃し、河川の氾濫や落橋、法面の崩壊が起きたことが原因だ。世界的な気候変動により、台風が来ないと言われてきた北海道にも届くようになり、食料供給に甚大な影響を与えることとなった。

いまだ深い爪痕が残っているが、十勝の大地では国内産の3割のじゃがいもや小麦が生産され、砂糖の原料である甜菜(ビート)は45%、豆類は23%に上る。まさに日本の台所というべき十勝平野は、実はTPPが導入された時に壊滅的な影響を受けることが予想されていた。地域の持続可能性を賭けた新しい産業づくりのための事業連携は、この北の大地で静かに確実に進んでいる。

旭川から富良野、帯広、十勝にかけては、個性あるガーデンが点在しているが、個々にPRをやっていても限界がある。そこで、留学経験者の若手5名が声を掛け合い連携し、2008年に「北海道ガーデン街道協議会」を設立した。「北海道ガーデン街道」という名称でガイドブックや回遊チケットを販売し、さらには台湾やタイなどインバウンドに向けた施策も始めた。

協議会メンバーの一人、真鍋庭園の眞鍋憲太郎氏によれば「連携によるプロモーション効果は大きく、それまでの年間2万人だった来客数は4万人―5万人に増えた。何よりも『地域おこしのためならば協力するよ』という声が多くなった」という。

2009年には旧(財)高速道路交流推進財団の地域連携推進事業(観光資源活用トータルプラン)の優秀賞にも選ばれ、3年間の助成金を受けている。当該事業を引き継いだ国土計画協会によれば、「今後とも事業のさらなる磨き上げと連携強化、そして事業の継続性に期待したい」とのことである。

新たな経験価値を提供する、クロス・バリューチェーン

図表2)クロス・バリューチェーン(筆者作成)

筆者はこれらを「クロス・バリューチェーン」と呼んでいる。大義としてのフラッグ(御旗)に正統性があることで皆さんの協力や支援を呼び込むこととなり、これに加わる事業者にはインセンティブがあるから継続的な事業となる。

例えば、回遊チケットで4つの観光農園を回ることができるが、これを利用することで1ヶ所800ー1000円かかる入場料が安くなり、お客様には経済的メリットが生まれ、事業者は観客数の増員を見込むことができる。代理店としてはツアーを組みやすくなり、チケットの販売手数料も落ちる仕組みとなっているのだ。

さらに地域の観光協会や観光連盟の協力、タクシー会社によるタクシープランの提供や住友化学園芸からの広告収入など、次々と協議会への協力が発展してきている。これだけの規模になると協議会の運営会社が必要となり、「北海道ガーデン街道」の設立へと至った。

こうした観光動線ができれば、付随して宿泊業、飲食業、農の6次産業化にもつながっていき、新規投資が生まれることとなる。さらには地元の子供たちの自然学習の機会にもつながっており、写生に訪れている学校もある。

クロス・バリューチェーンにとって大事なことは、その連携によって顧客自身にイノベーションやソリューションという新しい経験価値を提供できるかにかかっている。十勝千年の森のヘッドガーデナーの新谷みどりさんは「都市住民の皆さんに、懐かしい記憶を取り戻す場でありたい」という。

「十勝千年の森」で写生を楽しむ子供たち(2017年7月、筆者撮影)

民間が連携し、十勝ブランド構築

この土地は6月―9月のわずか4ヶ月が観光シーズンである。冬場は閉鎖とならざるを得ない中で、いまは5月、10月の需要の掘り起こしが課題となっている。

そこで北海道ガーデン街道の代表取締役の林克彦氏らがアウトドアで十勝ブランドを構築することを提唱し、この春に「デスティネーション十勝」が設立され、国交省が進めている観光振興のための地域連携の法人組織、DMO(Destination Marketing/Management Organization)としての登録された。これにより国のさまざまな支援メニューが受けられることとなる。

新会社にはキャンプ用品メーカーsnow peakの山井太氏が代表取締役となり、JTB北海道や電通、地元金融機関が出資した。まずは贅沢なキャンプとして広まりつつあるグランピングを帯広市の自然公園の指定管理先となって事業展開を行い始めた。グランピングは、グラマラスとキャンピングを合わせた造語である。

同様に「フードバレーとかち推進協議会」は、オール十勝で農林漁業を成長産業にしようと、農協や漁協、商工会議所や観光連盟、各種研究機関と金融機関によって2011年に設立された。商品開発やブランディングを行い、新しい価値の創出と、十勝の魅力を伝えるための販路開拓を行うという。さらに帯広畜産大学では人材育成事業のために特別講習を行っている。

フードバレーの特徴は他の地域との交流事業であり、先駆けである富士宮市フードバレーやくまもと県南フードバレーとの交流を定期的に行い、相互に販売事業を行っている。

また、十勝毎日新聞は新聞事業だけではなく、北海道ガーデン街道の支援に加え、大樹町のロケット産業、農業振興など、さまざまな産業をクロス・バリューチェーンでつなぎ十勝の産業や文化の向上に力を注いでいる。

そもそも北海道は、明治政府が明治維新であぶれた武士を屯田として開墾開拓をさせたのだが、十勝平野には屯田兵が入らず伊豆から来た依田勉三を筆頭として民間人が入植し開拓した歴史がある。いまでも官中心に動くのではなく、民の力を結集してやり抜こうという気質があるようだ。先人の想いは後世に引き継がれ、この眠れる大地を未来に向けて起こそうとしている。

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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