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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第6回 :揺らぐ世界の底流に見えるもの(1)国連の新たな役割

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

国連の会議場風景(2015年筆者撮影)

前々回、環境よりも社会面のレジーム形成(社会的公正)の遅れが、昨今の流動化・不安定化の一因であると指摘しました。不安定化や脅威を前にすると、目先の利害が前面に出やすく、排他性や攻撃性に傾きがちとなります。

まさに悪循環の罠にはまりやすい事態なのですが、冷静さを取り戻すという意味では、より長期的な視野から歴史の根底を流れている水脈に目を向けることが重要となります。対立や排他性への傾斜から脱して、より包括的な視野ないし多元的視点を確立していく時代潮流は、一体どこに流れているのでしょうか?

社会的レジーム形成が難しいのは、社会的な正義、公正、平等をめぐる論点は多義的で、大きな幅があるからです。歴史的には「資本主義」対「社会主義」の対立がありました。世界を見わたせば、民主主義体制ほぼ拡大してきた経緯なのですが、その制度や形態は多種多様です。しかも、民主主義が定着しだすか混迷状態にある国や、独裁体制に傾く国もあり、種々の政治形態の下で現代世界が形づくられています。

こうした流動的な世界なのですが、注目したい歴史的足跡としては、戦後の国連に代表される国際社会が長年追い求め、築き上げてきた共有価値の集大成ともいえる動きがあります。それは、連載第2回でふれた国連設立70周年時に満場一致で採択された「2030アジェンダ」とSDGs(持続可能な開発目標)において端的に示されています。

図1:国連組織図(筆者作成)

戦後の激動する国際社会は、国際政治での国家間の攻防とともに、紆余曲折しながら徐々に地球市民社会の形成へ向かう歩みを続けていきました。いわゆる国民国家の形成を主軸とした近現代史からの前進です。旧来の枠組み(ヘゲモニー・覇権国家)を超える兆しないし胎動が、見えにくいのですが、国連システムの一翼に形成されつつあると思われます。

国連は、いわゆる中核のハードなコア(基幹部分)とソフトな領域(関連諸活動)があり、多面的に国際社会の諸課題について取り組んできました(図1)。ハードなコア部分とは、安全保障理事会を代表とする第2次大戦下での国家連合としての基幹組織です。それは、残念ながら、近年の複雑化し錯綜する国際問題に対応しきれない硬直性を引きずっています。

それに対してソフトな活動領域部分は、ユネスコ(UNESCO、国連教育科学文化機関)、ユニセフ(UNICEF、国連児童基金)、WHO(世界保健機関、1948年設立)、UNDP(国連開発計画)、UNEP(国連環境計画、1972年設立)、WTO(世界貿易機関、1995年設立)など、20をこえる諸機関・基金・計画が担っており、国連ファミリーないし国連システムとよばれています。

多くの組織ができて、肥大化や非効率などといった指摘もありますが、諸課題に対して柔軟で比較的民主的な対応がとられており、ダイナミックなネットワーク的組織を形づくってきました。

これらの諸組織は、不定形かつ相互連関が不十分な側面をもちつつ、人類的課題に対峙する最前線に位置しています。複雑化した問題に状況的な対応しかできず、雑然とした諸組織という側面もあるのですが、「2030アジェンダ」と持続可能な開発目標(SDGs)によって、再調整と相互連関性を見出して、人類社会の共通ビジョンへと踏み出す契機になる可能性が生まれつつあります。

国連ビルの外観(2015年筆者撮影)

「2030アジェンダ」は以前に少し紹介しましたが、政治宣言とともに17の取り組み課題(大目標)と169の個別目標(ターゲット)を提示しています。17の大目標をみると、社会分野(1貧困、2飢餓、3健康・福祉、4教育、5ジェンダー、10不平等)、経済分野(8雇用・経済成長、9インフラ・産業、11居住・都市、12消費・生産)、環境分野(6水・衛生、7エネルギー、13気候変動、14海域、15陸域)そして横断分野(16制度・平和、17世界連帯・協力)からなりたち、言葉どおり持続可能な世界への道標を目指したものです(注)。

(注)国連広報センター

新潮流の特徴として注目したいのは、国連に代表される人間社会が長年追い求め、築き上げてきた共有価値の集大成ともいえる点です。それは国連設立70年という歩みとその周辺領域で展開されてきた、市民社会の国際的な連帯の成果という側面です。

戦後の激動する国際社会は、国家間の攻防の中で紆余曲折を伴いながら地球市民社会の形成を促す歩みを続けてきました。いわゆる国家形成を主軸とした近現代が、その枠組みを超える兆しないし胎動として、国連システムを弱いながらも新レジーム形成の担い手として出現させ始めているのです。

「2030アジェンダ」の文面をこまかく見ると、さまざまな分野で歴史的に積み上げられてきた成果の上に、未来世界が展望されていることがわかります。とくに20世紀から21世紀にかけての最大の課題ともいえる人権、開発、環境問題など関しては、リオ宣言(1992年)、ミレニアム宣言(2000年)を経て、今回のアジェンダに展開されてきました。

それらは、法的な強い拘束力(ハード・ロウ)をもつ国際条約ではありませんが、その外郭ないし外堀を築いていると捉えられます(ソフト・ロウ)。そこでは国家の狭い利害の枠を越える、人類の共有価値の形成ともいうべき試みが展開されようとしています。

(次回に続く)

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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