サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
CSR/CSV 経営ポイント

「パーパス・ブランディング」という潮流

  • Twitter
  • Facebook
SB-J コラムニスト・森 摂
サステナブル・ブランド国際会議を主宰するコーアン・スカジニア サステナブル・ライフ・メディア社CEO

今年6月に米サンディエゴで開かれた「サステナブル・ブランド国際会議(SB)2016」を訪れた。会場に掲げられたメインテーマは「アクティベイティング・パーパス(Activating Purpose)」という文言だった。

この国際会議は現在、コペンハーゲンやバルセロナ、シドニーなど世界12都市で開かれている。2017年3月に日本で開かれる予定の「第1回サステナブル・ブランズ国際会議in 東京」でも、他の11都市と同様、「アクティベイティング・パーパス」がテーマになる。

ところで、この「パーパス」という言葉は多くの日本人にとって少々分かりにくい言葉だろう。受験英語では「目的」「意図」「用途」と訳されることが多いが、この場合は少し違う。

英英辞書を見ると、[the reason for which something is done or created or for which something exists]とある。「何かが為されるか、生み出される理由。または何のための存在するかという理由」という意味だ。一言で言うと「存在意義」だ。

そして、この「パーパス」を使ったブランディングが、海外では数年前から注目されている。

米ハーバード・ビジネス・レビューのオンライン版に「あなたの会社のパーパスは、ビジョンでもミッションでもバリューでもない」という記事が載っている(2015年9月3日付け。筆者はグラハム・ケニー氏)。この記事で「パーパス」と、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」との違いが分かりやすく書かれているので、少し紹介しよう。

【ビジョン】組織(企業)が「何年か後にこうありたい」という姿。通常、経営層によって、日々の業務より長期のスパンの中で、明確で覚えやすい方法で思考するために書かれることが多い。

【ミッション】その組織(企業)のビジネスが今どこにあり、どこを目指しているのかを書くもの。経営層や社員に対して、よりフォーカスされた姿を明示することが目的。

【バリュー】は、望ましい企業文化だ。例えばコカ・コーラでは、バリューは社員の行動規範として機能している。

【パーパス】社員やスタッフが良い仕事ができるように、組織が顧客(企業の場合)や、学生(学校の場合)や、患者(病院の場合)の生活にどんな(良い)インパクトを与えられるのかを‪明確に表現するもの。(引用終わり)

このグラハム・ケニー氏の定義は、彼独特の表現も入っているものの、いくつかの示唆がある。

第1には、「ミッション」はより「一人称」としての視点が強い。「私はこうしたい」「私はこうありたい」という思いだ。キリスト教でよく使う「ミッション」も、一人称としての使命感が強くにじみ出ている。一方、「パーパス」は、「社会やコミュニティの中で、こうありたい」というスタンスが強いように思える。いわば「第三者的な視点」が加えられている。

第2には、社外(組織外)に対する明確なメッセージである以上に、社内に対する力強いメッセージであることが多い。いわば「インナー・ブランディング」のツールとしての機能だ。

第3には、ビジョンやミッションが一般的に未来に向けた「方向性」(ベクトル)を表すものであるのに対し、パーパスは「原点」を表すことが多い。

パーパスでは、ミッションやビジョンのように「今から何をしよう」「こうありたい」ではなく、「何のために私たち(の企業/組織)は存在しているのか」ーーが強く問われる。

P&Gは、実は世界でも最も早く「パーパス」を導入した企業の一つだ。1987年に生まれた、同社の最初のパーパスは「自社製品に最高のクオリティと価値を与え、世界中の顧客のニーズを満たすこと」だった。P&Gで「パーパス」が体系化された理由は、当時、ヴィックスやマックスファクターなどを買収し、これら子会社の社員にP&Gという企業への理解を深めてもらうことが背景にあったという。

このパーパスが、サステナビリティ(持続可能性)とブランディングの統合を目指す「サステナブル・ブランド国際会議」で大きく取り上げられた。その背景には、持続可能性を追求していくためには、やはり「第三者視点」が重要であることと無関係ではないだろう。

持続可能性を抜きにしたビジネスが世界で存在し得なくなった現在、ブランディングに「パーパス」の視点を取り入れる企業は今後も増えるとみられる。日本ではまだ事例は少ないが、パーパス・ブランディングの流れは今後、確実に日本に根ざしていくだろう。

ちなみに、サステナブル・ブランド国際会議の共通テーマ「アクティベイティング・パーパス」とは、オルタナ45号(2016年8月号)の特集記事で、「存在意義を揺り起こせ」と訳した。「パーパス」に興味を持たれた方は読んで頂ければ幸いだ。

  • Twitter
  • Facebook
森 摂
森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

コラムニストの記事一覧へ