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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第2回: サステナビリティのルーツを探る(2)SDGs採択の背景 

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

「リオ+20」国連会議 リオデジャネイロ 2012年(筆者撮影)

前回は、持続可能な開発・発展(以下、S.Dと略す)の概念が生まれる経緯にふれました。

一言でまとめると、国連人間環境会議(ストックホルム、1972年)、その後の開発と環境の両立をめざす国連貿易・開発会議(メキシコ・ココヨク、1974年)や国際自然保護連合(IUCN)の『世界保全戦略(World Conservation Strategy)』レポート(1980年)などを踏まえて、国連ブルントラント・レポート(Our Common Future)においてSDが中心概念に置かれます(1987)。そして1992年「地球サミット」(国連環境開発会議)で世界的にSDは広がりました。

いろいろ細かい話は多々あるのですが、今回は昨年の国連サミット・総会にて満場一致で採択された、2030アジェンダ・SDGs(持続可能な開発目標)の成立をめぐる背景をみてみましょう。

ふり返ると、地球サミットとは、新時代への出発となるはずの出来事でした。91年のソ連崩壊による冷戦構造が消失し、初めて地球市民的な視点に立って、環境問題や南北(格差・貧困)問題が取り組まれようとしたのです。この地球サミットで、気候変動枠組み条約、生物多様性条約という双子と言ってよい国際環境条約が調印されました。

その意義を一言でまとめると、気候変動枠組み条約とは、石油などの枯渇性資源を使い尽くし地球の気候バランスを崩す大量生産・大量廃棄を前提とする「化石資源依存型文明」の転換を迫るものです。生物多様性条約とは、期待としては、自然との共存・共生にむけて相互依存と循環を尊重する「生命文明」の構築をめざすものと位置づけられます。

絶滅危惧種のみならず先住民の権利や伝統文化など、今まで無視され価値がないとされてきたものが、実は非常に重要な価値をもつことを再認識させました。この2つの条約の意義についてはまた別にふれますが、まさに人類が文明を転換させるための重要な2つの「鍵」と考えられます。

「国連サミット 総会」ニューヨーク 2015年(筆者撮影)

他方、2000年の国連総会を契機に、世界の貧困撲滅をめざしたミレニアム開発目標(MDGs、目標年2015年)が提起され、人類の格差是正という理念の下で南北問題の克服が取り組まれました。その後、2002年のヨハネスブルグ環境開発会議を経て、20年目の節目として2012年「国連持続可能な開発会議」(通称「リオ+20」)が再びブラジルのリオデジャネイロで開催されました。

この「リオ+20」会合において、MDGsという開発の流れが環境の流れと合流して、2016年からより広い目標として「持続可能な開発目標」(SDGs)に取り組むことが合意されたのです。

MDGsは、途上国の貧困・健康・環境などを改善するための8大目標(ゴール)、21の個別目標(ターゲット)、60の指標から構成され、そこでは途上国の貧困問題等を解決することが最大の眼目でした。しかし急速なグローバル化が進むなかで、貧困や格差、環境問題は途上国に限定されない広範な人類共通の課題となり、より広義の人類的課題としてSDGsの必要性が「リオ+20」会合で提起されたのです(最終的なSDGsの大目標は17、個別目標は169)。

この流れは、MDGsからSDGsへ移行するという単純な流れではなく、諸問題、諸課題が渦巻くものでした。「リオ+20」会合では、各国の利害対立が再燃し、地球環境問題に対する先進国と途上国の責任の差異(92年リオ宣言第7原則:共通だが差異ある責任)が強く強調されました。

SDGsは17のキーワードからなっている (国連広報センター)

また一言で途上国といっても、新興国が急浮上する一方で貧困にあえぐ国があって一枚岩は崩れ始めています。国連をめぐっては、国家間の調整という政治的仕組みに限界が生じ、国益の対立が先鋭ないし混迷化する事態をむかえています。そこで、国家の枠組みをこえたNGOや様々な主体(92年地球サミット以来、9つの主要グループ等)との連携が強化されて、国連会議へのNGO等の地球市民的な参加や関与が強まってきたのでした。

「リオ+20」会議(2012年)と国連サミット・総会(2015年)に、私は日本政府代表団としてNGOグループ顧問の立場で参加したのですが、20年前の地球サミット当時のNGOと政府が断絶した状況とは隔世の感がありました。国益という狭い利害をこえる地球市民的な貢献が期待される時代が到来したのです。

例えばSDGsの議論でも、政府のみならず主要グループ(NGO、企業、自治体、女性、若者など市民セクター)からの声が無視できない影響を与えました。実際、各国内での貧富の格差や環境悪化は、先進諸国以上に途上国や新興国で深刻化しており、国益中心の立場では環境正義や社会的公正が達成しにくく、その突破口として地球市民的な立場や主張が大きく寄与する流れが出来てきたのです。

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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