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古民家と古木に新しい命を与えて再生する「サーキュラービジネス」を確立――長野・山翠舎

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来歴が記録された5000本を超える古木が積まれている、山翠舎の古木倉庫(長野県大町市)

全国には築70年以上の空き家の古民家が20万軒以上あるといわれている。山翠舎(長野市)は、空き家となったまま放置されたり、廃棄されることが多かった古民家や古木を生かし、商業施設やオフィスなどに再生するサーキュラーな仕組みを開発した。古木は採取地域、部材の種類、樹種などが分かるようにデータベース化してトレーサビリティを確立。古材としては世界で初めてFSC森林認証も取得した。また、状態のいい古民家を借り上げ、リノベーションしてシェアオフィスや商業施設として活用する新たなビジネスもスタート。古民家の改築や古材を生かす施工は、それに携わる職人たちの伝統技術を守っていくことにもつながっている。(環境ライター 箕輪弥生)

循環の過程にある構造的な問題を一つひとつ解決

地域で発生した古木を使用した道の駅「小谷(おたり)」(ナカサ&パートナーズ)

「昔は古い木を使って家を建てるのは当たり前だったのです」と山翠舎の山上浩明社長は話す。しかし、戦後日本は高度成長時代を迎え、建材を輸入に頼り、日本の木が使われなくなった。今では入手できないような立派な無垢材の梁や柱を使った古民家も、次々と壊されていく。

「もったいない」と思う人は少なくないかもしれないが、実際にその状況を変え、再利用できる仕組みを作るのは容易ではなく、実際に活用する人は少なかった。

解体は古材を良い状態で取り外す必要があるため手作業が多くなる。解体費用もかさむ。古材をストックする場所も必要になる。何より古材のニーズも今よりずっと低かった。さらに、1本1本特徴のある古材を使った設計、施工ができる業者はほとんどいない。

古木や古民家が廃棄されずに循環する仕組みを作りたくても、回収、備蓄、販売、設計・施工のすべてに課題が山積していた。

それをどのように解決していったのだろうか。まず、古木の回収では、持ち主の大きな負担になっている古民家の解体費用を、古材を購入することで相殺し、削減した。手作業で丁寧に回収した古木は、採取地域、部材の種類、樹種、来歴までをデータベース化して、長野県大町市にある800坪の倉庫に備蓄する。その数は5000本以上だ。

古木はすべて国産材である。このデータベース化により、古材のトレーサビリティが担保され、2019年FSC森林認証も取得した。

倉庫には古木が必要な施主のニーズに応えられる量を備え、古木の持つストーリーも保存し、トレーサビリティも確保する。ここでは、移築のための加工も行い、事前の仮組みまでも行うことができる。天井クレーンがあるため一人でも作業できる。

新たなビジネスモデルを次々と打ち出す山上浩明社長

「全国から集められた古材が揃い、加工や仮組みまでできるのは、現場の仕事をスムーズにするための効率化という意味でとても重要です」(山上社長)

古木を使った設計、施工では、古木の良さを理解して設計できる人がいない。施工では曲がったり、硬い古木を施工できる職人は少ない。「木材は伐採してから200年から300年にかけて2〜3割硬度が増すので、施工にも技術が求められます」。

そこで、山上社長は、古木を使った設計、施工の部分を「古木専門工事」として提案、請け負うようにした。仕事量が増えれば、若い大工を育成し、伝統的な建築技法を守っていくこともできるからだ。古材を扱うことで、伝統技術である仕口(しぐち)や継手(つぎて)を使った建築技法を生きた実例から学ぶことができる。

大町倉庫で仮組みされた 120 年前の土蔵。日本橋「T-HOUSE New Balance」で使用
直線がとれない、硬い古木の施工には経験豊富な職人の伝統技術や知識が不可欠だ

一つひとつ構造的な問題を解決してきたが、循環の過程の中でも最も苦労をしたのは販売だと山上社長は言う。古木ビジネスを立ち上げた2006年当初は古木を知らない人も多く、使いたいという人が少なかったのだ。

時代を経た古木は新しい店舗にも物語性や味わいをプラスする「日な田」(東京・神保町)

同社が扱う「古木」(こぼく)とは、戦前に建てられた民家の解体などから発生した質の良い古材のことで、同社が商標登録をしている。古木を使った飲食店は、味わい深い空間が生まれ、休廃業率が平均より低いことがデータでもわかっている。これらの事例をホームページなどで丁寧に発信し、同社の古木を利用した設計・施工実績は500店を超えるまで広がった。

山上社長は、これに加えて、飲食店の新規開業に伴う、物件取得や資金調達などの課題支援を行うサービス「OASIS」も2021年からローンチした。これにより、飲食店主の前に立ちはだかる初期費用の軽減や事業計画、内装デザインなどの課題をトータルに解決し、さらに古木ユーザーを増やしている。

マーケットインの発想で空き家の古民家を再生

今年オープンした古民家を改装したシェアオフィス「合間」(長野県小諸市)

古民家のリユースについて構造的な問題を一つひとつ自社で解決して循環を作り上げ、2020年グッドデザイン賞を受賞した同社だが、山上社長は次なる戦略を考えている。

それは、空き家となっている古民家を解体せず、そのままの状態で購入、または借り受け、商業施設化して、事業者を誘致し、資金調達まで行い、一体となってまちづくりを行うというものだ。

リノベーションは山翠舎が請け負う。空き家になった古民家が重荷となっているオーナーも、借り手も同社が間に入ることで双方のリスクを分散し、win-winになるというわけだ。

この第一歩として、同社は長野県小諸市に、築120年の元旅館の古民家を改装したシェアオフィス「合間」を開設した。

空き家となっている質のいい古民家を生かすことで街を活性化していく

空き家対策にも飲食店の新規開業に伴うサービスと同様、空き家のままになっている原因をつきとめ、それを解決する新たなサービスも構築していく予定だ。山上社長曰く、これらは“マーケットイン”の発想、古木のサーキュラーシステムは“プロダクトアウト”の発想だという。

古木から古民家まで、サーキュラービジネスの確立に向けて、さらにマーケットインのサービスが拡充していきそうだ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/