サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

「日産はこんなもんじゃない」 内田CEOが果敢に進めるパーパス経営とは

  • Twitter
  • Facebook

Presented by 日産自動車

「他がやらぬことをやる」。受け継がれてきたその精神で、世界で初めて2010年にEV(電気自動車)の量産を開始するなど脱炭素社会に向けていち早く取り組んできた日産自動車。2019年にCEOに就任し、「日産はこんなもんじゃない」と改革に挑み、今年度黒字化の見通しが立つまでに事業を回復軌道に乗せた内田誠CEOに同社のパーパス経営について聞いた。聞き手は、サステナブル・ブランドジャパン国際会議ESGプロデューサーで、サンメッセ総合研究所(Sinc)代表の田中信康氏。

企業文化を改革し、ガバナンスを刷新、パーパスを定める

田中:今夏には、日産として初めてのサステナビリティセミナーを開催されました。反響はいかがでしたか。

内田誠CEO(以下、敬称略):セミナーでは、同日に公開したサステナビリティレポートの中でもESGにフォーカスした取り組み、そしてサステナビリティを事業の中心に据えたこれからの経営方針についてお伝えしました。世界中の従業員のほか、投資家、アナリスト、メディアの方々に向けて行ったものでしたが、自動車業界がサステナビリティの取り組みをステークホルダーに公表したことを評価いただく反面、「もっと定量的な示唆」が欲しいというフィードバックもありました。サステナビリティというのは、私たちがずっとやってきたこと。各従業員が、日産自動車が何をやってきたかを思い出し、それを今後どうやって価値に変えていけるのかということを考える機会になりました。

田中:サステナビリティは根幹となるパーパスが重要になりますよね。日産としてはパーパス経営にどう取り組んでおられますか。

内田:今、企業の価値として求められているのは、利益の追求だけでなく、いかに社会に貢献し、社会やお客さまから必要だと言っていただける企業かどうかということです。私が就任した2019年度から企業文化の改革を進め、ガバナンスを刷新してきました。それに伴い、行動指針「日産ウェイ」を15年ぶりに再定義し、「すべては一人ひとりの意欲から始まる」という考えに基づく新たな「NISSAN WAY」を掲げました。理由は、事業構造改革計画「NISSAN NEXT」を実践し日産らしさを取り戻す源は従業員にあるからです。行動指針をすべての従業員が理解し、行動するまでには一定の時間がかかりますが、従業員とコミュニケーションをとって目指すべき方向性を共有し、動機づけを行っていくことが最も重要だと認識しています。

その上で、長年にわたり掲げてきた企業ビジョン「人々の生活を豊かに」を踏まえ、「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」というパーパスを定めました。創業以来、大切にしてきた“他がやらぬことをやる”という精神を引き継ぎながら、日産は何のために存在するのか、どのように役割を果たしていくのか、という問いに応えるものです。

田中:パーパスを従業員に浸透させていくことは容易ではないでしょう。

内田:時間はかかると思いますが、社員の意識も変わってきています。日産では世界規模で従業員調査を実施しています。2020年の調査では「自分がパフォーマンスを出せる環境を会社が整備しているか」を示すイネーブルメント(従業員の能力を引き出す体制)の結果が下がっていることが分かりました。これは私にとっては非常にショッキングでした。ただこれは、いろいろな課題のあった2019年には「会社がどうなるか」というところに社員の意識が集中していたのが、会社の業績が良くなってくると、個人の意識が高まってくるという表れなのかなと。

経営層はもちろん社員個人の意識が変わっていくことが、ひいては社会のためになる、ということを意識できるような環境に変わってきている。つまり “血を通わせる”ことができている。その変化に今、一番やりがいを感じ、会社が大きく変革していこうとしていると感じています。

2050年カーボンニュートラル達成 EVの先駆者として道を示していく

田中:社会変革につながるインパクトをどうもたらし、会社がこれからどの方向に向かって行くのかということも一つの重要なポイントです。

内田:そうですね。日産の向かうべき方向として、11月末に長期戦略「Nissan Ambition 2030」を発表しました。社内はもとより、対外的にも日産が何をやりたいのかが伝わらないといけません。例えば電動化戦略も、「やらされ感」ではなく、これこそが日産のやりたいことと思わなければ。そう思えるように経営側がしていかなければならない。電気自動車と簡単に言っても、人々の生活を豊かにするために、日産としてワクワクするクルマを提供する、イノベーションをドライブし続けるってどういうことなのか。日産がどの国にどんな価値を作っていくのか、どう事業として成長させるのか。この辺が従業員にとって、腹落ちしないといけない。そのための羅針盤となるものが「Nissan Ambition 2030」です。

具体的には、日産は今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速していきます。15車種のEVを含む23の電動車両を投入し、世界で電動車の割合は2030年までに50%以上になる見込みです。現在のリチウムイオン電池で十分な供給体制を整えながらも、全固体電池を2028年度に市場投入することを目指し開発に取り組んでいます。最終的には、EVの車両コストをガソリン車と同等レベルまで引き下げ、EVの本格的な普及につなげていくことを目指しています。さらに次世代のクルマづくりに対応し、カーボンフットプリントを最小限に抑える「ニッサン・インテリジェント・ファクトリー」を世界の主要工場に拡大していきます。2030年までに工場のCO2排出量を2019年比で40%削減する計画を立てています。

田中:外部環境も変化し続けています。米国が気候変動にかける予算も倍増していたり、経済情勢も変わる中で、日産は脱炭素に強い意識を持って戦略を打ち出されています。

内田:日産自動車は、EVを2010年に発売し今年で11年を迎えます。50万台以上売っている中でも、電池が起因した事故は一切ない。やはりそこはこだわりと経験と、11年かけてきた技術の進化がある。電動化が必要性を増す中で、どういう風にそれを示していくか、「日産だから言える」ことにはこだわりたいなと思っていますね。

脱炭素を含め環境に対してはより真剣に考えなければいけないのは当然ですが、「時代がこうなったからこうやる」は違うと思っています。以前から大事にしてきたことを、これからも発信していく過程と捉えています。従業員には、日産が元来目指していたものの延長線上が今であると理解してもらいたい。それを理解せず、世が世だからやるというような感覚でいると間違いなくそこに力は入らないです。

「従業員が会社を良くしようと思える仕組みを必ずつくる」

田中:ESG経営が本格的に浸透し始め、よく人的資本という言葉が使われます。やはり、最終的には「人」というところに帰結するのではないでしょうか。

内田:人財という点では、日産が重んじてきたダイバーシティもインクルージョンも、会社と従業員が互いに透明性を持って互いを尊重しないと成り立たないんですよね。この時代にこれだけの多様性を持って事業をやっていくって並大抵のことじゃない。ただ、それが日産の強みです。日産は指名委員会等設置会社という形をとらざるを得なかった会社でもあるので、その中で互いの立場を理解して、監督と執行という立場をリスペクトしながら会社を良くしていくことが、ガバナンスの一番の目的です。言うは易く行うは難しで苦労はありますが、そういった基本的な考え方を持っていれば必ず上手くいくと思っています。

田中:最近では、従業員の生むインパクトを評価につなげていく流れも生まれてきています。ESGの目標指標や結果を給与指標の中で見ていこうという。さらに従業員の評価を部門間連携につなげようと取り組む動きも出てきました。

内田:興味深いですね。人財の育成は時間がかかります。日産は設計に入ったらずっと設計にいるなど、結構縦割りで。ジェネラリストが良いのかスペシャリストが良いのかという判断は難しいと思いますが、この1年半ぐらいで、いろんな経験をしてもらうための人事ローテーションをカリキュラムとして設定しました。

田中:日産に入って良かったという、プライドを持ってもらえる会社にしていくために必要なことは何でしょうか。

内田:やはり企業には個性がないといけないと思いますし、それがいろんな可能性を生む。たま電気自動車(1966年に日産と合併したプリンス自動車工業の前身)も、1940―50年代から着脱式の電池のスワップ(交換)をもうやっている。そういう発想が持てる会社だということがわれわれのDNAであって、それをどうやって人財の育成につないでいくか。会社の歴史・強みを知り、そして何が起こってしまったのかを覚えながら、やはり一人ひとりが本当に会社を良くしていこうという気持ちになってもらえるような仕組みを、必ず作らないといけないと思っています。

これからは、いろんなタイプの人財が個性を伸ばせるようにしなければいけないですし、そういったリーダーシップがどんどんあるといいのかなと思うのです。みんなが同じような感覚じゃなくて。だからエグゼクティブ・コミッティ(以下、EC:日産グループの経営に関する最高意思決定機関)でももっと突拍子もない意見がばんばん飛んだほうがいいんですよ。「え?」って思うようなことを急に誰かが言うぐらいのほうが会社は活性化するし、良くなると思うんですよね。

田中:社会から厳しい視点で問われた部分がもう一度、軌道に乗ってくれば、そういった意見も本当に交わせるはずです。

内田:そうですね。やっぱり人のマインドの変革は少し時間がかかる。役員層から変わり、次いで部課長が変わっていく。若手社員は「日産、変わらなきゃいけないよね」と思っていても、上がそういうマインドでないと、先ほどのイネーブルメントがうまくいかないというのが実態だと思います。

少し時間がかかってもそこが必ず変わって良くなれば、サステナビリティレポートに書いていることにさらに真剣に取り組み、自らやりたいっていう気持ちに変わってくるはずなんですよ。それをしないと、日産はたぶん強くなれない。

田中:2021年は人権が大いに注目される年でした。しかしCHRB(企業人権ベンチマーク)のランキングによると、自動車部門で日産は18位となっています。

内田:正直に言ってショックでしたね。ダイバーシティを重視した経営を行い、人権に対する意識、感度は高いと思っていたので、今回の結果は非常に重く受け止めています。なぜそう捉えられているのかをよく理解した上で、欠如していることがあれば、すぐに取り組んでいこうと、ECで論議を交わしました。

冒頭のサステナビリティセミナーでも話しましたが、カーボンニュートラル達成を目指した取り組みと、調達を含むサプライチェーン全体の人権に対する取り組みは、常に両立しなければならない。つまり価値を追求する大前提として、あらゆるステークホルダーの人権を侵害することはあってはならないことです。

田中:昨今は社会インパクトと財務インパクトの双方の観点が企業に求められるようになりましたが、実は自動車メーカーは統合報告書を積極的に出していない。一方で、世界の自動車メーカーでも年次報告書とサステナビリティ報告書を統合した報告書を発行する企業も出てきています。さらに、ダイバーシティ、人権など人的資本に関わるところの開示に積極的になってきている流れもあります。価値創造プロセスが、冒頭にも言われた「定量的にはどうするのか」に応えていく一つの手段になってくるのではないでしょうか。

内田:日産も「せっかくやっているのにちゃんと説明できていない」と言われることがあります。以前はベースの財務情報が実績として出ていなかったという事情もありますが、こちらの心配がなくなってきた今、非財務情報の何をどう発信するのかを考えなければいけなりません。バリュー(価値)の可視化を積極的に進めていきたいです。

  • Twitter
  • Facebook