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帝国ホテルの食におけるサステナビリティとは――東京料理長の革新から考える

伝統にとらわれない取り組みを進める第14代目の帝国ホテル杉本雄東京料理長

昨年、開業130周年を迎えた帝国ホテルは、コロナ禍という厳しい状況下にありながら、サステナブルな取り組みを継続して進めている。その中でも食の分野においては2019年に就任した杉本雄東京料理長がフランス料理の食文化の考え方をもとに新しい試みを次々に発案し、取り組んでいる。たとえばバイキングスタイルの食事の提供では、食品ロスを減らすという観点からタブレットを使ったオーダーシステムへ変更。その他、廃棄してしまいがちな食材なども現代の調理法で料理に生かすなど、これまでのホテルの常識にとらわれないアイデアで取り組みを進めている。帝国ホテルが追及する“食”におけるサステナビリティとは何か、杉本東京料理長に聞いた。 (環境ライター箕輪弥生)

フランス料理の哲学を生かしたサステナブルな食を提案

コロナ禍はホテル業界にもこれまでにないような大きな打撃を与えている。130年にわたり日本の迎賓館としての役割を担ってきた帝国ホテルも他ならない。

「いつもお客様でいっぱいだったロビーにお客様がいない。当たり前のことを当たり前にできなくなったことで、食材から食事の提供方法まで見直す時間ができ、コロナ禍を未来につなげる機会と捉え直しました」

こう話す杉本東京料理長は2019年に38歳という若さで同ホテルの料理長に就任した。フランスを中心とした欧州で13年間本場のフランス料理に接し、ヤニック・アレノ氏、アラン・デュカス氏という著名なシェフの元でも研鑽を積んだ杉本東京料理長は帝国ホテルの食のサステナビリティの根幹をフランス料理の考え方に置いているという。

「フランス料理というのは地方料理の集合体です。ですから地産地消が基本。たとえば鯛1匹を調理する場合も、切り身はグリルに、頭や骨はソースのベースとして使いきるといったように、その土地で取れた食材をいかに余すところなく使い切り、その魅力を引き出すことができるかというところに価値を求めます」

ホテル内の飲食全体を監修する立場の杉本東京料理長は、ホテル全体を見たときに、ロスになってしまう食材をレストランの枠を超えて使用するなど、これまでの型にとらわれない食品ロス対策も進める。そのひとつが廃棄してしまいがちな部位を、現代の調理法で料理に生かすという考え方だ。

たとえば、レモンの皮や根菜類の皮を低温オーブンでじっくり焼いて、パウダー状にして塩を混ぜる。製造過程で余ったパン生地をミックスし、また新たな風味のパンを作り出すなど食品ロスを減らす新たな試みに挑戦する。

「欧州の一般家庭でも固くなったパンを牛乳と卵に浸して焼き、フレンチトーストにする習慣があるように、これまで廃棄されたり、使われていなかった部分から新しい味を作り出すことはフランス料理の基本的な考え方にあるものです」

「フランス料理を日本で130年間提供してきた帝国ホテルだからこそ、フランス料理の哲学を生かしたサステナブルな取り組みを推進したい」と杉本東京料理長は強調する。

食材についても、養殖魚の積極的な利用のほか、20年前から同ホテルで取り組んでいる、食品残渣を堆肥化して契約農家で栽培した「循環型野菜」の活用も行っている。

さらに、食材はこれまで安定して供給できるものを選ぶことが多かったが、旬を意識してその食材が一番おいしい時期だけに限って提供するなど、自然に寄り添った提供方法に少しずつシフトさせている。

杉本東京料理長はタブレットを使った「オーダーバイキング」も監修

次々と新しいアイデアを生み出す杉本東京料理長は、帝国ホテルが発祥といわれるブフェレストランでのバイキングスタイルも一変させた。感染症対策やバイキングでの食品ロス削減のため、タブレット端末を利用した「オーダーバイキング」形式に変更。量の調整などにも個々に対応している。

渋沢栄一初代会長の「道徳と経済」の考え方が迷いを払拭

子どもたちの食育プログラムでは海老を余すことなく食べるメニューも提案した

これまでの伝統にとらわれない新しいアイデアを次々と形にする杉本東京料理長だが、サステナブルな取り組みと、ラグジュアリーな非日常を提供するホテルとしての役割のギャップに悩むこともあったという。

「お客様の環境への意識やSDGsの認知も高まってきましたが、やはりサステナブルな取り組みをどうやってビジネスに転換していくかが一番難しいところだと感じています」

この課題を乗り越える上で考え方の指針になったのが、帝国ホテルの初代会長 渋沢栄一初代会長の「道徳なくして経済なし」と言われる経済哲学だ。

「公益を追求する『道徳』と、利益を求める『経済』の両輪が大切である」という渋沢栄一初代会長の哲学は、現在のSDGsの考え方にも一致する。「初代会長の理念を学んだ時に、ストンと腑に落ちた」と杉本東京料理長は話す。

かねてより同ホテルではアメニティのリサイクルや、客室の中水の再利用など「サステナビリティ推進委員会」を設けて環境負荷の軽減に取り組んでいる。

欧米では、エネルギーや水の消費量の削減、廃棄物の減量、オーガニック食品の活用、スタッフの環境教育など環境に配慮したグリーンなホテルが拡大している。

日本のホテル業界をけん引する帝国ホテルだからこそ、「伝統は常に革新とともにある」という帝国ホテルのスピリッツを体現するようなサステナブルな取り組みに今後も期待したい。


写真:原 啓之

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/