SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイトです。ページの先頭です。

SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

「協生農法」に学び、リジェネラティブな組織づくりに取り組むーー加藤佑・ハーチ代表

新型コロナウイルス感染症の拡大を機に加速した「テレワーク」への切り替えや、観光地やリゾート地で働く「ワーケーション」、従業員の幸福度を高める「チーフ・ハピネス・オフィサー」の設置など、各企業ではさまざまな「働き方改革」が進められている。一方で、雇用の多様化を実現するダイバーシティ・インクルージョンの実践については、目立った取り組みはまだ出てきていない。そうしたなか、生態系などに配慮した「協生農法」の考え方を取り入れ、一人ひとりの個性と多様性を実現するリジェネラティブな組織づくりを行うハーチの加藤佑代表にそのヒントを聞いた。(松尾沙織)

加藤 佑 (かとう・ゆう)
ハーチ株式会社代表取締役。1985年生まれ。東京大学卒業後、リクルートキャリアを経て、サステナビリティ専門メディアの立ち上げ、大企業向けCSRコンテンツの制作などに従事。2015年12月に Harch Inc. を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。現在はサーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市で「Circular Yokohama」など複数の事業を展開。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。

ーー協生農法を経営に取り入れるきっかけはどんなものだったのでしょうか。

加藤:あるイベントのセッションで、協生農法の普及をされている一般社団法人シネコカルチャーの福田桂さんが協生農法について話をされていました。

協生農法は、無農薬で化学肥料も使わず、植物や自然が持つ自らの力だけで協力したり共生しながら成長していく、何も手を入れない、自然の力に任せるという農法です。たとえば畑があったとしたら、まず真ん中に大きめの果樹を植えて、その影ができるところにいろいろな野菜やハーブなどの苗を植えて、その下に種を撒くというものです。果樹を中心に植えると、下に落ちた葉が腐葉土となり、これが肥料となって周りの植物たちの栄養源となっていく。あとはそれらがお互いに影響を及ぼし合いながら共生して植物が繁栄していくというのが、基本的な協生農法の理論だと教えていただきました。

出典:Sony CSL

これを聞いたときに、ちょうど会社を設立して4年が経ち、組織をさらに発展させていくにはどうすればよいかを考えていたので、この協生農法の考え方はそのまま組織に使えるかもしれないなと思ったんですね。

創業メンバーである第1世代が果樹で、その次に入ってきた第2世代が苗だとしたら、種となる存在がいません。「種=若い世代」を入れれば、協生農法の理論に基づいた組織運営ができるのではないかと思いました。

そういった理由から、2020年から若い世代を積極的に採用し、今では20―30代が中心の25名ほどの組織になっています。

基本的には、どの組織でも同じようなことが起こるとは思うのですが、体で例えると、異物が入ってきた状態と同じだと考えています。新しいメンバーが組織に加わると、一定の反応が起こります。それまで安定していた人間関係はメンバーが一人増えただけでも、大きくバランスを崩して変化する、一人ひとりがポジションを再定義し直し、関係性をリコネクトしていく必要性が生まれます。

その過程ではもちろん摩擦も起こるのですが、最終的にはその異物が体に取り込まれて組織の一部となり、組織がより強化されていくというイメージです。各個の要素が相互に作用し合い、一定の秩序が生まれて、そこに構造が生まれることを『自己組織化』と言うのですが、それぞれが混沌の中から自分のポジションを確立し、全体が一つの秩序としてうまくまとまって機能していく状態、協生農法はまさしくこれだと思いました。

会議の様子。今年から全社でリモート勤務を導入。学びと地方創生を目的に地方でのリモート勤務も推奨する

ーー多様性を実現するために他に行っていることは何かありますか。

加藤:国籍や性別、年齢などの多様性ももちろん大事なのですが、それ以上に一人ひとりが「自分らしくある」ことをまず大切にしています。

誰しもが「自分らしく」あることができれば、当然、人とは違うので、組織は多様になっていきます。この自分らしさを発見できるように「GIFT(ギフト)」というピアボーナスの制度を運営しています。これはお互いに感謝のコメントを送り合うというシンプルな仕組みですが、これによって自分でも気づいていない才能(ギフト)や強みを発見できるようにするためなんですね。一人ひとりが自分らしさに気づいていくーー。これをやってよかった点は、一人ひとりがフィードバックを通じてお互いに高め合うことで、組織の中で自分が貢献できるポイントを理解し、より成長していけるところです。

さらにこのピアボーナスの仕組みが、給料にも反映されるようになっているのですが、これはある意味、すでに経営陣が評価の一部を手放しています。経営層は3人いるのですが、社員全員を全面的・多角的に評価することはなかなか難しい。旧来型の上の人が下の人を評価するというよりは、働いている人同士がお互いに頑張りを認め合うことで、より適正な評価ができます。

今の世の中はどこまでが組織のためで、どこからが自己実現なのかも曖昧です。社会貢献を本業に据える流れもある中、関わる人や地域が豊かになることを事業の目的に取り込むとなると、事業の結果として、社員が生き生きと働けているかという点も事業の評価や人事評価に入ってきます。そうなると、いままでは生産性に偏っていた評価制度そのものも変わっていく必要があるなと思いますね。

ーーさまざまな働き方改革が進められていますが、これについてはどう捉えていますか。

加藤:一言で「働き方」といっても、たくさん働きたい人もいればそうでない人もいるので、一人ひとりに合った柔軟な制度があるのがいいなと思います。

また社会では、生産性を上げることが重視されていますが、僕は何のために生産性を上げるのかを、きちんと考えることが大事だと思っています。生産性を上げるということは効率を上げるということですが、その結果として今の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会に繋がってしまっている側面もあります。

これを考えると、何のために生産性や効率を上げるのかをしっかりと考えないと、結果として本質的な意味で人間の幸福にはつながりません。一人ひとり幸せを感じられる働き方は違いますし、もっと柔軟性が高まっていくことと、一人ひとりが自分なりのベストな働き方を定義して、実現できるような制度や仕組みになったらいいですね。

最近の好きな言葉は「ウェルビーイング」です。一人ひとりの幸福だったり、コミュニティの幸福だったり。経済の究極の目的はそこなのではないでしょうか。個人のウェルビーイングを実現したければ、幸福につながる人との良好なつながりが必要で、きれいな水や空気や自然へのアクセスも必要になりますし、最低限暮らせるよう経済的な土台も必要となります。

SDGsでも言われている「環境」「社会」「経済」この3つすべてにウェルビーイングは関わってくるので、個人や組織、地域社会でウェルビーイングを追求していけば、自然と経済も社会や環境に配慮されたものになり、調和が実現されていくと思っています。

社内で取り組むサステナビリティアクションの一つ、ゴミを計測して減らしていく取り組み

ーー自然界には一定の割合で控え選手が出る「パレートの法則」があります。その控えを交代でやれば、みんながバランスよく働くことができるのではないかと思うことがあります。

加藤:その意見には本当に賛成です。僕たちも自然の一部なので、自然界の原則やそういった多様性の考え方に倣うことは大切なことです。

コロナで問われているのは、レジリエントな社会や組織だと思うんですが、まさにその状態がレジリエントな状態だと思っています。効率を追求しすぎると、もしかしたらレジリエンスが下がる可能性もある。

例えば、組織のなかには、普段はあんまり働いてないし成果も出していないけれど、緊急時や災害時になるととたんに活躍する人もいるわけですよね。でも、現状はそうした人を適正に評価する仕組みはほとんどありません。

組織の中にも働く人にもゆとりが必要です。いつも頑張っている人が働けなくなったら、普段はあんまり働いていなかった人が、待ってましたと言わんばかりに頑張る。

それによって組織全体としてレジリエンスが強い状態を保てるという形もありえます。仕事の効率面ではあまり評価されないような人でも、組織の中における存在価値は絶対にあります。

サステナビリティの考えのなかでも、人間と自然を分けて考えるのではなく、人間を自然の一部として考える 「リジェネラティブ」 な考え方が、世界でも出てきています。

人間と自然を分け、自然を外部のものとして開発、搾取していくという考えではなく、グリーンリカバリーという言葉にもあるように、人間の活動を通して自然そのものが回復していくようなありかたが求められていますが、僕は組織と個人の関係もそうだと思っています。

ゼロサム、要は企業が得するか、個人が得するか、その関係性ではもう成り立たちません。自分のために頑張ることが、組織のためになっている状態。組織が個人のために頑張ったら、それがそこで働く人たちのためにもなっている状態。個人と組織がリジェネラティブな関係性の中でお互い重なり合っていく状態をつくっていかないと、成り立たなくなっていくのかなと思います。

うつや発達障害の方の就労を支援するビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」と提携し、スクールの参加者にニュース記事の作成をしてもらいウェブマガジン『IDEAS FOR GOOD』で配信する翻訳ライティングプログラムを始めた

SDGsが目指している人類の総幸福を実現するというビジョンは、社会のダイバーシティ・インクルージョンの実現なくして達成はできない。なぜなら、多様な立場の人を受け入れる社会をつくるためには、まず多様な雇用の選択肢をつくることが必要となってくるからだ。

ある研究結果では、組織の多様性を高め、心理的安全を確保することが、イノベーションの創出や利益にもポジティブに影響し、企業価値を高めることにつながることがわかっている。もともとの世界がダイバーシティであるゆえに、組織や事業を多様化することで可能性を広げていくことは可能なはずだ。そして世界のさまざまな問題を解決するために、ダイバーシティが必要なだけでなく、ヒエラルキー型の資本主義を抜本的に変えていくことも言われている。

資本主義がつくり出す競争経済は、上下関係や優劣をつくり、「上を目指さないといけない」「今に価値がない」という前提をつくり出している。それによってこれまでは、収益や顧客の数を追いかけ、人や組織を盲目にし、環境を破壊したり、人々の幸福を置き去りにしてきた。これらを根本から見直すには、ハーチの取り組みのように、「横の関係」 に紡ぎなおしていくこと、それを支える経済こそが必要なのかもしれない。

生産性と環境破壊のトレードオフの上に成り立ってきた経済ではなく、協生農法のような、それぞれの個性を認め、高め合う「トレードオン」の経済へといかに移行していけるかが、これからの時代を生き抜くカギとなるだろう。

  • Twitter
  • Facebook
松尾沙織 (まつお・さおり)

2011年の震災をきっかけに当時の働き方や社会の持続可能性に疑問を持ったことから、現在はフリーランスのライターとしてさまざまなメディアで「SDGs」や「サステナビリティ」を紹介する記事を執筆。SDGsグループ「ACT SDGs」立ち上げる他、登壇、SDGs講座コーディネートも行う。また「パワーシフトアンバサダー」プロジェクトを立ち上げ、気候変動やエネルギーの問題やアクションを広める活動もしている。