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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

「グッド・ライフはこうして実現」 SB創業者に聞く

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サステナブル・ブランド国際会議(SB)の2019本会議が6月3-6日、米ミシガン州・デトロイトで開催された。SBでは、2017年から共通のキーワード「グッド・ライフ」を掲げ、世界13都市で議論を深めてきた。今年のテーマ「グッド・ライフの実現」(Delivering the Good Life)について、同国際会議・創業者のコーアン・スカジニア氏に話を聞いた。

青木茂樹 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー(以下、青木): 2017年は「Redefining the Good Life」(グッド・ライフの再定義)、2018年は「Redesigning the Good Life」(グッド・ライフの再構築)、そして今年は「グッド・ライフの実現」です。

「グッド・ライフの実現」について、「サイエンスとテクノロジー」「ストーリーテリング」「パートナーシップと共創」が重要な3つの柱だとおっしゃっていました。「グッド・ライフの実現」はどのような段階でしょうか?

コーアン・スカジニア ( 以下、コーアン):まだ始まったばかりの段階です。

今は興味深い時代です。膨大な数のイノベーションが生まれ、技術が日々進化しています。ITやバイオテクノロジーなど、今後もとてもポジティブな画期的イノベーションが起きるでしょう。

しかし同時に、問題もあります。私たちが最も関心を寄せていることの一つに、「予期せぬ結果(unintended consequences)」があります。例えば、バイオテクノロジーは可能性を秘めたものですが、使い方を間違えれば恐ろしいものにもなります。

私は「できるからといって、すべきとは限らない」と考えています。つまり、技術を進化させられるからといっても、必ずしもそうすべきとは限らないということです。

目指す未来を語るストーリーテリングの重要性

青木:ストーリーテリングについて詳しく教えてください。

コーアン:まず、現在の世界政治は「ストーリー(物語)の戦い」だと思います。例えば、一方では「グローバリゼーションを止め、保護主義に戻ろう」と伝えられ、他方では「未来はグローバルになる」と伝えられています。2つの対立するストーリーがあります。その社会で暮らす人々の心をどちらのストーリーが掴むかで、未来は変わってくるのです。

それから、私たちは「暗い未来が待ち受けている」というストーリーに囚われすぎです。多くの人が未来に向けてストーリーを考える時、こういう未来になりたくないという考えの下でストーリーをつくっています。

私たちが別の、オルタナティブなストーリーをつくらなければ、避けたいと考えた未来がやってくるのです。自分たちが語り、自身に言い聞かせるストーリーが現実になり、未来をつくるのです。

ですから、どのようなストーリーに自分たちが身を置いているのかを理解し、どのような意味合いを持つストーリーをつくり、世の中に伝えていくのかが重要になります。

新たなイニシアティブ「#BrandsforGood」

青木:今年新たにSBが始める取り組みに「#BrandsforGood」があります。

コーアン:#BrandsforGoodは、ブランドの力で「持続可能な暮らしが『未来のグッド・ライフ』なのだ」というストーリーを伝えるイニシアティブです。

「持続可能な暮らしは不自由で、色々と制限されるものだ」というストーリーを伝える代わりに、「持続可能な暮らしは快適なもので、やりたいと思うさまざまなことを実現できる」「持続可能な暮らしを実践することはグッド・ライフを手放すことではない」ということを伝えることです。持続可能な暮らしを通して、グッド・ライフは実現できるのです。

青木:企業が#BrandsforGoodを主導するということですね。

コーアン:そうです。#BrandsforGoodを主導するのはサステナブル・ブランドのメンバー企業です。P&Gのマーク・プリチャードCBO(最高ブランド責任者)と協働し、#BrandsforGoodを完成させようとしています。プリチャード氏は「ブランドには、文化やライフスタイルを変える計り知れない力がある」ということを深く理解していて、色々なブランドを巻き込もうと努めてくれています。

青木:どのようなブランドが参加していますか?

コーアン:現在のメンバーは、ペプシコ、ナショナルジオグラフィック、ネスレ・ウォーターズ、ターゲット、SCジョンソン、SAP SuccessFactors、VISA、電通イージス・ネットワークなどです。

ブランドの影響力を使って、持続可能な暮らしを後押しし、人々を持続可能な暮らしに引き込もうと努める企業の集まりが#BrandsforGoodで、その対象になるのは消費者や従業員です。従業員は、企業の魅力を伝えるアンバサダーや企業文化をつくる重要な役割も果たしていますからね。

青木:#BrandsforGoodはさまざまなステークホルダーに影響をもたらすことができるイニシアティブということですね。

コーアン:そうです。もう一つ大きく期待しているのは、広告代理店などクリエイティブ・エージェンシーやインフルエンサーへの影響です。

代理店はかなり後れをとっています。社会環境の変化やブランドコミュニケーションを通して社会的環境の変化に取り組むことがもたらす事業価値、そしてその意義や方法をまだ十分に理解していないのです。ですから代理店を巻き込み、こうしたことを理解する手助けをしていくのです。メンバーのブランドにも、広告代理店を#BrandsforGoodの会合に招待してもらうようにしています。

青木:昨年 「Brand Transformation Roadmap」を発表していますが、#BrandsforGoodとどう関連しているのでしょうか。

コーアン:「Brand Transformation Roadmap」は、サステナブル・ブランドとは何かということを説明するものです。どうすればサステナブル・ブランドになれるのか示すツールです。

ブランドは、単に企業の地位を示すものでもありませんし、マーケティング・キャンペーンでもありません。従業員やその企業が抱えるすべてのブランドをどう生かし、どう企業統治を行うか、不動産をどう活用するのかということも、ブランドの一部なのです。

でも、これは一般的に考えられているブランドの解釈とは異なります。ですから、マーケターや企業幹部に、成功するブランドにはビジネスのインテグリティ(誠実さ)が不可欠だということを理解してもらうためのお手伝いをするのです。個人にとってのインテグリティが、個人の社会資本やパーソナルブランドに必要なことと同じです。

青木:#BrandsforGoodには、生活者のライフスタイルをグッド・ライフの観点から測定する「ライフスタイル・トランスフォーメーション・ロードマップ」というツールがありますね(※編集局注:同ツールは現在策定中)。

コーアン:「ライフスタイル・トランスフォーメーション・ロードマップ」は、消費者のライフスタイルに変化をもたらすための手引きで、「Brand Transformation Roadmap」の対になるものです。ですから、これらの取り組みを通して、企業の内側だけでなく消費者にも変化を起こすことができるのです。

「ライフスタイル・トランスフォーメーション・ロードマップ」はこれから完成させていきますが、将来的には、ブランドと消費者両方の進捗状況をレベル測定することができるようになります。

共創がブランドの未来を握る

青木:2006年にサステナブル・ブランドを立ち上げました。14年目を迎え、今注目していることは何でしょうか。

コーアン:これまでの14年間、サステナブル・ブランドになるために変わろうとする企業の後押しをしようと努めてきました。その結果、多くの人が理解をし、取り組んでくれる「Brand Transformation Roadmap」や「#BrandsforGood」という手法を生み出すことができました。

今、最も関心があるのは「共創」です。今年度のテーマ「Delivering the Good Life」は、ブランド同士の共創と協働によって初めて実現できるものです。ブランドには、競合ブランドも含まれます。「共創」はこれからのブランドのあり方に大きな影響を与えるもので、本当にわくわくしています。

青木:デトロイトでの開催は2017年以来、2度目になりますね。

コーアン:デトロイトで開催する意義は、財政破綻から立ち上がろうとするデトロイトが「Redesigning the Good Life」(グッド・ライフのリ・デザイン)のさなかにいるというところです。

デトロイトに戻って来たのは、SBは新しい未来を描き立ち上がろうとするデトロイトとここに暮らす人たちを応援しているという姿勢を示すためでもあります。

真剣に課題に挑戦し、乗り越えようと取り組むSBとして、私たちはデトロイトで開催する責任があると思っています。デトロイトに一度来て、インスピレーションやアイデアを十分に得たから、もうデトロイトで開催しなくても良いというのは私たちの信念と異なります。

デトロイトが直面している問題は、米中西部や世界の他の国にも共通するものです。「グッド・ライフ」の定義が変わるなか、自動車産業やエネルギー産業はかつてのようには成り立たなくなっています。世界中で同じ問題が起きています。

青木:来年のサステナブル・ブランド国際会議 2020本会議はカリフォルニア・ロングビーチで開催されます。テーマは何でしょうか?

コーアン:「RE-GEN-ER-A-TION」(再生)です。サステナビリティの語られ方というのは「不足」に焦点を当てています。「足りない」ということに焦点を当てると、恐怖心や競争心が生まれます。

しかし、「再生」について考えてみると、「不足」ではなく「豊かさ」や「可能性」に目線が移ります。そして、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けて動き始めることができるのです。サーキュラーエコノミーでは、たい肥化や生分解が可能になり、回収可能になり、「不足」という観点に立たなくてもよくなります。

青木: 今日は、ありがとうございました。

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小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。