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メリーランド大学、まだ食べられる食品をセンサーで見分け、アプリを通じて必要な人に分配する仕組みを開発へ

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Image credit: simon peel

米メリーランド大学が率いる分野横断型の研究チームは、食料廃棄と食料不足に取り組むプラットフォーム「ナリッシュネット(NourishNet)」の開発費として、米国国立科学財団(NSF)から500万ドル(約7億5700万円)を授与された。ナリッシュネットは、食品の初期の腐敗を見抜くことができるポータブルで使いやすい食品品質センサー「クオンタム・ノーズ(Quantum Nose)」と、食べものを満足に得られない人のために余剰食品の分配を最適化するリアルタイムアプリ「フードループス(FoodLoops)」を特徴とするテクノロジーを活用した取り組みだ。(翻訳・編集=小松はるか)

メリーランド大学が主導するナリッシュネットは、 NSF「コンバージェンス・アクセラレータ・プログラム」のコンセプトを実証するフェーズ1で、75万ドル(約1億1350万)を獲得した後、食料不安の解消に取り組むフェーズ2に進んだ。

同大学の農業・自然資源学部の教授であるステファニー・ランシング教授が率いる研究チームは、食料配給所に十分な生鮮食品を提供し、食料廃棄を減らすために、生産者や寄付者、卸業者、食料を必要としている人々を結ぶテクノロジーを活用した解決策を提案する。

NSFが社会・経済的インパクトを生み出すための解決策を促進するべく2019年に立ち上げた「コンバージェンス・アクセラレータ・プログラム」は主に基礎研究や発見への投資を行う。プログラムに参加する分野横断型のチームは、分野を超えて社会的課題の解決に取り組む「コンバージェンス研究」の原理とイノベーション・プロセスを活用し、革新的なアイデアの共有と持続可能な解決策の開発を促進してきた。

「このプロジェクトにはいくつかの意欲的な目標がありますが、私たちが主に重点をおいているのは、すべての人が食料を手に入れられるようにするために、ナリッシュネットを全国規模で展開することです。さらに、より持続可能で責任ある食料システムを構築するために、まだ食べられるのに食べられていない食品を減らすことです」

食品廃棄は世界的によく知られている問題だ。飢餓の救済に取り組む米国最大規模の組織フィーディング・アメリカは、米国だけでも食品の38%が売られることなく、食べられることもないままになっており、毎年1490億食が埋立地に捨てられていると推定する。また、米国農務省は年間のフードロスの31%が小売りや消費者から排出されていると見積もっている。

すでにフラッシュグッド(Flashfood)トゥー・グッド・トゥ・ゴー(Too Good to Go)などの多くのプラットフォームが、流通システムにおいて販売不可能と見なされながらも、まだ十分に食べられる食品を何トンも低価格で消費者に提供することを可能にしているが、その成功の度合いはさまざまだ。総合的な方法でこの問題に取り組むために、拡張可能な解決策が必要とされている。

ナリッシュネットの研究チームは「コンバージェンス・アクセラレータ・プログラム」のフェーズ2で、ツールボックスの直売や流通、完全な金融マーケティングとビジネス開発、食料配給所や国立大学での消費者教育の拡大など、いくつかの重要な目標を達成することを目指している。

最初に取り組むのは、同大学の電気・コンピューター工学の助教授で量子技術センターのチェン・ゴン氏が開発した、日持ちのしない食品の腐敗率を検知する電気センサー「クオンタム・ノーズ(量子の鼻)」だ。

Image credit: Stephanie Lansing (NourishNet - A Food Recovery Toolbox)

ゴン氏は「センサーは量子物質に基づいて作られており、腐敗した食物から放出されるガス粒子など、ほんのわずかな量の影響因子に非常に敏感に反応する。こうした情報により、食品の寿命や鮮度を評価できる」と説明する。

次の段階では、フードループスのアプリとプラットフォームを構築し、消費者を巻き込み、余剰食料を回収・再分配し、温室効果ガスの排出量のデータを政府や公共機関に提供することに取り組んでいく。例えば、食料エコシステム内の小規模農家を、非営利組織やその顧客とつなぐこともできる。また、食料を必要としている人々が、必要な農産物を探せる食料配給所を地図で見つけることも可能だ。もしその食料配給所に果物や野菜がなければ、それらを欲しいものリストに加え、食料配給所に知らせることもできる。

同大学先端コンピューター研究所で情報学の准教授であるヴァネッサ・フリアス・マルティネス博士は、「こうしたプロジェクトに取り組むことは意義のあることだ。なぜなら、食料不足のコミュニティに直接的な影響をもたらすことができ、意思決定者が食料へのアクセスや流通、回収に関する複雑性を理解する手助けにもなるからだ」と言う。彼女は、アプリを開発・テストするために食料を回収するソフトウェア企業「チャウマッチ(Chowmatch)」とも連携する。

食品が流通できず食べられない状態の場合には、堆肥化や嫌気性消化システムによって肥料や再生可能エネルギーに変えるという。アプリの利用者は操作の最後に、回収可能な食料を寄付するか、堆肥化もしくは消化させるかを決めることで、温室効果ガスをどれだけ大気中から減らせたかを確認できる。

3カ年事業で最初に注力するのは、メリーランド州プリンスジョージ郡で暮らす英語とスペイン語を話す、食料が満足に手に入らない人たちへの支援だ。ナリッシュネットの初めてのパートナーであるプリンスジョージ郡・食の公平性に取り組む協議会の協力で進めていく。ほかにも新しいパートナーを迎える予定だ。

今回のプロジェクトの責任者であるNSFのダグラス・モーガン氏は、「大学の研究者や企業、政府、非営利組織、ほかのコミュニティによる共同の取り組みは、食料生産や農家と消費者、研究者、そのほかのステークホルダーとの関係を最適化するためにも重要だ。フェーズ2に進んだチームには、食料不足や灌漑(かんがい)の問題、サプライチェーンの不平等・非効率などに取り組むために、革新的かつ具体的な解決策と強力なパートナーシップを構築することが期待されている」と話す。