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【アーヤ藍 コラム】第7回 4月22日はアースデー:地上と海中から「地球の声」を聴く実践者たちに学びたい

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SB-J コラムニスト・アーヤ 藍

社会課題への関心をより深く長く“サステナブル”なものにする鍵は「自ら出会い、心が動くこと」。そんな「出会える機会」や「心のひだに触れるもの」になるような映画や書籍等を紹介する本コラム。

4月22日はアースデー。地球や自然環境について考える日です。

ですが、「地球」や「自然環境」と聞いた時にその存在を体感でイメージできるでしょうか? 気候変動や海洋汚染など、問題の情報は見聞きしていて、いろいろ問題があることを知ってはいても、それに対する危機感や切迫感を本当の意味では抱きにくい、という人も少なくないのではないかと思います。

5年ほど前の私も葛藤を覚えていました。環境問題に関わる映画の上映イベントなどを通じて「こんな問題が起きているんですよ」「対策を取らないと大変なことに……」などと発信しているものの、インプットした情報を頭の中で整理して語るだけではどこか薄っぺらく思えてしまう。心の底から理解できているのかと言われたら自信がない、もどかしさがありました。

そんな私にヒントをくれたのが、国際環境NGOの350.org Japanによるショートフィルム『Signs from Nature 気候変動と日本』の制作に携わった時の経験です。気候変動の影響について、専門家ではなく、日常の暮らしの中で感じているような方々に、全国5地域をめぐりながら話を聞き撮影しました。

「日の出はね、毎日違うんですよ」

取材したお一人、北海道の昆布漁師さんがふっと口にした言葉です。朝早くから海に出て仕事をする漁師さんは、毎日のように日の出を目にします。でもその光景は毎日全然違うから、何千回と見ていてもまったく飽きないのだと、幸せそうに語ってくれました。

北海道の日の出(筆者撮影)

その漁師さんだけではありません。その時に取材させてもらった方は皆さん、自然環境に近い暮らしをしていて、身近な自然をよく観察している。だからこそ、自然のささやかな変化でも自分の五感で気づけるのです。そして五感で変化に気づけるからこそ、体感に基づく問題意識も持っていらっしゃいました。

観察し続けることで養われる力はすごい。そう感じるようになった頃に出会った映画が『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』です。ある夫妻がロサンゼルス郊外に東京ドーム約17個分もの広大な土地を買い、自然と共生する理想の農場をつくりあげていく、8年間を記録したドキュメンタリー映画です。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』© 2018 FarmLore Films, LLC

植物、野生動物、家畜、あらゆる生き物たちがつながり合い、手を取り合い、自然の調和によって成り立つ農場。言葉で書くと美しいですが、そのプロセスは決して容易ではありません。育てた果樹が鳥と虫によってほとんど食べられてしまったり、野生のコヨーテに家畜が襲われてしまったり、大干ばつによって溜め池の魚が死んでしまったり……。

次々に起こるハプニングに対して夫妻が選んだ対策は「立ち止まってよく観察する」こと。たとえば、ハエの幼虫であるウジ虫がたくさん発生して困った時、なぜウジ虫が増えたのかを観察してみると、牛が増えたことによって糞(ふん)が増え、その糞がウジ虫の住処になっていたからでした。では牛を減らす? 殺虫剤を使う? いいえ、彼らはニワトリを連れてきました。ニワトリはウジ虫が好物だから、彼らに食べてもらうことにしたのです。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』の農場 © 2018 FarmLore Films, LLC

生き物たちがどのようにつながり合っているかを、観察によって見つけることができれば、農薬や殺虫剤などの人工的な介入をせずとも、自然の力でバランスが取れる。夫妻はそのことをどんどん学んでいきます。「自然は、完璧だ」。そんな境地に至るまでの8年間の歩みを、ぜひ映画を通じて体験してみてください。ちなみに同作の監督でもある夫は、野生生物の番組制作経験をもつカメラマン。すべての生き物たちが愛おしく見えてくる美しい映像も見どころの一つです。

『Signs from Nature』と『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』、2つの作品を通じて「私も観察力に基づく言葉を紡げる人になりたい!」という気持ちが高まり、その後、地方へ移住することになったのですが、地方に移住しなければ観察力を磨けないというわけではありません。書籍『カワセミ都市トーキョー 「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか』(柳瀬博一著/平凡社新書)は、見落とされがちな都会に息づく生態系をじっくりと観察して書かれた一冊です。この本を読むと、都会に住んでいる方も、身の回りに実は存在している生き物たちの姿や声に気づけるようになるかもしれません。

さて、私たちが暮らしを営む地上の世界はまだ観察がしやすいですが、海の中はどうでしょう? 限界がないようにも思えるほど広大な海。それがゆえに海を「ごみ箱」のようにしてきてしまった面もありますよね。近年では人間の行動が招いた海の危機にも、注目が集まるようになってきました。

”見えにくい”海の中を観察し続け、感じる変化や危機感を発信し続けてきた人物の一人が、海洋学者であり深海探検のパイオニアであるシルビア・アール博士です。現在88歳ですが、年間約300日は世界中を飛び回り、海からの声を届け続けています。彼女の歩みとメッセージを、彼女と交友関係がある人たちへのインタビューも交えながらまとめたのが、ドキュメンタリー映画『ミッション・ブルー』です。

Netflix映画『ミッション・ブルー』独占配信中

小さい頃から自然に囲まれて育ったアール博士ですが、12歳の時に引っ越したフロリダで、新たな”裏庭”になった海に恋をしたと言います。当時男性ばかりだった海洋学の世界に飛び込み、米国政府の研究プロジェクトで2週間、水中の実験室で過ごしたり、1979年には命綱をつけないダイビングとしての世界記録、381メートルの潜水を達成したりと、どんどん広く深く、海を探求していきます。

長年に渡って海を見つめ続けるからこそ、サンゴの減少をはじめ、海の生態系の変化にも気づき、海を守るための行動を起こすよう世界に向けて声をあげ続けます。ただ、たとえ海の中の生き物が死滅していっても、地上から見える海の様子が大きく変わるわけではありません。それ故に彼女の意見を「過激」だとする人も現れますが、「過激に感じるのは現実をご存知ないからです。私が長年見てきたものを自分の目で確認すれば、過激とは思わないでしょう」と反論します。

そして、彼女は潜水艦の設計にも携わります。
「誰でも簡単に潜れるようにしたい。海はたった5%しか探索されていない」
そうなのです。宇宙にも行けるほどの技術を開発した人類ですが、実は海のことをごくごく一部しか、まだ知ることができていないのです。

Netflix映画『ミッション・ブルー』独占配信中

アール博士のことを「海のジャンヌダルク」と呼ぶ、同じく海洋を探検してきたジェームズ・キャメロン監督も、本作の中でこう語ります。

「(深海に行くと)何十億年も変わらない光景に気づかされる。自分に見えるのは一部だけで、未知の世界のほうが広大だと。するとエゴが消えていき、謙虚な気持ちになるんだ」

私たちが何千年とかけても探求しきれないほど広く奥深い世界が、海に、そしてこの地球上に広がっているのだということ。それほど壮大な世界の中で生きる生き物の一種なのだということ。そうした事実を認識し、地球に対して謙虚さと敬意をもって向き合うことも、アースデーに地球のことを考える大切な第一歩になるはずです。映画をきっかけに、ぜひご自身の「体感」を養う機会も持っていただければと願います。

▼映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』 (2018年製作/91分/アメリカ)

映画『ミッション・ブルー』 (2014年製作/94分/アメリカ)
※日本語字幕はありません

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アーヤ 藍
アーヤ 藍(あーや・あい)

1990年生。慶応義塾大学総合政策学部卒業。在学中、農業、討論型世論調査、アラブイスラーム圏の地域研究など、計5つのゼミに所属しながら学ぶ。在学中に訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になったことをきっかけに、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を手がけるユナイテッドピープル会社に入社。約3年間、環境問題や人権問題など、社会的イシューをテーマとした映画の配給・宣伝に携わる。同社取締役副社長も務める。2018年より独立し、社会問題に関わる映画イベントの企画運営や記事執筆等で活動中。2020年より大丸有SDGs映画祭アンバサダーも務める。

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