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英スタートアップ、カカオを使わないチョコレートを開発 児童労働やCO2排出量の課題解決に挑む

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Tom Idle
CTOのジョニー・ドレイン氏、CEOのアラム・パク氏 (IMAGE: WNWN FOOD LABS)

英スタートアップ「WNWN(ウィンウィン・フードラボ)」は、児童労働や環境破壊などが指摘されるカカオを使わない新たなチョコレートを開発した。この代替チョコレートの登場は、チョコレート産業が持続的にチョコレートを供給することを可能にするかもしれない。(翻訳=井上美羽)

深刻な森林破壊が進むガーナとコートジボワール

チョコレートの生産にともなう社会・環境問題は十分に立証されてきた。熱帯雨林の保全や気候変動などの環境課題に取り組む団体「マイティーアース」のレポートによると、世界中で食べられているチョコレートの約75%は、ガーナとコートジボワールで栽培されたカカオの木から作られている。

ガーナとコートジボワールは「数十年にわたって世界で最も森林破壊が進行している国」だ。コートジボワールでは森林面積の90%が失われたといわれるが、その3分の1はカカオの栽培によって起きている。農家がカカオの木を植えるために熱帯雨林を伐採したことで起きたことなのだ。

西アフリカの農家では、森林破壊に加え、児童労働が一般的になっている。家族経営の農園では、子どもたちが危険な道具や有害な農薬を使って作業している。

今年初め、あるドキュメンタリー番組でガーナの10歳くらいの子どもたちがカカオを収穫し、そのカカオが世界最大のチョコレート会社の一社、米モンデリーズ・インターナショナルに供給されていることが明かされた。最近の調査では、ガーナとコートジボワールのカカオ生産地の農家の子どものうち45%が児童労働に従事していることが明らかになっている。

問題は、われわれ人類がカカオを愛してやまないことだ。2000年前に北米からの入植者がカカオ豆の栽培を始めて以来、人類はずっとカカオを食べ続けてきた。米国ではバレンタインデーの週に2万6000トンものチョコレートが消費される。しかし、チョコレートが好きであればあるほど、環境への負荷や社会にもたらす影響も大きくなる。

しかし、もしカカオの木を一本も育てることなく、チョコレートへの欲求を満たせる方法があるとしたらどうだろうか。ますます脆弱化するサプライチェーンや生態系、地域社会を破壊することなく、チョコレートを生産できるとしたらどうだろうか。

実は、それが実現された。

英国発のウィンウィン・フードラボ(以下、WNWN)は、カカオを使わない「カカオフリーのチョコレート」を製造する新たな食品スタートアップだ。

既存のチョコレートのように溶け、焼くこともできる代替チョコレート

共同創業者でCTOのジョニー・ドレイン氏は、「チョコレートのような味がし、チョコレートのように溶け、チョコレートのように折れ、チョコレートのように焼くこともできます。しかし、私たちの商品はカカオを全く使っていません」とロンドンのキッチン兼研究室からインタビューに応えてくれた。

「カカオ豆を発酵させローストする方法は、何百年も何千年もかけて改良され、私たちがチョコレートと呼べるほどのおいしいチョコレートが完成しました。しかし、化学的観点から自問しました。『何か違うものを使って、同じ味に行き着くことができないのか』と」

材料科学の博士号を取得し、料理人としてのキャリアも持つドレイン氏は「料理人向けに何かを発酵させ、研究開発を行い、新製品を開発することはできないか」と自問し続けてきた。

WNWNの最初の製品開発の出発点として、ドレイン氏は英国産の大麦とイタリア産のキャロブに着目した。後者はキャロブの木のさやから採れ、カカオと同様にポリフェノールの抗酸化物質が豊富に含まれている豆だ。

「この2つの欧州産食材を発酵させ加工することで、チョコレートに含まれる風味成分を作り出すというファンキーでとっても科学的な方法を考え出したのです」

カカオフリーのチョコレートは、発酵過程で自然に生成される糖質が含まれているだけで、砂糖と乳製品は一切加えていない。乳製品を加えることでヴィーガン非対応の商品を作ることもできるという。WNWN によると、同社のチョコレートは従来のチョコレートよりもCO2排出量が85%少ない。

ウィンウィン・フードラボは、CEO兼共同創業者で元投資銀行員だったアラム・パク氏が共通の知人を通してドレイン氏を知り、彼のインスタグラムにDMを送ったことがきっかけで誕生した。ポルトガルに拠点を置くパク氏は、食に関連するビジネスをしたいという野心を持っており、投資の世界という魔の手から逃れられて良かったと語る。「産業や人々の考え方を変えるポテンシャルを持つ会社で働きたいとずっと思っていたんです」。

コロナ禍をきっかけに、彼女はドレイン氏と共にまさにその野望を実現しようとしている。

ドレイン氏によると、2人はまず食品廃棄物と発酵に関連するビジネスを考えたという。

「彼女を信頼し、素晴らしいチームになれると実感していました。私が以前から考えていた『カカオを使わないチョコレートを開発する』というアイデアを出したところ、お互いに盛り上がり、一瞬にして他のアイデアは捨てました」

では、WNWNは現在どのようなことに取り組んでいるのだろうか。似たようなことをしている企業はいくつもあるが、カカオを使わないチョコレート製品を市場に投入したのは同社が初めて。2022年5月に新商品を発売したところ1日で完売し、購入者からは「本物のチョコレートじゃないなんて信じられない」という声もあった。

ドレイン氏は「最終的には、ミルクチョコレートやその他の新しいフレーバーなどさまざまなチョコレートを作りたいです。そして、発酵やわれわれが取り組んでいる過程を記録に残し、常に味をコントロールできるよう現在開発中です」と興奮気味に語った。

同氏は、大手チョコレート企業の現在の成長戦略やすでに店頭に並べられている商品の購買習慣を変えることが容易いことではなく、自分たちの事業に限界があることも認識している。

「巨大市場の1パーセントをつかんだとしても、カカオ農園の日々の働きに影響を与えることはできないでしょう」と彼は言う。それでも、WNWNは一般の人々の意識を高め、この業界の裏側で何が起こっているのかに光を当てたいと考えている。

「私たちが開発した代替チョコレートは、チョコレート産業が持続可能な方法でチョコレートを供給し続けるための手段です。60年間続けてきた、西アフリカの農家の重労働から年間数十億ドルを稼ぐことに固執する必要はありません」

パク氏は「われわれは大手チョコレート会社を非難しているわけではありません。ふさわしい敬意をチョコレートに払ってほしいだけなのです」と続けて話した。