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COP26の森林破壊停止宣言はゲームチェンジャーになるか

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Nicole Rycroft (Founder and Executive Director, Canopy)
richcarey

英グラスゴーで開催中のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では相次いで環境目標や誓約が発表されている。その中でも注目を集めているのが「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」だ。世界の森林の86%を占める100カ国以上の政府が2030年までに森林破壊をなくすという目標に合意した。日本も含まれている。森林の保全と回復に、官民でまず192億ドル(約2兆1700万円)を投じる計画だ。世界的に森林破壊や気候変動の危機に直面する中、この宣言は単なる話題づくりで終わることなくゲームチェンジャーになるだろうか。(翻訳=サステナブル・ブランド ジャパン)

森林保全は気候変動対策の3割を占める。自然を基盤とした解決策(NbS、Nature-based solutions)はこれまで気候変動対策の中でも優先順位が低かったが、今回のCOPを皮切りにようやく重要度の高い気候変動対策へと躍り出てきた。「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」はさまざまな観点から注目すべきものだ。

宣言は、森林保全を気候変動の取り組みの中心に据えた。各国のリーダーのプレゼンテーションが行われていたCOP開幕2日目に発表が行われたことで、宣言はより重みが増した。

宣言には、世界最大の原生林を有する国だけでなく世界最大の市場を有する国も参加し、それぞれが別の役割を果たす。

今回の発表で対象となったのは世界の森林面積の86%の国と地域。この中にはオーストラリア、ブラジル、カナダ、インドネシア、ロシアといった森林破壊と森林劣化が進む国々が含まれている。これらすべての国が参加しているのは非常に大きな功績と言える。

自然を保全する経済(conservation-based economies)への移行とその計画に加わる国や自治体、先住民族政府を支援するために192億米ドルが投じられることは期待が持てる。

宣言は、先住民族のコミュニティが森林の保全・管理に果たす役割、森林破壊や持続不可能な木材伐採を防ぎ、さらにレジリエントな(回復力のある)保全を進める上でより中心的な立場として参加してもらう重要性を認識した内容となっている。

過去のイニシアティブの失敗をどう生かすか

しかし、2030年はまだ先のことだ。「まず大きな目標を掲げ、取り組みはこれから始める」という発表に疑いを持つのは自然なことだろう。結局、原生木が倒れるのは一瞬の出来事で、2021年現在から2030年までにそうした瞬間は幾度となく訪れる。今回の宣言のような森林破壊の防止を謳いながらも結局は成功しなかった、2014年の「森林に関するニューヨーク宣言」などのイニシアティブに失望を繰り返し、今回も期待できないと考える人もいるかもしれない。さらに、先住民族や熱帯地域の政府の支援として192億円の拠出が発表されたことは実に素晴らしいことだが、2015年に「パリ協定」が採択されたCOP21以降、熱帯雨林の破壊につながる農業関連産業に投じられた資金は約1570億ドル(約17兆8000万円)にも上る。

しかし、これまでの失敗した取り組みは今回の宣言の重要な教訓にもなる。「森林に関するニューヨーク宣言」から学べることは、グラスゴー宣言のアクションプラン(行動計画)で以下を実行することだ。

1.森林破壊だけでなく原生林の劣化を止める。カナダなどの国々は森林破壊を狭義に定義し、豊富に炭素を吸収・固定する原生林を伐採し続ける持続不可能な林業の改革に取り組むことを避けている。森林の劣化は二酸化炭素の排出量の観点からも重要な課題だ。熱帯地域の国々と温帯林や北方林を有する国々の置かれている前提条件を公平にすることも必要だ。

2. 森林の消費国と生産国の両方が、2024年、2026年、2028年の野心的で拘束力のある中間目標を設定する。かつてソ連のスターリンが5カ年計画を掲げたのには理由がある。それ以上長くなると目標達成への緊急性が失われるからだ。2030年までは長すぎる。今後3-5年の間で、森林伐採によって生じる気候変動現象を大幅に軽減する必要がある。明確な目標と短いタイムラインがなければ、2029年になって、十分な取り組みをしていなかった、目標を達成するまでまだかなり時間が必要だと実感するだろう。

3. 森林破壊や森林劣化につながる生産や調達、投融資を違法にする強力で拘束力のある国内法を制定する。さらに国内法を貿易協定や国の開発計画に統合することは、国の経済目標とそれに必要な変化を制度化する重要なきっかけになる。

4. 以下に掲げる移行に向けた官民の拠出をさらに増やすことを優先する。

・先住民のコミュニティが固有の領土における統治や自然保護を基盤とする経済の発展に積極的に参加することを支援する。

・大規模な原生林を有する国や地域政府が安定した自然保全経済を構築することを支援する。

5. パルプや紙、包装材、繊維、農産業に依存したこれまでのサプライチェーンから低炭素で次世代型ソリューションへの移行を加速させる投資や税制上の優遇措置、規制条件の整備を優先する。パルプや革製品の製造には農業残渣や廃棄繊維、食品廃棄物などの低炭素原料を使い、循環型経済(サーキュラーエコノミー)に基づく生産モデルを体系化することで経済発展と同時に森林保全を行う。

原生林を劣化させ破壊し続けることは、石炭やその他の化石燃料を採掘し続けていることと同じことで、気候災害につながる。だからこそ、今回の宣言の交渉に関わった人たちにブラボーと賛辞を贈りたい。過去18カ月は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、一夜にしてこれまで想像もしなかった変化が起こり、その変化と復興のために信じられないほどの資源・財源を導入してきた。団結した行動は希望を生むだけでなく、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるカギとなる。今回発表された非常に高い目標を実現するために動き始めよう。