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人に優しい、新時代のサステナブルな都市設計とは

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JOANNA HAUGEN
パリは気候変動対策と緑化を進め、2030年までに欧州で最も緑豊かな都市になることを目指している (Image credit: PCA-STREAM)

人口が都市に集中する都市化が進む中、世界では新たな時代に向けた持続可能な都市づくりが行われている。都市の設計は環境整備に留まらず、そこに暮らす人々の生活の質や健康、コミュニティの形成、社会・経済動向にも大きく影響する。安全で自然があり資源を有効利用する、そんな都市がいま求められている。(翻訳=梅原洋陽)

変わりゆく都市

バルセロナ市街(Image credit: Kaspars Upmanis)

この数年間でコンクリートジャングルのような都市景観は減ってきている。バルセロナは2016年に「スーパーブロック」プログラムを導入し、街の中の9つのブロックからなる区画に、樹木で囲まれた大規模な歩行者専用のスペースを設けている。その区画には自動車は侵入できないようになっており、汚染や騒音のない場所をつくり、住民が交流や活動のできるスペースづくりに取り組む。

バルセロナでは緑化を進めると同時に、公共空間を充実させることで、人の交流や地域経済の発展を図る (Ajuntament de Barcelona)

ロンドンは世界初の国立公園都市を目指し、コンクリートのトンネルをなくし原生植物を植える取り組みを進める。

新型コロナウイルスはこうした都市景観の変化をさらに加速させている。例えば、シアトルでは歩行者がより広くソーシャルディスタンスを保てるように道路が閉鎖され、その多くは今後も閉鎖されたままになるという。アムステルダムやその他の都市でも、地球と人を最優先した経済モデルを実行するなどして、都市生態系全体が見直され始めている。

こうした変化は都市の歩行者の通行を便利にし、より多くの憩いの場をつくることにつながっている。そして騒音がひどく疲れやすいような場所を、より歓迎され、親しみがわき、持続可能な場所にしている。これは住民にとっても喜ばしいことだが、人に優しい都市設計へのシフトは単に「あったらいい」というものではなく、必要不可欠なものだ。

SPACE10とドイツの出版社ゲシュタルテンが発売した書籍『The Ideal City』(仮訳:理想的な都市)によると、世界では毎週150万人が都市部に引っ越しているという。SPACE10はイケアが支援するリサーチ・デザインラボで、人と地球にとってより良い日常を実現することをミッションに掲げ、コペンハーゲンとデリーに拠点を置く。

2007年以降、世界人口の半数以上が都市に住んでおり、2030年までにその割合は60%まで上昇すると見込まれている。都市は地表のわずか3%の面積しか占めていないが、二酸化炭素の70%以上がここから排出されている。都市は気候変動問題の中心であると同時にその解決策の要でもある。

緑が多く、健全かつ持続可能でインクルーシブで、安全な都市に移行することは、単に環境に良いだけではない。こうした空間は人々の生活の質を向上させ、コミュニティを育み、連携を促し、レジリエンスや経済的生産性も高める。

『The Ideal City』の著者は、調査を通して解明した、すべての都市を発展へと導く5つの原則を紹介している。それは、資源が豊かで、アクセスが良く、シェアをし、安全で、魅力的であるということだ。本にはこう書かれている。

「私たちは、全ての人が共通する本質的欲求を持っていることを念頭に置き、多様性とイノベーションをもたらす、人と地球の両方に配慮したアプローチを紹介しています。人は、本質的にコミュニティ、安全性、インクルージョン、驚き(発見)を求めています」

5つの原則は以下の通り。

資源の豊かな都市(資源を有効に活用する都市)

スホーンスヒップ(開発を手掛けたデザインスタジオSpace&Matter HP)

アムステルダムの水上コミュニティ「スホーンスヒップ(Schoonschip)」は、26の住居が繋がって構成されている。住民は水やエネルギー、廃棄物のソリューションを共有し、それらすべてがオフグリッドで分散化されている。コミュニティには、電気自動車のシェアリングシステムや食べ物を栽培できるガーデンルーフがある。住民は共同でこの場所に責任を持ち、資源を大事にし、レジリエンスのある密着した地域をつくり出している。

資源を無駄なく利用する都市は、環境的にも経済的にも持続可能だ。そして、水、栄養、原料、エネルギーが完全に循環する循環型モデルを軸にすることで、スホーンスヒップのように自給自足できるようになる。資源を無駄なく運用する建築は、原料の利用も綿密に考慮され、無駄になるものがない。変化するニーズに応えるべく、自然由来の原料やモジュール方式の設計について考える、未来志向のデザイナーもますます増えている。スホーンスヒップをはじめその他の世界中の多くのコミュニティにおいて、気候危機や海面上昇への適応は最重要課題だ。

アクセスの良い都市

カラカス・メトロケーブル (Image credit: The Gondola Project)

カラカス・メトロケーブルが建設されるまで、ベネズエラの首都カラカスの丘の頂上にある地区に住む人々は、診療所や学校、仕事にたどり着くまで何時間も歩かなければならなかった。全長2kmのロープウェイ、メトロケーブルは都市の公共交通機関に組み込まれ、これによって地域の人たちは、かつては閉ざされていた施設に行くことやさまざまな機会を迅速かつ安全、手軽に利用できるようになった。

『The Ideal City』の著者は「建造環境のデザイン方法やアクセスのしやすさは、公衆衛生や経済的流動性、生活の質に大きな影響をもたらす」と記している。アクセスの良い都市は多様性、包摂性、公平性を念頭につくられる。メトロケーブルなどに代表されるアクセスの良さにより、誰もが都市の公共サービスや施設を公平公正に利用できる機会が保証される。そして、それによってコミュニティ内の関わり合いや、コミュニティの力を高められる。

シェアする都市

人々のニーズを満たすためにはさまざまな公共交通機関が必要だが、時には車も必要となる。そこで1999年に登場したのがカーシェアリング最大手ジップカー(Zipcar)だ。その後も、数えきれないほどのシェアリングサービスが発展し、今では世界中の人が家や技術、リソースを共有している。

都市設計というと往々にして建造物やインフラが注目されがちだが、活気に満ちた都市は住民によってつくり出される。人は日々の暮らしを一人ひとり個別におくることができる。しかし共創や連携することが地域コミュニティに根ざした都市の基盤をつくり出す。有形のものや無形の資源を共有することで、一体感や参加意識を育むことができる。さらに廃棄物が減り、信頼感や共感が生まれ、幸福感が増し、犯罪も減っていくのだ。

安全な都市

カナダ北部に暮らす先住民族クワリン・ダン(Kwanlin Dün)にとっての安全は、コミュニティに属する人々が非武装であるということだ。治安維持に関しては、保安官が近隣のパトロールをし、地元住民とコミュニケーションをとって支援の必要な人を援助する。保安官は犯罪の防止と、緊急の安全性への懸念事項に対応する役割を担っている。保安官は自身がその地域に暮らす住民でもあるので、近隣住民から信頼され、王立カナダ騎馬警察よりも問題となりそうな状況への対応力が高い。

安全な都市をつくるというのは、犯罪を減らすだけではない。安全な都市をつくるには、最初の段階で問題の根本を探り、抑止することが必要だ。それを考慮すると、理想的な都市ではすべての人に尊厳が与えられることが必要になる。つまり、弱い立場の住民が社会的に疎外されたり、ホームレスになったりしないようにする必要があるということだ。そして、身体的・精神的幸福を育むリソースや施設へのアクセスを提供し、気候変動に強いレジリエンスのある都市環境をつくり出す必要性もある。

魅力のある都市

理想的な都市だとしても、そこに住みたいと思えなければ意味がないだろう。魅力あふれる都市とはヒューマンスケールで設計され、個人が必要とする新鮮な食べ物、教育、仕事、医療などが徒歩15分圏内で手に入る都市である。車よりも人間の方が優先されるべきであり、余ったスペースは人間のためにとっておくべきだ。娯楽のための市の公共スペースはパンデミックの前から世界中でつくられており、コロナウイルスによってその建設が加速した。

しかしそれだけでなく、理想的な都市は、楽しく、活気があり、文化、芸術、アクティビティにあふれ、人々を公共空間に招き入れ、交流や探求、リラックスすることを促す場所であるべきだ。雇用率の高さや犯罪率の低さは重要だが、理想的な都市には適切な空気感も必要ということだ。『The Ideal City』の著者は次のように述べている。「私たちは、人が生きるための機械のような都市ではなくそれ以上のものを求めています。理想的な都市には、私たちに語りかけてくるような個性があります。たとえその理由が分からなくても、いるだけで心地良くなるのです」。