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米小売業で広がる「永遠に残る化学物質」PFASの使用取りやめ

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MIKE SCHADE & MIKE BELLIVEAU

いま米国の小売業界では、「永遠に残る化学物質(フォーエバー・ケミカル)」として知られるPFAS(フッ素化合物の総称)の使用をやめる取り組みが広がっている。水や熱に強く、汚れにくい性質を持つPFASは、スーパーマーケットなどで販売されるさまざまな食品のパッケージに使われている。PFASは自然界で分解されにくく長期的に残ることから「永遠に残る化学物質」と呼ばれ、がんや甲状腺疾患などの健康被害との関連性が研究によって報告されている。(翻訳=梅原洋陽)

米高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」は2018年12月11日、衝撃的な発表を行った。食品やパンの包装に使われている包装材で、検査の結果、長期的に有害な化学物質が含まれる可能性があると判明したすべての包装材を約500店舗から排除するという内容だった。同社は「私たちは常に、サプライヤーと共に包装材を堆肥化できる方法を探している」と発表した。

同社のこうした先進的な行動の背景には、環境医学団体が発表した調査報告書の存在がある。同調査は米国の主要な食料品スーパー5社を調べ、持ち帰りの容器やパンや惣菜などの包装材、使い捨てプレートに高濃度のフッ素、PFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)が含まれている可能性が高いと伝えた。

PFASとは

PFASという化学物質は、非粘着性、撥油性、撥水性が高く、汚れにくい特徴がある。フッ化炭素の結合は有機化学の中では最も強く、多くのPFASは自然の環境では簡単に分離しない。「永遠に残る化学物質」と呼ばれ、何千年も分解されずに残り続ける可能性が高い。また、この物質は流動生が高く、製造過程や使用中、そして廃棄する時に製品から漏れ出し、空気や飲み水、食品を通って遠くまで運ばれてしまう。

実質的には、地球上の全ての人間はPFASに何かしらの形で接触しているだろう。そして特定のPFASは人間や野生動物の体内に高いレベルで蓄積しているだろう。PFASは種類によっては少量でも大変有害で、研究によると人間や動物の免疫系の障害、睾丸がん, 腎臓がん、甲状腺疾患などのさまざまな深刻な健康被害と関連しているとされる。しかし、市場で使われる前にテストされているPFASはあまりに少ない。

「残念な代替」の典型的な事例で、規制当局はPFASにとって替わるものは異なるPFASであるとしており、人体への影響や環境汚染が懸念されている。

しかし、消費者の懸念に応じるように、先進的な取り組みを見せるマーケットリーダーは最低限の連邦水準を遥かに上回る、PFASを制限しているワシントン州やメイン州をも抜き去る取り組みをしている。以前、米国版サステナブル・ブランドで製品や包装材により安全な化学物質を使う小売業者の取り組みをベンチマークする重要性について報じたように、小売業者はこうして市場を先導する役割を果たしている。

段階的に「永遠に残る化学物質」を廃止

昨年は、多くの小売業者がPFASを製品や包装に使用するのをやめる大きな決断を下した。ホール・フーズの発表を受けて、PFASの使用を取りやめる新たな動きが出てきていると小売業者の化学薬品の使用を評価するレポート『Who’s Minding the Store?』が報告している。

包装材
米国内で4番目に大きいStop & ShopやGiant Foods、Food Lionなどのスーパーマーケットチェーンを傘下に収めるアホールド・デレーズは、PFASなどの化学物質を段階的に包装から排除する方針を初めて導入した。全米第2位の小売業アルバートソンズは、総菜やパン、ケーキなどのプレートに使われているPFASの使用を減らし始めた。ベーカリーチェーンの米パネラ・ブレッドではPFASの使用を完全に取りやめることを目指し、2020年にはパンの袋にPFASを使うことやめるようだ。Trader Joe’sはサプライヤーにPFASの使用をやめるよう求めている。

カーペットやラグ
ホームセンターのザ・ホーム・デポはPFASが使用されている米国・カナダで売られているカーペットやラグの仕入れを2019年中にやめると同年9月に発表した。大手ホームセンターのLowe'sも同様の取り組みを行うと発表している。

家具や繊維製品
IKEAはこの業界をけん引する企業だ。3年前に全ての家具からPFASの使用をやめた。2019年、オフィス用品を扱う米ステープルズは化学物質について初めて基準を定め、家具や繊維製品、そして使い捨ての食器からPFASの使用を段階的にやめることを決めた。

その他
大手のアパレル業者は、無害で、耐久性のあるPFAS不使用の雨具の販売を開始した。また、高機能のスキー用ワックスにPFASを使わないよう求める声も高まっている。

こうした取り組みはどうのように進んでいるのだろうか。多くのブランドは、自然界でほとんど分解されることのない「永遠に残る化学物質」の使用はビジネスにおいてもはや許されないと考え、新たなバリュー・ポジションを形成するようになってきている。安全性がデータで示されるまで、永遠に残る化学物質に罪はないと考えることはないだろう。データが出る頃には、恐らく環境は汚染されきっているだろう。

実際のところ、PFASの使用が不可欠でなくても使われ、簡単に取りやめることができる事例もある。さらに、PFASの特製である、耐油性・耐水性などの機能はより安全な物質で置き換えることも難しくない。まだ代替製品がなかったとして、市場の需要に応えるためにより安全な物質がイノベーションによって生み出されるだろう。

ランキングが小売店の取り組みを加速させる

有害な化学物質を使用する小売店をランク付けするレポート『Who’s Minding the Store?』は、包括的なより安全な化学物質に関する基準を評価し、発展させるツールとして有効だ。昨年だけで、主要小売チェーン43社のうち3分の2が改善を報告しており、7社は劇的な変化を遂げたと報告されている。

これらの企業は、北米の19万カ所以上の店舗そしてオンラインを通して、包装された製品を販売している。この規模での取り組みは世界中のサプライチェーンに影響を与えることになり、マーケットにもたらす影響力は大きい。

ベンチマーキングを行う以上に、このレポートは大企業が競うきっかけにもなっている。2019年11月のレポートに向けて、米1ドルショップ「ダラー・ゼネラル」や化粧品専門店セフォラ、そして ステープルズなどの小売業者は化学物質に関する新たな方針や、大幅に改善させたものを発表した。

こういった取り組みはいまもなお続いている。ファーストフード「タコベル」は2020年1月9日、消費者が手にする食品の包装からPFASやその他の懸念される物質を取り除くことを発表した。これによって、親会社の米ヤム・ブランズが2018年、2019年に与えられたFランクの評価は改善されるだろう。同社が展開する他のブランド、ピザハットやケンタッキーフライドチキンでも同じような取り組みが期待される。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」とヴォルテールは言った。その言葉を借りると、「大きな市場の力には大きな責任が伴う」と言える。いま小売業界のビジネスリーダーは、「永遠に残る化学物質」の使用をやめようと製品や包装をより安全なものに変え始めている。