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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

カンヌライオンズ SDGs部門の審査員として考えたこと:見せかけではなく、真の社会変革を

Thomas Kolster

変化を起こすことで、善意は世界に広がっていく――。SDGsが世界的に広がり始め、世界的な広告祭「カンヌライオンズ」でも、課題解決のために現実的に取り組む作品に光が当てられた。

今年のカンヌライオンズでは、社会・環境問題に取り組むキャンペーンが多くの賞を受賞した。しかし大部分は、天使の服を着たピエロのようなもので、それが本当に変化を生むのかというと疑問が残るものだった。

「変化」についてもっと真剣に考えてもらおうと思い、この数年、カンヌライオンズに参加してきた。そして昨年ようやく、SDGs部門が設立されることが決まった。

3つの重要な審査基準

今年、カンヌライオンズSDGs部門の審査員に選ばれたことは光栄だった。世界中から800点以上の取り組みが集まった。応募作品に目を通して、期待と心底悲観的になる気持ちが入り混じった。

もちろん、なかにはスウェーデンのフィンテック「Doconomy」が開発したクレジットカード「Do Black」のように、カードを使い購入した商品の炭素排出量が上限に達するとカードの利用も制限されてしまうという、大量消費と気候変動の問題に取り組む、おもしろくて影響力のある解決策もあった。

しかし残念ながら、貧困や飢餓、安全な水と衛生といった重要な問題に対して、有効な解決策を示すものはなかった。

こういう分野でいい作品をつくることは、どのブランドや代理店、イノベーターにとっても大きなチャンスだ。

審査員として、私たちはどんな作品に賞を与えるかについて時間をかけて話し合った。最終的にたどり着いた3つの重要な基準が、「インパクト」「スケーラビリティ(拡張性)」「クリエイティビティ/イノベーション」だった。

新しく、革新的な解決策を見るのが好きだ。例えば、カールスバーグの「Snap Pack 」やコロナの「Fit Packs 」。6本入りの缶ビールパックをデザインや技術革新によって、プラスチック包装を使わずに一つにまとめられるようにした。

それから、ゼラチン入りの消費期限ラベル「Mimica Touch 」もだ。食品が腐ると、ラベルの触感が変わり、食品の本当の消費期限を知らせてくれて、食品ロスを防ぐことができる。こうして見てみると、パッケージの分野には今後さらなる創造力が求められていることが分かる。

変化を共に生み出す

今年のグランプリに輝いたのは、「The Lion’s Share(ライオンズ・シェア)」。UNDPと連携し、スニッカーズを販売する米マースなどが立ち上げた素晴らしいイニシアティブだ。

広告に動物を起用している広告主(割合としては2割以上いる)が、動物のモデル料として、広告費の0.5%を自発的に動物保護基金「The Lion’s Share基金」に支払い、絶滅危惧種や野生生物の保護、動物福祉の活動を支援するというもの。この優れたファンドレイジングの仕組みは、実際に地球にインパクトをもたらしている。

「The Lion’s Share」はグランプリを獲得しただけでなく、今回の応募者からも約3600万円を集めている。国連によると、地球上の10億以上の生物種が人間の影響によって絶滅の危機に瀕しているといい、こうした取り組みはとても意義のあるものだ。まだ参加していない広告主にもぜひ参加してもらいたい。

このほかに、心を動かされたものは「The Open Door Project(オープン・ドア・プロジェクト)」だ。インドの50以上の私立学校とNGOが連携して行う同プロジェクトは、校区内にいる教育を受けていない2500万人以上の貧困層の子どもたちに放課後の学校を開放し、教育の機会を与えるというもの。このプロジェクトは、世界の他の場所でも実施することができる「スケーラビリティ(拡張性)」がある。

同プロジェクトは、以下の2つの画期的な技術的な解決策と並んで金賞に輝いた。この2つは、全く異なる、まだ手の付けられていない分野において、課題解決のために大きな前進をもたらした。

BBDO Atlanta’s Gracie AI

(「Gracie」は子どもの人身売買を防止する技術。人身売買の防止のために活動するStreet Grace(米ジョージア州アトランタ)が企画した。AIを活用し、携帯電話などでの人身売買に関するキーワードを検知する。チャット画面に「会話はすべて記録されており、警察に送られます」という警告文が表示される。開発から5カ月で、全米25州78都市に利用が拡がった)

Morse code for Google’s gboard

(手足を自由に動かすことのできないタニア・フィンレイスン氏とグーグルが開発した、モールス信号を使ってグーグルに文字を読み込ませ、音声に変換し、会話ができる技術。さまざまな理由で話すことができない人たちにも役立つ)

ここまで見てきた技術は、ブランドや企業がまた初めからつくり直す必要のないものだ。すでに実績のある取り組みで、あなたが参加したり支援できるものはいくらでもある。

壁をつくるのではなく、橋をかける

ジェンダー平等や気候変動といった分野においては、多くの取り組みが釈迦に説法という印象で、残念だった。お金と労力の無駄遣いにも思えた。なかには、社会を分断するような取り組みもあった。

もし気候変動について現実をよく知っているのであれば、互いに責任をなすり付け合わないでほしい。もし、あなたが学校で数学が得意ならば、数学が苦手な同級生をいじめるのは恥ずべきことで、むしろ助けるべきだ。それと似たようなことが、応募作品にも見受けられた。

今つくるべきは、課題に対してポジティブで包括的な文脈であって、多くのブランドが行っている激しい言葉づかいや企業アクティビズムではない。もし、ある課題があなたの企業やブランドに身近なものならば、解決のために手を差し伸べる責任がある。

気候変動に関して言うならば、私たちが審査している間、気候変動対策の強化を求める英国発の市民運動「エクスティンクション・レベリオン」がカンヌライオンズのレッドカーペットの前で抗議を行っていた。メンバーの一人、ウィリアム・スキーピングはこうツイートしていた。

「広告産業のみなさんに気候変動と環境危機の真実を伝えてもらいたくてここまで来たけれど、用なしだという気にさせられ無力感を感じている」

広告産業は期待とプレッシャーを背負っている。SDGsは、人々をひとつにし、共通言語で話し、共通の解決策を見つけるためのいい機会を生み出した。しかし往々にして、取り組みはまだ表面的なもので、落とし込めていない。

私たちが関わる広告産業は生き残りを賭けた危機的な状況にいる。残念ながら、10億以上の絶滅の危機に瀕している動物たちとは違って、多くのブランドにはそれが消えてしまったからといって悲しむ人はいないし、マーケターが失業したところで気の毒に思ってくれる人なんていないのだ。

(翻訳=小松遥香)