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国際

1.5度目標の達成へ 世界の歩みを再び軌道に乗せるために――「2025年に主導的役割を果たすのは企業だ」

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世界中で気候変動の影響が深刻化し、各地で戦争や紛争が継続したまま、2025年がスタートを切った。来月には、各国が国連に、2030年に向けた新たな排出量削減目標を提出する方向で、脱炭素社会の実現に向け、まさに正念場の1年となる。しかしながら足元では、今月発足する第2次トランプ政権下で、米国が再びパリ協定から離脱することが濃厚であるなど、地政学リスクを含めた国際秩序の不確実性が極めて高い状況だ。

そんな2025年、パリ協定の1.5度目標の達成に向け、世界の歩みを再び軌道に乗せるために、企業に今、求められていることは何か――。グローバルコンサルファームのPwCが、グローバル企業の最高経営責任者らで構成する、インターナショナル・ビジネス・カウンシル(IBC)との共同で調査を行い、昨年12月に「エネルギー需要のトランスフォーメーション」と題して発表した結果の概要などから、そのヒントを探った。(廣末智子)

エネルギー需要を引き下げるために企業がすぐに始められる行動とは

・PwCと世界経済フォーラムのコミュニティの共同調査

「エネルギーシステムの変革が世界中で急速に進む中、人、社会、地球のいずれにとっても好ましい結果となるエネルギー転換を、あらゆる分野のリーダーたちが一丸となって加速させる必要がある。この変革を推進する上で主導的な役割を果たすことができるのは企業だ」

調査結果をまとめたレポートは冒頭でそう記し、企業に行動を促す。なぜなら、「現在の議論の多くはエネルギー供給量の増加が中心」であり、「エネルギー需要に対する取り組みはまだ十分に実行されていないのが現状」だから。そもそもその思いがIBCをエネルギー需要の在り方に関する集中的な調査・研究に駆り立てた原動力になったという(調査は2023年に実施)。

IBCは世界経済フォーラムのグローバル・インダストリー・コミュニティの一つで、合わせて、全世界の3%に相当するエネルギーを消費するグローバル企業の最高経営責任者らで構成する。調査は、そうしたメンバーのアンケート結果などに基づき、既存のテクノロジーの影響と、現在のエネルギー使用量の内訳などをベースとしたモデリング手法を通して、「エネルギー需要を引き下げるためにあらゆる企業が今日からでもすぐに始められる具体的な行動」を導き出すことを目的に行われた。

レポートは、調査の前提を、「エネルギー需要が減れば、温室効果ガス(GHG)排出量を抑えられ、エネルギーをこれまで入手するのが困難だった地域でもより容易に利用可能になり、加えて、経済生産高の拡大にも寄与する」と強調。モデリング手法を行った結果、各企業が2030年までに有効な対策を講じれば、「エネルギー消費量を最大で31%削減でき、(現在のエネルギー価格で)年間最大2兆米ドルの節約が可能になる」とする数値がはじき出されたという。

どの企業や国も、既存の手段を活用してエネルギー消費量を削減できる

そして、調査では「どの企業や国でも、既存の手段を活用してエネルギー消費量を削減できることを示す結果」が出た。世界は供給エネルギーの脱炭素化を目指しているが、レポートは、「需要と供給の課題に同時に取り組むことこそが、エネルギー問題の抜本的改善を実現するための最善の方法だ」と主張し、エネルギー消費量を削減すれば、世界のエネルギー需要を約3分の1減らせるだけでなく、同時に経済生産高を拡大させることも可能だと強調する。

「エネルギー消費量を抑える行動は今すぐにでも実行できる。それも多くの費用がかからないばかりか、そこから利益を生むことも可能だ」

続けてレポートは、そのような変化をもたらすための手段として、「エネルギーの節減」と「エネルギーの効率化」という極めて抜本的な方法に加え、「バリューチェーン・コラボレーション」の視点が不可欠だと指摘する。

要は、「どの企業も、サプライヤーやビジネスパートナーと直接協力しながらエネルギーの節減を進め、コストを削減することで、他社よりも先にネットゼロに向けた取り組みの成果を出し、競争力を一層高めることができる」という、シンプルな構図がそこにはある。

それらを踏まえ、レポートは、「エネルギー使用量の基準値を設定し、3つのレベル(エネルギーの節減、エネルギーの効率化、バリューチェーン・コラボレーション)の全てでエネルギー効率を高めるプログラムを策定する」「この活動と目標設定を、自助努力とサプライチェーンとの協力を含めて、総合的なエネルギー転換計画に組み込む」といった、具体的な方策を列挙。

その上で、「このようなエネルギー需要の変革に向けた“協調行動”は、企業の成長と生産性の向上を促し、パリ協定で定めた削減目標の達成に向けた世界全体の歩みを再び軌道に乗せることにもつながる」としている。

テーマは「インテリジェント時代における連携」――テクノロジーが世界の構造そのものを再形成しつつある

・世界経済フォーラム2025年の年次総会(ダボス会議)

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一方、毎年1月にスイス東部の保養地・ダボスで開かれる世界経済フォーラムの2025年の年次総会(通称ダボス会議)は、今年も1月20〜24日に開かれ、世界を代表する、官民両セクターのトップリーダーが一堂に会する。テーマは、「インテリジェント時代における連携」だ。

インテリジェントとは、AI や量子コンピューティング、ロボット工学などの急速な進歩によるテクノロジーを指す。そうした技術革新が加速度的に進み、あらゆるものをリアルタイムで変化させていく状況を、同フォーラムは、「これらのテクノロジーは融合して私たちの世界の構造そのものを再形成しつつある」と位置付け、今年の総会では、「この変革が社会を分裂ではなく発展に導くためには、テクノロジーが単に進歩するだけでなく、実際に人間の潜在能力を高めるものでなければならない。技術的インテリジェンスと並行して、環境的、社会的、地政学的インテリジェンスを開発することが不可欠だ」と問題提起する。

ここで言う、「環境的インテリジェンス」と「社会的インテリジェンス」、「地政学的インテリジェンス」とは、それぞれ以下のような意味合いで語られる。

環境的インテリジェンス=インテリジェント時代が気候変動および天然資源の枯渇を悪化させることなく、むしろ環境リスクを軽減し、より持続可能な経済の構築がしやすくなること
社会的インテリジェンス=テクノロジーが社会全体に与える影響を理解し、インテリジェント時代がさらなる分断や二極化ではなく、より大きな包摂性と公平性を確実に育めるようにすること
地政学的なインテリジェンス=テクノロジーがグローバルなパワーバランスとどのように交差するかを理解し、競争よりも協調を促すこと

技術的インテリジェンスに加え、上記3つのインテリジェンスが「インテリジェント時代における成功の基盤となる」と見定めた上で、同フォーラムは「この時代が、より平等で持続可能かつ協調的な未来につながるのか、あるいは、すでに存在する格差をさらに深めることになるのかを決定するのは私たちだ」と呼びかける。

深刻化する気候変動リスクに地政学的リスク……と先行きが不透明な2025年だが、そんな時だからこそ、企業が主導的な役割を果たし、新しい時代の可能性をしっかりとつかんで、人類全体の恩恵へとつなげていくよう行動することが求められている。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan編集局デスク兼記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。