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国際

今後10年間で起こりうるグローバルリスク 上位に環境リスクと感染症:世界経済フォーラム

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世界経済フォーラムはこのほど、世界の政府や企業など650の加盟機関・企業の意見を基に、世界が抱えるリスクをまとめた2021年度版「グローバルリスク報告書」を発表した。今後10年間で発生する可能性が高いリスクの1ー5位は、極端な気象現象、気候変動対策の失敗、人為的な環境損害、感染症、生物多様性の喪失。同じく10年間で最も影響の大きいリスクの1位は感染症、2ー5位は気候変動対策の失敗、大量破壊兵器、生物多様性の喪失、自然資源の危機だった。同フォーラムのサーディア・ザヒディ氏は「2006年から強調してきたパンデミックが現実になった。長期リスクに取り組む難しさは理解しているが、リスクを無視してもリスクが現実になる可能性が下がるわけではない」とし、長期的リスクに対応する重要性を認識すべきだと指摘している。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

昨年の報告書では「今後10年間で発生する可能性が高いグローバルリスク」の1−5位を環境リスクが占め、環境リスクの高まりが世界的な共通認識となっていることが記述された。今年、その中に割り込んだのが感染症の脅威だ。報告書は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、これまで長年にわたり積み上げてきた貧困や不平等といった分野の改善が後退し、社会の団結力や国際協調を弱体化させる恐れがあると説明している。実際、世界的な景気後退によって、極度の貧困状態で暮らす人口は2020年末に世界人口の8%に減るとされていたが、今回の報告書では逆に9.4%に増えるという。

「今後10年間で発生する可能性が高いグローバルリスク」トップ10

1位:極端な気象現象
2位:気候変動対策(緩和と適応)の失敗
3位:人為的な環境損害
4位:感染症
5位:生物多様性の喪失と生態系の崩壊
6位:デジタルパワーの集中(偏り)
7位:デジタル不平等
8位:国家間の亀裂・緊張の高まり
9位:サイバーセキュリティの失敗
10位:雇用や生活の危機

「今後10年間で最も影響が大きいグローバルリスク」トップ10

1位:感染症
2位:気候変動対策(緩和と適応)の失敗
3位:大量破壊兵器
4位:生物多様性の喪失と生態系の崩壊
5位:自然資源の危機
6位:人為的な環境損害
7位:雇用や生活の危機
8位:極端な気象現象
9位:債務危機
10位:ITインフラの故障

(以上のグローバルリスクは、環境・社会・経済・地政学・テクノロジーの5分野にわたる35のリスクから選ばれている。今回、デジタル不平等、若者の幻滅、社会的団結の崩壊の3つのリスクが新たに加わった)

短中期に目を向けると、今後2年以内に発生する可能性が高いリスクは、感染症を筆頭に雇用・生活の危機、極端な気象現象、サイバーセキュリティの失敗、デジタル不平等、長期化する経済停滞、テロ攻撃、若者の幻滅、社会の団結力の低下、人為的な環境損害と続く。3ー5年以内では、資産バブル、価格不安定、コモディティ・ショック、債務危機などの経済リスクが上位に並び、国家間の亀裂や紛争、ITインフラの故障やサイバーセキュリティの失敗などのテクノロジーリスク、資源の地政学的リスクが挙げられている。

不平等や分断がもたらすリスクと若者の幻滅

報告書は、不平等と社会的分断のリスクを強調する。コロナ禍で格差や分断がより鮮明となる中、セーフティネットや経済構造はキャパシティを超え危機的な状況にある。このまま経済的、社会的分断を解決する対策がとられなければ、人類の存続を左右する脅威「気候変動」への取り組みが遅れる可能性があると指摘している。さらに、コロナ禍でデジタル化が進む一方、デジタル格差の拡大が社会の分断を加速させているという。環境・社会・経済・地政学・テクノロジーといったリスクが複雑に絡み合う時代において、社会の分断がもたらす影響は深刻だ。分断を縮め、リスクを軽減できるかどうかは、ポストコロナの対策にかかっており、インクルーシブでアクセシビリティが確保された未来を実現していくことが必要だとしている。

懸念されるのは、若者の失望感だ。報告書はこのリスクに1章をさいて解説している。環境の悪化や長引く金融危機、時代遅れの教育制度、格差の拡大、産業構造の変化といった複雑で先行きが不透明な時代に育った若者は、コロナ危機によって就職氷河期など機会損失のあおりを受け、二重の混乱に巻き込まれている世代だという。ランキングのトップ10にこそ入ってはいないものの、「広がる若者の幻滅」が短期的には重大なリスクになると指摘する。

グローバル経済は、コロナ危機によって保護主義や技術革新、社会構造の変化といった昨今の潮流が新たな局面を迎え、さらに混乱を極めている。企業は感染拡大による影響を受けまいとする中、硬直や後退、創造的破壊の加速というリスク、淘汰に直面。報告書は、優柔不断なリーダーシップや誤ったリーダーシップがこうした状況を悪化させ、グローバル経済に波紋を広げ、壊滅的な結末を迎える可能性があると忠告する。具体的なリスクとしては、先進国の経済の停滞、新興国・発展途上国市場の拡大可能性の喪失、中小企業の倒産、大企業と中小企業の格差拡大、市場のダイナミズムの低下、不平等の拡大、そして長期的で持続可能な開発を達成することが困難になるなどの可能性がある。将来的にビジネス環境が大きく変わることが予測される中、企業が潜在的なリスクを回避しようと取り組むことは、長期的な持続可能性とレジリエンスを維持する上で非常に重要になる。

報告書は、こうした中であっても長期リスクで最も深刻な環境リスクに短期的に取り組まなければ、環境の悪化と社会の分断が交錯し、重大な結果をもたらすことになると警鐘を鳴らしている。

例年であれば1月に開催される世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)。今年は1月25−29日までオンラインで「ダボスウィーク」が行われ、5月にシンガポールで総会が開催される予定だ。

調査対象者の属性

調査に回答したのは、企業や政府機関、NGO、学術機関など。性別では男性73.3%、女性23.8%、それ以外2.9%。年齢では40ー59歳が最も多く、地域では欧州が46.1%を占め、北米、東アジア・太平洋地域が続く。