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事業変革を成し遂げる人的資本経営とは――人財の “未来予想”が鍵に

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SB国際会議2024東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

2030年や2050年の中長期的なビジョンに向けて、企業が新たな価値を創出していく上で、いかに「人」を育成し、そこに投資していくかが問われている。本セッションでは、先進企業2社の試みと、経営コンサルの知見をもとに真の「人的資本経営」のヒントを探った。そこから見えてきたのは、事業変革を成し遂げるには、どんなスキルを持った人がどれだけ必要なのかという、人財の“未来予想”をまずは描き、社員一人一人との対話を強化していくことの重要性だ。(依光隆明)

ファシリテーター
田中信康・SB国際会議ESGプロデューサー
パネリスト
川田辰己・住友林業 代表取締役 執行役員副社長
久保田勇輝・アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル
村上久乃・ベネッセホールディングス 執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer) 人財・総務本部長

初めに、ファシリテーターの田中信康氏が「2023年3月期から開示が義務化されてはや1年がたった。人的資本経営は次の時代を担う重要課題の一つだ。ビジョンあるいはパーパスに人的資本をどう連動させるのか」と問題を整理。先進的に取り組む2社から事例を聞いた。

村上氏

ベネッセホールディングスの村上久乃氏は、2022年時点で事業収入の98%を教育と介護が占める同社が、大学生や社会人を対象とする事業などによる「新領域」に力を入れ、その収入割合を2028年に向けて30%にまで伸ばす目標を掲げていることを報告。「今はたった2%に過ぎないこの新領域を5年で3割に持っていくのは大きな挑戦。一歩一歩積み上げても到達できず、バックキャストで考えなければならない」と説明し、そのために「マネジメントのすべてを大きく変えよう」としていることを明らかにした。

事業ポートフォリオを変革するには、人財のポートフォリオも大きく変えなくてはいけない。村上氏は、「一番変えようとしているのは社員と会社の関係」として、「社員一人一人が伸びていきたい方向と会社の方向が合うポイントをすり合わせながら、互いが選び、選ばれる関係に変えていく。社員の成長が事業の成長につながる未来をつくる」と強調し、具体的には職種の分類やスキルの可視化などに取り組んでいることに言及した。

川田氏

次に、住友林業の川田辰己氏は、同社の2030年を見据えた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」の中心となる「ウッドサイクル」を紹介。「森林の保有面積を2030年には国内外で50万ヘクタールにまで増やし、そこから国産材100万立方メートルを伐採・加工、年間5万戸の住宅を建築し、供給する。さらにバイオリファイナリーや再エネにつなげる」という循環型森林ビジネスを加速させているという。

その上で川田氏は、「このウッドサイクルを回すエンジンは人材以外にない」と力を込め、「事業の変革と創造を担う人材の確保・育成」と「社員のパフォーマンスを最大化する仕組みと自由闊達(かったつ)な企業風土」、そしてそれらのベースになる「健康経営の推進」の3つを柱に取り組み、今年1月には高度専門人材を採用するための特別加給制度やプロフェッショナル制度の導入に踏み切ったことを報告した。

そうした取り組みを進める中では、「上司のマネジメントスキルをどう上げるか」「皆が自由に意見を出し、イノベーションにつながっていくような組織風土をどうつくるか」といったところに大きな課題を感じているようだ。

“DX人材”を1000人雇ったところで、DXができるわけではない

久保田氏

一方、アビームコンサルティングの久保田勇輝氏は、最初に、20年以上、“人事コンサルティング”に携わってきた立場から、ここ数年の人材確保を巡る変化を「人事コンサルの枠を超えていかないと、クライアントの支援ができないほど、複雑化してきた」と指摘。

世界のCEOの考える優先課題は、「成長が49%、テクノロジーが34%、従業員が32%」とする数字を示した上で、「DXの推進によって生産性を高めるとともに、人材に対して投資をし、その人たちの力を最大限に発揮しないと、事業ポートフォリオの変革はできないという認識が(世界のCEOの考えの)中核にある」と述べた。

さらに久保田氏は、「“DX人材”を1000人雇ったところで、DXができるわけではない。どういった人材が何人必要なのかといったところまで議論をしないと、価値向上には至らない」と強調。いま、人材確保に必要な視点は、「事業戦略が5年後、10年後どうなるか、どんな人がどれだけ必要か」という“未来予想”の解像度を高め、「人材を量ではなく、質で捉えることだ」という。

ここで田中氏が会社の事業戦略と社員一人一人の方向性をいわば、すり合わせていくことの難しさに触れ、「浸透させていくにはすごく時間もかかる。悩みもあるのでは?」と2社に問いかけた。

これに対し、川田氏は「社員満足度調査の結果、8割が満足しているという結果が出ても、一人一人が満足しているかどうかは分からない。マネジャー層が丁寧にコミュニケーションを取っていくしかない」、村上氏も「組織の変革には管理職層の変革が肝」とした上で「一人一人がやってみたいこととできること、周囲から見たその人の特性、そして会社の目指す方向性を対話しながら、認識を合わせていく。人事としてもそこをサポートする仕組みを喫緊に強化していかねばならない」と答えた。

人的資本の強化を図りながらパーパスの実現を目指す、ベネッセの試みは、始まったばかりだ。村上氏は「(社の期待と自分の希望が)ドンピシャではないという社員も会社にとってはとても重要なメンバー。本当にミクロで向き合い、それを繰り返して方向転換していく」と語り、田中氏は「非常にチャレンジングな目標だ。期待している」とエールを送った。

依光 隆明 (よりみつ・たかあき)

高知新聞、朝日新聞記者を経てフリー。高知市在住。環境にかかわる問題や災害報道、不正融資など社会の出来事を幅広く取材してきた。2023年末、ローカルニュースサイトを立ち上げた。