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水素活用は脱炭素の「切り札」、川崎重工業が水素社会づくりに貢献

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SB国際会議2024東京・丸の内

Day1 プレナリー
山本滋・川崎重工業 執行役員 水素戦略本部 副本部長

2010年から川崎重工業(以下、川崎重工)は次世代エネルギーとして「水素」に着目し、水素の製造・運搬・利活用を模索してきた。水素は利用時にCO2を出さない究極のクリーンエネルギーだと言われている。そのような水素を「脱炭素化への切り札になる」と同社の山本滋氏は語り、水素社会を確立するためには、川崎重工が挑む「水素の安定供給」に加え、多くの人が「水素を活用すること」が必要だと訴えた。

2017年に日本は、世界で初めて水素に対する国家戦略「水素基本戦略」を発表し、世界の水素活用をリードしてきた。しかし実はそれよりも早く、川崎重工は水素を「化石燃料に代わるエネルギーとして活用できないか」と取り組み始めた。

開発中の液化水素運搬用、超大型タンカー(当日資料より)

セッションの冒頭で、山本氏はスクリーンに超大型タンカーを映し出し「2030年頃の実用を目指して、川崎重工が設計・建造を進めている300メートル級の『水素を運ぶ船』だ」と紹介した。一度に運搬できるのは約1万トンもの液化水素。これを軸に「海外で大量に製造した水素を日本に運び、利用する」という国際サプライチェーン構想を同社は掲げている。そしてこれをもって日本の水素社会づくりに貢献するという。

なぜ川崎重工は水素社会の実現に取り組むのか

近年では「次世代エネルギー・水素」という言葉を耳にすることも多くなった。しかし実際にはどれだけの人が水素を正しく理解しているだろうか。山本氏は水素の大きな特徴を、「地球上で最も軽く、豊富に存在し、無色・無臭・無毒な気体であること」だと説明する。また、「利用時に水しか出さず、CO2を出さない」「どこにでもある水や石油、天然ガスなどの化石燃料から安定的につくることができ枯渇の心配がない」「貯蔵し運ぶことができる」という性質を持つこと、だからこそ、「安全かつ安定的供給が可能なエネルギーとして、脱炭素化に期待が寄せられている」と山本氏は話した。

(当日資料より)

日本は、山本氏が説明したような水素の特徴を踏まえ、次世代エネルギーとして水素の国内活用を掲げてきた。2023年には水素基本戦略を改訂し、水素導入目標を2040年までに年間1200万トン(現在の6倍相当)に設定。官民合わせて今後15年間で15兆円の大型投資を行う計画だ。

「今回の改訂で、2050年には年間2000万トンの水素導入が目標になった。これを叶えるには国内製造だけでなく国外からの輸入水素が必要になる。そこで役立つのが当社の水素運搬技術。ここには100度のお湯が1カ月経っても1度しか下がらない真空断熱技術をフル活用している」と山本氏は言う。

水素はマイナス253度まで極低温化すると体積が800分の1になる。真空断熱技術を導入したタンカーは、効率のよい水素運搬には必要不可欠だ。すでに同社はパイロットプロジェクトとして、世界で唯一の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」(大型タンカーの約130分の1サイズ)を建造し、2022年2月に、オーストラリアで製造した水素を日本に運ぶことに成功。世界から注目を集めている。

※ 川崎重工を含むHySTRA(技術組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構)がNEDO助成事業として実施。 (NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

「今後は船をはじめ陸上運搬するタンクを大型化し、大量の水素を運べるようにしていきたい。それをもって日本の水素活用を支え、水素社会の実現を牽引していきたい」と山本氏は意気込んだ。

水素活用の鍵を握るのは、水素の使い手である私たち

水素の活用は水素発電を中心に、すでに販売されている水素で走る車(水素モビリティ)、そして飛行機などの大型モビリティ、バイクなどの小型モビリティへの展開が期待される。同社では率先して水素発電を利用するだけでなく、水素発電用のガスタービンを開発販売するなど、より多くの企業がスムーズに水素発電へと切り替えられる道を切り開いてきた。

(当日資料より)

「私たちは『つくる・はこぶ・ためる・つかう』水素のサプライチェーンを作り、日本の水素社会実現に力を尽くしてきた。まもなく大量の水素が日本で供給される日が来るが、それだけでは水素社会は確立されない。誰もが当たり前のように水素を使うからこそ水素社会は成り立つ。水素の使い手は皆さん一人一人です。企業の脱炭素経営に水素という選択肢があることを、ぜひ覚えておいてほしい」と山本氏は会場に力強く呼びかけた。

地球温暖化を防ぐために、新たなエネルギーの選択は、地球の未来を決める大きな一手となる。だからこそ一企業、一個人が真剣に向き合わなくてはならないのだと、改めて感じる一幕だった。(笠井美春)

笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。