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  • 公開日:2023.04.10
  • 最終更新日: 2025.03.28
脱炭素の実現へ トランジションを加速するソリューションビジネス
  • 環境ライター・箕輪 弥生

SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 ブレイクアウト

2050年の実質排出ゼロ経済の実現に向けて、各業界でトランジションを加速するソリューションビジネスが活発になってきている。脱炭素までの移行期間にはさまざまな課題が横たわるが、そこには大きなビジネスチャンスもある。いち早くこの分野を手掛ける3社が、それぞれの脱炭素への手法を紹介すると共に、現状の課題を議論した。(環境ライター 箕輪弥生)

ファシリテーター
川村雅彦・サンメッセ総合研究所所長/首席研究員
パネリスト
柏原宏行・川崎重工業 水素戦略本部 カーボンニュートラル推進総括部理事 総括部長
谷川圭史・日揮ホールディングス 執行役員 サステナビリティ協創部
角田真一・みずほフィナンシャルグループ サステナブルビジネス部 部長

液化水素の供給チェーンの確立を図る――川崎重工

柏原氏

川崎重工が進める脱炭素へのソリューションは水素だ。水素発電を軸とした取り組みによって2050年にはグループ全体の脱炭素を目標に掲げる。

水素は太陽光、風力、水力、そして褐炭と呼ばれる未利用の石炭など、再エネから化石燃料まで、さまざまなリソースから調達することができる。同社の柏原宏行氏は、「紛争が起きた時でも水素はさまざまなリソースを使えることが、エネルギーセキュリティの面で優位だ」と説明する。

同社は液化水素の形にしてタンカーで運ぶ技術実証実験をすでに終え、2030年代の商用に向けて設計を進めている。

これにより液化水素の供給チェーンの確立を図り、自社をモデルとして他社への供給をスタートする計画だ。さらに同社は、液化水素のサプライチェーンの確立だけでなく、CO2を分離回収する仕組みも開発し、脱炭素を加速させる意向を持つ。

協創と伴走によるエコシステムを構築――日揮ホールディングス

谷川氏

一方、日揮ホールディングスは、顧客の脱炭素トランジションに向けて環境負荷を低減するプラントや設備の建設、資源循環、バイオ素材などの技術を提案する。

具体的には、デジタル技術を活用した、熱需要に応じた熱供給設備の運用や国内産バイオメタン製造の事業化、再エネ発電事業、中古EV蓄電池活用による再エネ電力供給などさまざまな脱炭素へのソリューションを顧客に合わせて提案している。

昨今では、航空機業界を脱炭素化するための国産SAF(持続可能な航空燃料)の開発や普及に向けた関係団体「ACT FOR SKY」の旗振り役も務める。

日揮ホールディングスの谷川圭史氏はこれを「協創と伴走によるエコシステム構築」と表現し、「これまでの枠組みを超えた連携が重要になってきている」と指摘した。

しっかりとファイナンスサポートをしていく――みずほフィナンシャルグループ

角田氏

続いて自社の取り組みをプレゼンしたみずほフィナンシャルグループの角田真一氏は、金融における脱炭素へのトランジションでは「サステナブルファイナンス」がキーワードだと言う。

その中でも、2050年の脱炭素をどのようなアプローチで実現していくのかをしっかりと審査してファイナンスを実行する「トランジションファイナンス」が今の日本には最も必要だと指摘する。

そこでは、知見や経験を総動員しながら、事業の初期段階からあえて融資し、「トランジションストーリーをお客様と議論してしっかりとファイナンスサポートしていくことが重要だ」と、角田氏は強調した。

いかに技術を実装化し、企業価値を高めていくか

川村氏

3社が行う移行期のソリューションビジネスには現状、どのような課題と問題点があるのだろうか。セッションの後半、ファシリテーターの川村雅彦氏が各氏に質問を投げかけた。
これに対し、川崎重工の柏原氏は「水素チェーンを構築しようとしているが、再エネからのグリーン水素だけでは実質的に足りない。移行期ではブルーやグレー水素を含め、徐々にグリーンにしていくのが現実的だ」と原料の調達が課題とされることに言及。日揮ホールディングスの谷川氏は「同業他社の動きを見て決める企業が多く、動きが鈍い」と企業の取り組み姿勢に関する課題を指摘した。

一方、みずほフィナンシャルグループの角田氏は金融の立場から「脱炭素計画をどう評価するかがポイント。前提となる技術が本当にものになるものかどうかをどこかで判断しないと融資できないが、その与信判断能力をいかに高めていけるかが最大の課題だ」と話した。

こうした意見を踏まえ、川村氏は「トランジション期間にいかにビジネス化していくか、2050年までの30年間で技術を実装化し、利益を出せるようにして企業価値も高めていくのは簡単ではない」と企業の本音をとらえて発言。一方で今後は「協創」がテーマとされることから、「従来の日本企業の考え方が変わり、脱炭素に限らず、新しいビジネスのやり方が出てきているようだ」と期待を述べてセッションをしめくくった。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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