ウェルビーイングはSDGsの難問を解けるか
SB国際会議2023東京・丸の内
(左から)岡山氏、奥氏
|
Day1 ブレイクアウト
生活の豊かさや幸福度を意味するウェルビーイング。SDGsの目標3は「すべての人に健康と福祉を」と訳されているが、英語版では「Good Health and Well-being」であり、SDGsにウェルビーイングが組み込まれていることがわかる。本セッションは、SDGsの核心である持続的成長とウェルビーイングはどのような関係にあるのかをひもとき、ウェルビーイングはSDGsが抱えている難問を解決することができるかを信頼できるエビデンスに基づいて検証。さらに歴史を振り返り「日本流のサステナブルウェルビーイング」を探った。(岩﨑 唱)
ファシリテーター
岡山慶子・朝日エル 会長
パネリスト
竹上真人・松阪市 市長
三井高輝・松阪市 政推進会議 委員
奥 正廣・日本創造学会 評議員(元理事長・会長)/東京工科大学名誉教授
ウェルビーイングをSDGs達成の指標に
ファシリテーターの朝日エル 会長の岡山慶子氏は、冒頭で、「今やSDGsの認知はとても高まっている。一方、ウェルビーイングは、平成23年度から教育振興基本計画の中でも取り上げられ、各企業でもさまざまな取り組みが行われている。このSDGsとウェルビーイングは、どのような関係にあり、お互いに調和することができるのだろうか」と疑問を投げかけた。
日本創造学会 評議員の奥 正廣氏は、「ウェルビーイングでSDGsの難問を解決できるかというと、できないというのが答え」とし、「なぜなら、持続可能な成長の根底には自然科学的な熱力学の問題があり、ウェルビーイングのような主観や心理の問題ではないからだ」と説明。一方で、「SDGs達成の指標は、GNP(国民総生産)ではなく、ウェルビーイングにすることが重要」だと指摘した。
科学的事実と歴史から学ぶサステナブルウェルビーイング
奥氏は「SDGsはイノベーションによって達成できると考えられているが、そうではない。持続可能な成長は、自然科学の熱力学的な制約に関係する」と述べ、石油資源に頼らざるを得ない現在の社会に対する警鐘を鳴らし、十数年後を見据えた実行可能で持続可能な文化・文明の再構築の必要性を訴えた。
さらに、ニコラス・ジョージェスク=レーゲンが『経済学の神話―エネルギー,資源,環境に関する真実』で挙げている持続可能性の4条件や、加藤尚武の環境倫理学の3原則などを紹介し、「物質生産、消費、廃棄を減らして、生きがいのある生活様式を構築することが課題」と強調。また、渡辺京二の『逝きし世の面影』では、江戸時代後期から明治時代初期に日本を訪れた欧米人が日本庶民の生活を見て、驚嘆・賞賛していることを紹介した。奥氏は「江戸時代には、サステナブルでウェルビーイングな生活があったのではないか」と述べ、そこに日本流サステナブルウェルビーイングのヒントがあると主張した。
人材育成と人材登用に配慮してきた三井越後屋
次に、サステナブルでウェルビーイングな街づくりを展開している三重県松阪市市長の竹上真人氏と松阪市政推進会議で委員を務める三井高輝氏がオンラインで登壇した。竹上市長は、三井グループ創始者の三井高利や『古事記伝』を著した本居宣長、北海道の名付け親でアイヌ民族を守るために尽力した松浦武四郎など、松阪が多くの偉人を輩出していることを紹介し「松阪は徳川御三家の一つである紀州藩の飛び地(地理的に分離している領地)であり、武士階級ではなく町年寄と呼ばれる町人が町を治め、自由闊達な雰囲気があった」と述べた。
三井氏は、「三井越後屋の創業は350年前、これだけ長期にわたって企業として継続・発展できたのは、人を大切にしてきたため」と述べ、人材育成と人材登用に配慮してきた点を指摘した。また、当時は商人同志が競争相手ではなく同郷の仲間同士として助け合っていた事実を挙げ、その根底には町の商人が政治を動かしていた松阪のオープンマインドな気風が関係しているという。
日本流サステナブルウェルビーイングとは
(SB国際会議資料より)
|
岡山氏は「日本流サステナブルウェルビーイングは、一人ひとりがどう生きるべきかを考え、他者をどう考えるかがスタートだ」と述べた。奥氏は「江戸時代後期は、土地開発や食料生産は限界に達し、人口は3000万人ぐらいで安定していた。人々は、いかに平和で持続可能な社会を維持し、かつそれぞれの職分(士農工商)の生活の中で生きがいを見出すかが問題になっていて、それなりに高いウェルビーイングを実現していたと考えられる」と説明した。
岡山氏は「私たちは江戸時代に戻ろうと言っているのではなく、そこにあるエッセンスを科学的に見ることで、ウェルビーイングとSDGsを両立させる答えが見つかるのではないかと考えている。日本のそれぞれの土地や、企業、教育機関などに素晴らしい事例があり、それらを共有していくことが、今私たちが考えているサステナブルウェルビーイングに大切なことだ」と結論づけた。