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2030年のネイチャーポジティブ実現へ新たな「生物多様性国家戦略」が決定 30by30など『あるべき姿』と『なすべき行動』を示す

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30by30を達成するためには国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上が不可欠とされる。写真は環境省HP「知床国立公園」のフォトアルバムより「向かってくるヒグマ」

2030年のネイチャーポジティブの実現に向けたロードマップとなる「生物多様性国家戦略2023―2030」が3月31日、閣議決定した。昨年12月に開催された生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)で採択された新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえた我が国における基本計画で、生物多様性の損失と気候危機の2つの危機への『統合的対応』を強め、陸域と水域のそれぞれ30%以上を保護する国際目標である30by30(サーティ・バイ・サーティ)の達成を目指している。この取り組みによってネイチャーポジティブの駆動力となる『自然資本を守り活かす社会経済活動』を推進することなどが一部の具体的な数値目標とともに盛り込まれている。(廣末智子)

新戦略は、ネイチャーポジティブを日本語で『自然再興』と位置づけ、2030年に向けて、「生態系の健全性の回復」「自然を活用した社会課題の解決」「ネイチャーポジティブ経済の実現」「生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人ひとりの行動変容)「生物多様性にかかる取組を支える基盤整備と国際連携の推進」の5つを基本目標に設定。それぞれの目標の下に、『あるべき姿』とされる3つずつの伏線目標と、『なすべき行動』とする行動目標を4〜6つずつ定めた。

例えば基本目標のうち「生態系の健全性の回復」では、『あるべき姿』として、「全体として生態系の規模が増加し、質が向上すること」「種レベルでの絶滅リスクの低減」「遺伝的多様性の維持」を、『なすべき行動』としては「陸域および海域の30%以上を、保護地域とOECM(Other Effective Area-based Conservation Measures、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域のこと)によって保全するとともに、地域の管理の有効性を強化する」「土地利用および海域利用による生物多様性への負荷を軽減することで生態系の劣化を防ぐとともに、既に劣化した生態系の30%以上の再生を進める」「汚染の削減(生物多様性への影響を減らすことを目的として排出の管理を行い、環境容量を考慮した適正な水準とする)や、侵略的外来種による負の影響の防止・削減(侵略的外来種の定着率を50%削減等)」といった6つを示している。

5目標で計25の『なすべき行動』については、それぞれの行動ごとに、関係府省庁の具体的施策を網羅的に記載し、そのうち可能なものについては関連する指標の現状や数値目標を明記した。例えば、30by30を達成するためには国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上に加え、OECMの設定・管理を進めることが不可欠であることから、現在、民間の取り組みにより生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として 2023 年度中に全国で100カ所以上認定し、可能な限り多くの認定地を確保することで、現状は20.5%にとどまっている「陸域における保護地域およびOECMの占める割合」を2030年には30%にまで増やすことなどが重点目標として記されている。

生物多様性国家戦略の附属書「30by30ロードマップ」のイメージ図

さらに政府は本戦略の附属書として「30by30ロードマップ」を発表。『キーメッセージ』として、▷あらためて「2030年までに陸と海の30%以上を保全し▷生物多様性の損失を止め、人と自然の結びつきを取り戻す▷地域の経済・社会・環境問題の同時解決につながるNbS(Nature-based Solutions)のための健全な生態系を確保する基盤的・統合的アプローチを掲げ、「国や地域、事業者、そして一人ひとりの力を結集する」と強調している。

WWF「より大局的に省庁横断でネイチャーポジティブの達成を」

一方、今回の国家戦略について、WWF(世界自然保護基金)ジャパンは、「日本政府が、タイムリーに策定し、2030年に向けたネイチャーポジティブを、明確に国家目標として位置づけた点、そして、30by30など個別分野での具体的な数値目標も定める努力がされた点は歓迎したい」とする一方で、15の『あるべき姿』と、25の『なすべき行動』について、「ほとんどが、国内に焦点を当てたものであり、日本および日本企業が取引を通じて海外に対して与えている影響やフットプリント(環境に与える負荷)に着目した目標が少なく、具体性に乏しい」と指摘。

その上で日本政府に対し、「30by30のような野心的な目標を単なる数字上の達成だけでなく、実質的な生物多様性回復に貢献するものとして達成していくために、今後は環境省の政策としてだけでなく、より大局的に省庁横断でネイチャーポジティブが達成されるよう、国内の開発行為や都市計画、農林水産業、自然由来のコモディティ取引、希少野生動植物の適正な流通管理などあらゆる面にネイチャーポジティブの概念が反映されていくことを期待したい」とするコメントを発表している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。