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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

自らを犠牲にしても他人の幸福を考え行動する『利他主義』は私たちのDNAに深く刻まれている――SB創業者コーアン・スカジニア

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 プレナリ―

コーアン・スカジニア・Sustainable Brands Founder & Chief Executive

今年のSB国際会議のテーマであった「RECENTER & ACCELERATE(リセンター・アンド・アクセラレイト)」。端的にいうと、「自らを見つめ直し、地に足をつけ、新たに加速する」ことへの決意を込めたこの言葉を通じて、グローバルのSB創設者であるコーアン・スカジニア氏は私たちにいま、何を伝えたかったのか――。今回、残念ながら来日は叶わなかったものの、米国からオンラインで初日のプレナリ―に登壇した同氏の言葉を振り返る。

セッションの冒頭、「コロナ禍は落ち着いているものの、もっと大きな劇的な変化が毎日のように起こっている」として、火災や洪水、飢饉など気候変動による災害が世界中で頻発している現状に言及したスカジニア氏。その原因を「京都議定書が交わされた1997年には分かっていたことであり、その以前から大気中の炭素の水準が増えていたにもかかわらず、早くに行動しなかった結果」であり、40年以上にわたり、「地球が補充できる倍のペースで、依然として経済のために資源の消費を行っているためだ」と指摘した。

「木材も鉱物も魚も鳥も動物も植物も砂も。地球が提供しているあらゆるものを我々は消費してしまっている。その過剰な消費と、そして気候変動のために汚染が発生し、植物および数多くの動物の種が絶滅している」

そう続けたスカジニア氏は、昨年12月にカナダ・モントリオールで開かれたCOP15で、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、1100万種の生物が絶滅に瀕し、自然と生物多様性の損失が進む地球の今の状況を『究極的に言えば、人類は自滅へと向かっている』といった意味合いの発言をしたことを例に挙げ、「私たちはますます地球の劣化を意識し、その結果生じた不平等に恐怖を感じるようになっている」と不安をあらわにした。

さらに、そうした不安や恐怖が蔓延すると、独裁主義が幅を効かせるようになり「自由と民主主義をも脅かされることになる」と指摘。「私たちは毎日このような状況が世界で起こっているのを目にしている。世界中の人たちが今、地球の状況が悪化していると感じ、絶望感を持っているでしょう」と続けた。

しかし、そこまで話すと、スカジニア氏は語調を転じ、「今の絶望的な状況は予想できたことであり、過去200年の繁栄を実現してきた経済の原則が私たちの破滅につながっている」と強調、そして「恐怖に負けることは敗北を意味する」と顔を上げた。

そこにはどんな困難にあっても、グローバルコミュニティとしてビジネスとブランドを成功させるために、もう20年近く『勇気ある楽観主義者』として行動を続けてきたサステナブル・ブランドを牽引するスカジニア氏だからこその矜持がある。

「私たちは、環境と社会のイノベーションを中核に据え、ブランドの影響力を活用し続けることで、社会の一人ひとり、社員やサプライヤー、そして顧客がより持続可能なライフスタイルを実現する方法を学んでいく手助けをしていく必要があるが、そうでなければ私たちがこの地上で繁栄するために必要とするすべてのものを破壊してしまうことにつながるのではないでしょうか?」

そう訴えたスカジニア氏は、進化生物学者のデイビッド・スローン・ウィルソン氏が著書の中で、地上の生物の間には、自分を犠牲にしても他人の利益や幸福を考えて行動する『利他主義』が存在すると記していることに言及。「協力、協調、利他主義は私たちのDNAに深く刻まれている。実際にそれが人類を導いてきたのです」と力を込めた。今回のテーマである「RECENTER & ACCELERATE」の意味も実はそこから来ているのだという。

「私たちが生き残り、繁栄しながら望む未来を創造していくためには、そのような人間の深い能力を保ち続け、育てていくことが大切です。歴史の中のこの瞬間、私たちは立ち止まり、自分たちの内にある力強さと再びつながらなくてはいけません。それは私たちの存在を遥かに超える大きな存在です」

私たちの存在を遥かに超える大きな存在とはなにか――。すなわちそれは自然そのものであり、息子が東北大学で物理学と哲学を学ぶなど日本と造詣の深いスカジニア氏は、美しい自然や禅の思想など、日本には「世界が忘れている美と自然に対する感謝の気持ちがある」と強調した。氏の持つ『日本人観』とは「ときにはじっと座って自分たちの健康と幸福のために自然とつながる時間を持つ必要があること」を、そして、「自然を敬うことは自分自身を敬い、大切にすることであること」をよく知る人たちだ。

最後にもう一度、「恐れ」という言葉について触れ、「ビジネスを違う角度から見ることへの恐れ、ゲームのルールから外れて仕事をすることへの恐れ、そして変化への、失敗への恐れ。そうした恐れのために勢いをそがれてはいけません」と力を込めたスカジニア氏。

人類のリジェネラティブ(再生可能)な未来に向けて、「一人ひとりのパーパス、心と魂を大切にし、誰もが子どものころに抱いたあの不思議な感覚、自然に対する畏敬の念を思い出しましょう。自然と調和する道を探り、自然との健全な交わりを取り戻すことで豊かな未来への道を見出すことができると信じています」と語り、セッションを締めくくった。(廣末智子)

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。